隠し続けた真実を天秤にかける
ダンジョンに入った。
レイリーとセシリアは事前に聞いていた陣形を崩さない様にオルタスとダリルの後ろを慎重に歩いていた。
ダイスのパーティーは少し前を歩き、周囲を警戒している。全員クラン事務所で見せる明るい雰囲気など微塵も感じさせない真面目な表情で慎重に歩を進めている。
「ここら辺はもう敵が出てくるから気を付けろよ。」
オルタスの言葉に喉を鳴らし短く肯定の返事を返す。ダリルは鞭を手に持っており、オルタスは腰の剣に手をかけ、いつでも臨戦態勢に入れる状態だ。レイリーは詠唱の準備をして、セシリアは剣の柄を握っている。
「来たぞ!」
ダイスの声が響き渡る。
周囲に緊張が走り魔物が姿を現す。
鋭い牙を剥き出しにして威嚇しながら狼の魔物ダークウルフが数体ダイス達の前に現れる。
「はぁ!」
ダイスが弓に矢をかけ弦を引き絞り矢を射る。すると解き放たれた矢はまるで吸い込まれる様にダークウルフの体を……外れ後方に飛んでいく。
攻撃態勢に入ったダークウルフが徐々に加速して二手に別れる。不気味に光る赤い目が残像の曲線を残しながら此方に向かってくるのが見えた。
「これでどうかしら!」
それを見たダリルがいち早く詠唱を開始し風の刃を放つ。地面を抉りながら暴れ狂う暴風がそのままダークウルフを切り刻む……かと思ったらそのままヒョイと横に飛んだダークウルフに躱される。
口を開け牙を剥き出しに飛びかかってきたダークウルフ目掛けてオルタスの直剣が鞘から抜き放たれる。その刃を受けたダークウルフは口から尻まで一刀両断……されずに胴体に浅い傷を作って距離をとる。
「アタシの剣の錆になりなさい!」
ダイスのパーティーを目掛けて駆け出した魔物の出鼻を挫く様にエリリアの双剣が圧倒的な手数により魔物を細切れ……にせず風を送って涼しませただけだった。
「こう言うのはぁ、どうだい…!」
ウィドラルクがダークウルフの眉間に照準を合わせ腕に装着されたクロスボウの矢を放つ。放たれた矢は見事に魔物を穿ち眉間に不細工な黒子を……作らずにそのまま壁に当たりターンと間抜けな音を立てて突き刺さる。
(え、この人達弱くない…?)
父の冒険譚を聴く限り歴戦の強者達が凶悪な魔物をバッタバッタと倒していくクランだと思ってたのに、最初の階層のダークウルフを結果十分位かけて倒していた。
「ふぅ、こんなものかな。」
「今のは中々肝を冷やしたぞ。」
「そうねぇ、まさか複数で現れるなんてね。」
「まーアタシ達の敵じゃないっしょ!」
「だねぇ、手応えがなかったよぉ。」
「中々骨のある敵だったっす!」
勝利の味に酔うクランメンバーを見て複雑な気分になるレイリー。まず魔物に攻撃が当たらない。ダイスとウィドラルクは矢が一向に当たる気配を見せないし、オルタスとエリリアは接近してきた敵を目で追いきれず攻撃を外しているし、ダリルとビルは魔法の軌道を予想し易い様に放つものだからホイホイ避けられていた。
正直ダメダメだった。
それに引き替えセシリアは跳躍して接近して来たダークウルフの前脚を切り落とし、その後方から走って来たダークウルフの顎を蹴り上げ流れる様に二匹の首を刎ねていた。
その二体の処理が終わると急いでダイス達の援護に回り、三体の狼が直線上に重なった瞬間にセイクリッドフレイムという熱線を放ち焼き払っていた。
結果セシリア一人で片付けていた。
「それにしてもセシリア、いい動きだったわよ。」
「そうねー!魔法も剣技も中々だったよ!」
「さすが、オルタスの娘だね。」
「ガッハッハ!そうだろう!」
危機感のないクランメンバーが笑いながらそんな話をしている。いや、中々とかどの口で言ってるんだ、全てセシリアが倒したじゃん。と思ったレイリーだが口には出さなかった。
「よし、この調子で先に進もうか。」
ダイスの言葉を受けて先に進み出すクランメンバー達。
(え?これ大丈夫なの?この状態で先に進んで大丈夫なの!?)
セシリアと目が合うと苦笑いをしていた辺り同じ事を考えていたのだろうとレイリーは思った。
「今度はちゃんとビビらないで魔法使うっすよ?」
半笑いで肩を叩いて励ましてくるビルに魔法を放ちたくなったレイリーだった。
先に進むとダークウルフに混ざってゴブリンも出てきた。手には棍棒や錆びた剣を持っていて、全身緑色の醜い顔と体を晒していた。因みに衣服らしいものは身に付けておらず腰に布を付けているだけだった。
「あの、俺に任せて貰えませんか?」
そう言って全員に声をかけるレイリーを見て不思議な顔をする一同。
「大丈夫っすか?敵は木の案山子じゃないっすよ?」
お前もう黙ってろや、と思うものの笑顔を保って任せて下さいと言うレイリー。既に心は出家していた。
「わ、わかった。危ないと思ったらすぐに逃げるんだよ?」
「はい。」
心配するダイス達を退がらせて即座に詠唱に入るレイリー。この世界の魔法を使っている内に気付いた法則、それは【W】で風、【B】で刃の形を与える二節詠唱の風の刃に隠された簡単な法則。WはWind、BはBladeの頭文字を取ったモノだという事だった。それに気付いたレイリーがwindbladeと宙に指を滑らせた時だった。極太の風の刃が森の木々を真っ二つにしながら直進していった。これを日本語に直して詠唱してみる。
【荒れ狂う 風の 刃】
すると巨大な竜巻が目の前を蛇行しながら木々をズタズタに引き裂いて進んで、目算五十メートル程で消滅した。その法則に気付いて最初は四発撃ったら魔力が枯渇してインフルエンザにかかった時の様な症状に襲われたが、今では五十発撃ってもピンピンしている程に潜在魔力量が上昇している。それから様々な詠唱を試してわかった事がある。
これらは意味さえ持たせれば自由自在に組み合わせられる上に綴った後口に出して詠唱すれば消費魔力と威力が上昇する。更に文字を並行させたら奥の文字の意味が強くなる。これらを究極まで昇華させた呪文がいくつかあるが、もっと広い空間で使わなければクランメンバーにまで危害が及ぶ為使用は出来ない。
であれば最適な呪文を詠唱しようと思いレイリーが使用した魔法。
「【追尾しろ 複数の 氷の 弾丸】!」
日本語で綴られた呪文を大きな声で詠唱する。瞬間、複数の拳大程の氷塊がレイリーの周囲に展開する。拳を目の前に突き出し握り込んだ指を弾いて広げると連動しているかの様に魔物の群れに殺到する。
避ける間もなく氷塊を受けたゴブリンの群れは血煙を上げながら体の至る所に大きな穴を空け、前のめりに力なく倒れる。
危険を本能で察知したのか横に飛び退いたダークウルフだったが、急激に曲がり軌道を変えた氷塊になす術なく蜂の巣にされてもはや肉片と化して周囲に血の雨を降らせる。
「ふぅ、こんな感じです。」
そう言って後ろを振り返ると唖然とした表情で此方を見つめるクランメンバーと、目を見開いて驚くセシリアの姿があった。
(あれ、少しやり過ぎたかな…)
怖がられたかもしれないが、このクランはこのままではダメだと思ったレイリーは自身の魔法を見せる事にした。父や仲間達からの拒絶を恐れている場合じゃないと思い放った魔法。そこには弱小と呼ばれるクランを強くしようという意思が宿っていた。
「「「「「う、うおおおおおお!」」」」」
いきなり全員が上げた絶叫に一瞬ビクッと硬直したレイリーの元に仲間達が殺到する。
「れ、レイル!今のは何だい?どこで覚えたんだい?その前に何故あんな魔法を使えるんだい!?」
「お、お前今の四節魔法じゃないか!?誰に師事したんだ!?」
「お、驚いたねぇ…大型ルーキーだったのかぃ。」
「俺っちにも!俺っちにも教えて欲しいっす!」
「レイル!超カッコよかったよ!」
「レイくんさっきのなぁに?知らない言語で呪文を綴ってなかった?」
全員が一斉に質問をしてくるので落ち着いてくれと宥めるレイリー。後ろで何かを考え込んでいるセシリアが気になったけど、反応が概ね良好な事に一先ず胸を撫で下ろす。
「あ、あとで説明するから…」
その後約束だよ、とダイスと約束をしてパーティーの隊列に戻す。横にいたセシリアが何かを話したそうにチラチラと此方を見ていたのが気になったが、周囲に警戒を解くわけにはいかず、魔物に警戒しながらその日の攻略は終わった。
▶︎▶︎
「で、どうゆうことなんだい?」
「あの魔法についてだよね…」
ダンジョンからハイテンションで帰ってきた一同は事務所で会議を開いていた。先ずは順を追って説明する必要があると思ったレイリーは、魔法の法則について説明した。
「魔法っていうものには決まったルールがあってその中でなら何を綴っても良いんだ。」
「それは空を飛べーって綴っても良いってこと?」
「そういう事なんだけど、ここで一つ僕が見つけたルールを紹介するね。」
そう言って多重詠唱の仕組みや先刻使用した四節詠唱の成り立ちについて説明した。
「って事でそれぞれの文字はとある単語の頭文字なんですよね。」
「その言語見た事ないしぃ、そもそも君が使ってたのはもっと難しそうな文字だったよねぇ?」
ウィドラルクの核心に迫る質問に一瞬ビクッとするレイリーだが、腹の底に落ちている一欠片の勇気を絞り出す様に真実を告げる。
「うん、実は俺もともと別の世界で死んでこっちの世界に産まれ直した転生者なんだ。」




