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第1章 黒い瞳の青年 *1*

「オレさぁ……フウリのこと、好きなんだ」


 弓使いの少年から想いを告げられたのは、緑溢れる山道を二頭の馬でゆっくりと下っている時だった。

 カポカポと(ひづめ)の音だけが静かに響く中、栗色(くりいろ)の長い髪を一つに結わいている少女――フウリは一瞬、何を言われたのか理解できず、目を丸くした。

 しかしすぐに我に返り、噴き出す。

「はははっ、それは何の冗談だ、ハヤブサ。お前、夏の暑さには強いのではなかったか? それとも、頭に悪神(ガッシム)でも取り憑いたか?」

 夏の強い陽射しを浴びて茂る青々とした葉が風に揺れる音や、ジージーと鳴いている蝉の声、遠くで飛沫(しぶき)を上げている間欠泉(かんけつせん)の音にまで笑われた気がして、ハヤブサはムッと口を曲げた。首の後ろでキュッと結わかれた茶色の髪まで、不満を表すかのように、馬の歩みに合わせて上下に揺れている。

「なっ……なんだよっ! 別に頭がおかしくなったんじゃねぇぞっ! 本気なんだからな! オレはずっとお前のこと……」

「本気? でも、村一番の射手(しゃしゅ)のハヤブサなら、男みたいな私なんかよりもお似合いの、可愛い()がいると思うけど……」

 確かにフウリは、十六歳にもなったというのに、周りの娘たちが着ている綺麗な装飾のついた裾の長い服ではなく、(がら)が少なく動きやすさを重視した男物の服を身に着けている。おまけに、服装だけではなく、フウリは村一番の刀の使い手として筆頭(ひっとう)サムライを務めていることもあり、凛とした雰囲気は男顔負けの格好良さを(かも)し出していた。

「み、見た目なんて関係ねぇんだけど……」

「それはともかく……今この状況で、そんな冗談を言えるなんて、君の度胸には感服したよ。本命の子に告白する時には、もう少し時と場を考えることをおすすめするけど」

 その返事に、ハヤブサの彼女に対する想いは急流エシク川の流れのごとく勢いよく流されていったのだったが、色恋沙汰に疎いフウリはまったく気付いていない。

 ハヤブサはガクリと肩を落とすと、引きつった笑みを浮かべた。

「……悪かったな、急に変なこと言って。最近、お前ん()、色々大変そうで話す機会がなかったからさ」

「いや、私も少し肩に力が入りすぎていたみたいだから、構わないよ」

 気分転換になったとばかりに、フウリは口元に涼やかな笑みを浮かべ……しかしその目が瞬時にして真剣なものへと変わった。

「……フウリ?」

 榛色(はしばみいろ)の澄んだ瞳に警戒の色が滲んだのを見て取ったハヤブサは、わずか前を進むフウリに無言で制され、手綱(たづな)を強く引いた。

「誰か倒れてる!? 行くぞ、ハヤブサ!」

 崖の下を流れる川のそばに人が横たわっているのを見つけたフウリは、周囲を警戒するように見回した後、誰もいないことを確認してから駆け出す。

「おうよ!」

 そもそも、今この二人が村を出て山道を進んでいるのには、ある理由(・・・・)があったのだが――事の発端は、数刻前に(さかのぼ)る。


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