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プロローグ
これは、誰も知らない小さな、ちっぽけなお伽話。
ーーー病室の片隅、そよぐ風を頬に感じながら涙を流す男がいた。
男は、真っ青な顔をしてベッドに横たわり、泣き笑いをしていた。
手には、赤と白を纏い魅惑的な模様を携えたダリアの花束と、小さな手紙があったそうな。
「ゆき、ゆき…」
虚ろな目に浮かぶはたった一人の愛しい女の姿のみだった。
『ゆき』と幼い発音で呟きながら今まさに朽ちていこうとする彼は、知る由もないだろう。
ゆきとは、何物か、彼女は真か嘘か。
ひらり、落ちた手紙の裏には鋭利なものがぶつかったような、切れ込みがあったそうだ。
言葉遊びの大好きな『ゆき』の、最後の皮肉だった。