春に咲く花。
「うん、実は俺もともと別の世界で死んでこっちの世界に産まれ直した転生者なんだ。」
それを聞いた周囲のメンバーが黙り込む。
普通に考えれば気持ちの悪い筈だ。父なんか特に自分の子供に別の世界の別の魂が入ってるのだから。しかも本来自分が生きる筈だった子供の顔と体をして家族ごっこを続けていたのだから。しかしレイリーは家族ごっことは思わなかった。死んだと思っていた自分が偶々拾った命、それを一生懸命優しく育ててくれたこの人を今では本当の父と思っている。そんなレイリーの気持ちを察したのかダイスが沈黙を破る。
「ありがとう。」
「え?」
予想もしていなかった言葉がダイスから飛び出した為、レイリーは間抜けな声を上げてしまう。
「だってそうだろう?この世界の数ある命の中から僕の息子として産まれてきてくれたんだろう?ありがとう。」
「で、でも…今まで年相応の演技とかして、時々ワザと飲み物こぼしたりして…」
「でもね、今まで見せた笑顔や、冒険に対するワクワクは偽物じゃないんだよね?」
「……!それは、勿論そうだよ!一緒に居て楽しかったし、父さんが帰ってきてから聞かせてくれる冒険の話を毎日毎日楽しみにしてた!」
「だったらホラ、正真正銘僕の息子さ。」
そう言ってレイリーを抱きしめるダイス。前世と合わせたら三十歳になるおじさんが胸元でわんわん泣いているのに、頭を撫でるその手はとても暖かかった。
「あの…パパ……」
「ん?セシリア?」
何かを決意した顔で前に出るセシリア。彼女も別の世界からエムフェルトに転生したと神様が言っていた。恐らくその事を告白するのだろうと、固唾を飲んで見守る。
「頑張れ…!」
何があっても俺は味方だ、とセシリアに想いを込めて伝えると軽く頷き返事を返してきた。
「私も…ここでは無い世界で死んで産まれ変わった転生者なの。」
震える体を必死に抑えながら真っ直ぐオルタスの目を見据えて話すセシリア。レイリーとダイスが本当の意味で家族になったように、セシリアとオルタスもまた、家族に成ろうとしていた。
「私は、この世界に産まれてきて凄くホッとしたの…でもそれが誰かの死の上で成り立ってるって考えると怖くて…」
そう言って大粒の涙を流すセシリア。あの時橋で一人で悩んでいたのは恐らくこの事だろうと今になって気付く。
「それがどうした?ダイスも先程言ってたが、今まで過ごした日々は嘘では無いし、俺はお前以外は娘だなんて思えない!」
そう言ってオルタスもダイスがレイリーにした様に抱きしめて優しく頭を撫でる。胸元で泣くセシリアが一人で戦っていた孤独を背負ってあげる様に。
「ありがとう…パパ…」
「いいんだよ、こんなのは問題にもならない些細な事だからな。」
「うん、うん…!」
こうして二組の家族が更に絆を深めた所で周りがジワジワと興味を隠しきれてない表情でにじり寄ってくる。
「所で質問っす!前生きてた世界ってどんな世界だったんすか?」
「えーっと、テレビって言う何処にいても世界中の景色や出来事、面白い芸や感動的な劇が見れる機械があって…」
「うっそー!?」
ビルの質問にセシリアが答えるとエリリアが疑いの目を深めてレイリーに確認を取る。如何やらセシリアとは同郷みたいで何だか嬉しくなって一緒に地球の話を聞かせる。
地球には飛行機っていう空飛ぶ鉄の船がビュンビュン飛んでるとか、宇宙って言われるずっと空の上に衛生って呼ばれる機械を浮かべてるとか、個人個人で連絡を取るのに携帯っていう掌サイズの通信端末がある事など、様々なことを教えた。
「凄いわねぇ…エステってのが興味あるわ。」
「アタシはバイクってのが超興味あるー!」
「凄いっすねぇ〜、そんな世界で何で死んじゃったんですか?」
楽しい会話の間に差し込まれたビルの質問に二人共固まってしまう。あの時の酷い光景を思い出すと今も震えが止まらない。それはセシリアも一緒のようで、一気に表情に影を落としてしまった。
「バカ!テメェ何てことを…」
「か、かたじけないっす…」
ビルには非はない。あるとしたらあの時幼馴染の楓を巻き込んで死んでしまった俺にある。とレイリーは(自身に対する贖罪だ)と、過去と決別する為に言葉を紡ぐ。
「小さい女の子を庇って車っていう陸を高速で走る機械に跳ねられちゃって…幼馴染も巻き込んで死んじゃったんだ…まだ話したい事とか、世話になったお礼とか…色々伝えたい事が有ったのに………アイツにもこれから輝く未来が待っていたのに……クソ……クソォッ!」
床に拳を叩きつけて泣き叫ぶレイリーをどう表現したらいいか分からない程複雑な感情で見ている事しかできないクランメンバー。軽はずみに聞いた質問が、予想以上に重たいものだった。その罪悪感と、これまで背負ってきた辛い過去の重さを考えると自然と涙が溢れた。
ダイスはそっとレイリーが振り上げた手首を掴んで止める。
「春人…?」
誰も知らない筈の前世の名前を呼んだ方を振り返る。そこには目を見開いて口元を手で覆うセシリアの姿があった。
もしかしたら、でもそんな都合のいい話があるはずが無い、でももしかしたら。スキルを神様からもらった後にずっと考えていて、でも怖くて言えなかった言葉をやっと吐き出すレイリー。
「楓………?」
二人の時が止まったような感覚を覚えた。セシリアはフラフラとレイリーの元に歩いて行き両手を取る。すると呆然とした表情のレイリーが質問をしていく。
「俺の誕生日は?」
「3月23日。」
「俺の好きな料理は?」
「山鴎カフェのピザトースト。」
「俺のエロ本の隠し場所は?」
「ベッドの下はフェイクでバイクの雑誌入れてて本当は本棚の本の奥に隠してる。」
「何で知ってるんだよ…ははっ」
「だって春人漫画読もうとしたら俺が取るから!っていって慌ててたじゃん…」
「ははは…バレバレだったか…」
「じゃあ私の好きな料理は?」
「お母さんの作ったハンバーグ。」
「私の好きな教科は?」
「日本史と現代社会だろ?」
「じゃあ私の好きな猫は?」
「スコティッシュフォールド。」
「じゃあ私の好きな人は?」
「…分かんない、居たの?」
「…うん」
「そっかぁ…好きな人居たのかぁ…」
「あなたがずっと好きでした。」
「……俺も……俺もずっと好きだった!」
「……!」
「でも死んじゃったから伝えられないと思って……それで……それで………ムグゥっ!?」
二人に気を使ったからなのか、もうクラン事務所には誰も居なかった。
言葉を遮るように塞がれた唇は不器用なキスで、言葉より雄弁に想いを伝えていた。
赤く色づいた楓に春が訪れ、花の様な笑顔を咲かせていた。
自分で言うのもアレなんですが
結構キュンキュンきませんでした?(台無し)




