万能は全能に非ず
「レイリー様、筋肉疲労による体温上昇が見られます。少し休憩してはいかがでしょうか?」
「……うん、そうしようかな。」
レイリーは今、ザリフ森林を抜けるべく山賊の元拠点を離れて、アイリスのナビゲーションに従ってひたすら歩を進めていた。
道中には一切魔物などは出現せず、道無き道を整備しながら先導してくれているアイリスが、察知して避けてくれているのだろうかと思考を巡らせる。
目覚める前から思っていた事ではあるが、少し聞きにくかったことを休憩の際聞いてみることにする。
「もしかしてアイリスってさ、俺のスキルなの?」
教え導く神の声というのが彼女だと言うなら発動条件や名前を知らなければ使えないというのは頷けた。それに現にレイリーを教え導いてる彼女をそう思ってしまうのは無理もない話だった。
「はい。」
その通りだった。
「何でスキルが意志を持っているの?」
「それは人間をベースにレイリー様に付き従うという明確な目的の元作られたスキルだからです。レイリー様が魂となり天界を彷徨っている時に神に発動許可を頂きましたので顕現しました。レイリー様の肉体を再生する際に自分の肉体を得ればより円滑な補助が出来ると判断し受肉を決行しましたが、今の私の肉体は人間と構成情報が一緒なので、生命活動に重大な支障がある欠損を一度に受けた場合死に至りますのでお気をつけ下さい。因みに私の発動可能回数は一度なので次に死亡した際は転生先の選択等のサポートは出来ませんのでご注意下さい。」
前世で発動できなかったのはこうなる事を予想してだろうか、と神の考えを測ろうとするが、考えれば考えるほど分からなくなってきたので思考を放棄する。
「あの、自我っていうか…心とかってあるのかな?」
「受肉してからは仕える喜び、という感情が左胸、心臓の辺りから動悸のような症状で現れてます。」
つまりは人間と同じ体の作りだから感情とかが芽生えてるって事かな。胸とかいきなり触ったら怒るかな?などと煩悩丸出しの思考が一瞬頭を過るので、頭を振り煩悩を追い出す。
「じゃあ俺のサポートをしてくれるお手伝いさんって認識で良いかな?」
「はい。」
「さっき重大な欠損を一度に受けるとって言ってたけど、それ以外は大丈夫なの?」
「はい。四肢を欠損しても再生出来るだけのストックがあります。」
「成る程、ストック………えっ」
それって小屋で見た山賊の死体だろうか。辺りに散乱する山賊の死体が気持ちが悪いと告げたら「畏まりました。」と言って一瞬で消し去ってたけど、まさか自分の体のストックにしてるのか?とレイリーは少し身震いをした。
無論聞く勇気は無かった。
「えっと、俺の体って身体能力が結構高いのかな?」
地球にいた頃とは比べ物にならないのは勿論、小屋から出て休憩する迄に足場の悪い獣道を十時間も通しで歩いているので、前回の体のより長時間連続で運動出来るのでは?と思い至り聞いてみる。
「通常のこの世界の人間よりは高水準です。転生時にスキル暗殺者も取得していますし、魔術回路も同期していますので、前回の体より強靭な肉体になっています。」
「魔術回路…?同期……?暗殺者?」
「魔術回路とはこの世界の人間が呼ぶ魔力というものです。暗殺者とは暗殺術、隠密術、索敵術が使えるスキルです。」
「え!?マジっすか!?」
コクリと頷くアイリスを見ていてもたっても居られなくなったレイリーは直ぐに立ち上がり目の前に広がる獣道に向けて魔法を放つ。
「【切断しろ 無数の 鋭利な 風の 刃】!」
すると鬱蒼と生い茂る木々がレイリーから放たれた暴風により地面ごと綺麗に切り散らされる。魔法を放った軌道上はまるで鏡のように表面を整地された地面が真っ直ぐ伸びていた。
「お、おおお……!」
また一から鍛え直さなければいけないと思っていた魔法が普通に使える事に感嘆の声を漏らすレイリーは小さく拳を握りガッツポーズをとる。アイリスはパチパチと可愛い拍手を送っていた。
「暗殺術も試したいけど対象がなぁ…」
「それでしたら私で試して下さい。」
そう言って両手を広げて受け入れる体勢をとるアイリス。その様子を見て溜息を吐きながら首を振って否定するレイリー。なぜ?といった表情で小首を傾げるアイリスの両手を取って降ろす。
「大事な仲間にそんなことしないよ。」
それを聞いたアイリスが一礼して一歩退がる。休憩の続きに入ったアイリスと一緒に腰を下ろすレイリーは命の大切さについて講義をする必要がありそうだ、と空を仰ぐ。
目的地に到着するのは二重の意味で遠いな、と空に溶けていく溜息を見つめていた。
主人公が暗殺術というスキルを取得したのは体の持ち主が取得していたからです。




