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『ゆき』は酷く臆病で、冷めきった目をした少女だった。
実際、彼女は目だけでなく心まで冷たく凍てついた氷のようだった。
人は、愛を見て見ぬ振りする残酷な生き物だ。
『もっと、もっと』と求めるあまり、人の愛にあぐらをかいて果てには『愛が足りない』と嘆くのだ。
『ゆき』は言わずもがなそのような人間の一人であったが、他の人間とは比べものにならないほど厄介であった。
何故ならば、彼女は愛の何たるかを知らない。
普通の人の感じる『いま、わたしはあいされている』というものを感じたことがないのだ。
彼女の中では愛とは、『足りないもの』ではなく『存在しないもの』なのだ。
話はより深刻なものに変わるが、先日彼女の知り合いが亡くなった。
病室で、ダリアの花に包まれて死んでいたのだと言う。
愚直な者は『幸せな人生だったのね』と哀愁と感動の涙を零し。
皮肉めいた者は『不幸な奴だ』と歯を食い縛って笑みを堪えるのだった。
ーーーそれほど、ダリアの花は表裏一体なのだ。
贈った者の気持ちなど知らんぷりで表と裏を携えている。
そして驚くべきことに、これを贈ったのは『ゆき』なのだ。
メッセージカードには、何も書かれてはいなかった。
ただ、裏には思いきったようにまっすぐ伸びた切れ込みがあり。
そう、メッセージカードは彼女にとって、『裏を切る』ための物でしかなかったのだ。
皮肉者もあっぱれな皮肉家な彼女は、ひっそりとダリアに包まれた彼を見て、涙を流した。
意味も分からぬまま、泣いていた。
お分かり頂けただろうか。
彼女の『愛への意識』は、これほどまでに欠陥していることを。