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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅠ

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皇帝は偉そうなので。⑧

「ねぇ…ちょっと、あれ」


ファルーアが、珍しく怯えたような声を上げた。

皇帝に釘付けになっていた俺達は、その声に我に返る。


この闘技場で、皇帝は歓声を受けるほどの存在なのだ。


ファルーアの細い指先が、震えている。

その先を辿り、俺達は全員、息を呑んだ。


紅い石。


フェンリルの胸元に、それがあった。


肉に埋め込まれたかのような、不思議な状態で、石は鈍く光っている。


否が応でも頭を過ぎるのは、レイスの血を人間の体内に埋め込んで結晶化させていたという事実。


「……まさか、本当に魔力結晶を造ってるのか?」


グランが呟く。


それが真実だとしたら、俺達は何のために書状を持って各国を回ったのかわからなくなる。


「さあ!今日の相手はこいつだ!!」


「う、わ……」

ボーザックが言葉にならない音を発する。


フェンリルの向かいから連れて来られたのは、牛の頭をした、二足歩行になりかけの魔物。

それが、5体。


「……ミノス」

ディティアが唇を引き結び、膝の上で拳を握り締める。


歓声はいよいよ増して、賭けるための箱へ札が入れられていく。


「……どっちに賭けるんだ」

はっとした。

奇妙な笑みを浮かべた、目の落ちくぼんだ男が、こっちを覗き込んでいた。


口元から、泡のようなものが滲んでいて、眼を逸らす。


「悪い、ちょっと悩んじゃって。……やっぱりフェンリルだ」

怪しまれないように、精一杯取り繕う。


男は箱から札を回収し、内容を書いた紙を渡して、にやりとしてから離れていった。


「何なんだよ、これ」

思わず、悪態がこぼれた。


******


フェンリルが、満身創痍で立っている。

その前に立ちはだかる、2体のミノス。


3体は既に屠られているが、フェンリルの方も無傷ではない。

左の後ろ脚は、もう殆ど機能していなかった。


そこに、ミノスが前傾姿勢をとる。

……突進だ。


もはや、フェンリルに勝ち目は無いかと思えた。


「……うぐぐるるるる……」

泡を吹き、それでも足掻く命。


鬱々とした気持ちしか湧いてこない。


ミノスに弾かれ、殴られて、とうとうフェンリルは動かなくなった。

周りはそれでも熱気に包まれていて、その空気に吐き気がする。


しかし。


ずる。


「……嘘だろ……」

グランが、呆然と呟く。


ずる。


立ち上がる。


血に濡れた身体が、ゆるゆると起き上がる。


「有り得ないわ……」

ファルーアが震えながら、グランに掴まった。

ディティアは、両手で口元を覆う。


「あれ、見て……ハルト……」

ボーザックに言われて、俺は見た。


立ち上がるフェンリルの胸元で、鼓動する紅い石。


それに呼応するように、ぎらぎらと光る紅い眼。


「見ろ帝都民ども!これが魔力結晶だ!」

太い声。


あの石の力だっていうのか?

これが??


フェンリルがミノスを屠るまで、時間はかからなかった。

皇帝はそれを見届けると、大剣を振り上げた。


「勝った奴は運が良い!今日のは上玉だ!!」


振り下ろされた剣は、フェンリルの命を、今度こそ刈り取った……。


******


魔力結晶の粉。

今日のものは、フェンリルに埋め込まれていたものだという。


皇帝自らが、賭けの報酬だと言って、勝ち札と交換していた。

俺は吐き気を抑えながら、グラン、ボーザックと皇帝の元へ向かう。

ディティアとファルーアは残してきた。


……勝ち札を提示して、金か結晶を選ぶことが出来る仕組みになっているようだ。


「どういう代物だ?これは」

皇帝を前にしたグランは、1歩も引かなかった。

堂々と立つと、グランと皇帝は同じぐらいだとわかる。


あんなに大きく見えた皇帝に対抗するグランに、俺は改めて尊敬の念を抱いた。


「ふん、冒険者か?……頭が高いぞ」

「引かねえ。俺はこの国の民じゃねぇ」


静かな、それでも荒々しい空気。


「そうか。それもまた良し。見てわかるだろう、魔力結晶だ」

意外にも、皇帝はすんなりと情報を吐き出した。


「造るのか?」

「……話す理由はないぞ、愚民」

「何度も言わせるな、俺はこの国の民じゃねぇ」

「……ふ、その度胸に免じて答えてやろう。これは魔力結晶を魔物に埋め込んで、大きく育てたものだ」

「………そうか」

「何だ、そんな情報でことたりるのか?」


つまらんとでも言いたげな雰囲気に、グランは、笑った。


「ふ、白薔薇のグランだ。近々会いに行ってやる。武勲皇帝」


「……ほう?」


空気が冷える。

俺とボーザックは、いつでも間に入れるようにと神経を尖らせていた。


偉そうだと言われるほどの皇帝だ。


何があってもおかしくない。


それでも、グランは引かなかった。

その空気に、周りの奴等でさえ近寄らなかった程だ。


やがて、向かい合っていた皇帝が、先に殺気を収めた。


「いいだろう、白薔薇のグラン。お前達の話は興味がある」


グランも、ゆっくりと息を吐き出した。


「……すぐにギルドから使いを出す。パレードとやらの前に時間はとれるか?」

「いいだろう」


俺達は、周りが息を呑みながら見守るほどの情況の中、ゆっくりとその場を後にした。


グランの手には、調べるために入手した魔力結晶の粉が握りしめられていた。




本日分の投稿です。

毎日更新しています。


平日は21時から24時を目安に更新しています。


いつもありがとうございます!

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