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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅠ

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97/846

皇帝は偉そうなので。⑥

イルヴァリエは、次の日早々に発った。


「頼んだぞイルヴァリエ」

声をかけると、凛とした空気を纏ったイルヴァリエは愛馬の上から俺を見下ろした。

「約束しよう、必ず兄上に届ける」

「…いや、シュヴァリエに伝えてほしいわけじゃないけど…」

「任せろ」

「いや、だから…あー、もういいや…それじゃあな」


イルヴァリエはひとつ頷くと、愛馬を撫でた。


「わふ」

「ぶるる…」

フェンと頬をすり合わせ、イルヴァリエの愛馬も別れを告げたようだ。


「また会おう、白薔薇!」


ラナンクロストへと続く街道へと、颯爽と駆け出す姿を見送りながら、ついこぼす。


「あいつ…俺のこと何だと思ってんだろ」

「さあな!」

聞いていたグランが、からからと笑った。


明るくなり始めた空の下、俺達は再度、帝都へと引き返す。

街は、既に目覚めていた。


******


朝食も取りたいけど、まずはギルドに移動した。

それなりに広い街は、朝から馬車が走っていて、主要箇所を繋いでいる。

農作業に出る農民達が馬車や馬で移動しているからなんだろう。


俺達はまずギルドに移動して、ギルド長を呼び出した。


「おお、白薔薇。良く来たな」


オドールが迎えてくれて、飯はまだか?と聞いてくる。

「うん、まだ朝食には早かったからね」

ボーザックが答えると、では食っていけと言って、早朝シフトのギルド員に何やら言付ける。


俺達は、昨日と同じ個室に通された。


「とりあえず、皇帝には会う必要がある」

グランが切り出す。

俺達の手には、ラナンクロストからの書簡が有るから、それは避けられない。

オドールは頷いた。

「そうだな。まずはこちらの状況を詳しく話そう」


そんなわけで内容を聞くと、ざっくりこんな感じだ。


①皇帝が行うパレードは5日後。

既に帝都民にはお触れが出されているらしい。


②魔物達の闘技場は週に2回の開催。

ギルドは当然、口出しする権利を持たない。

次の開催は明日。


③魔力結晶の製造が本当に行われているとして、製造場所の特定は出来ていない。


④怪しい集団がいったいどんな組織なのか調べきれない。

珍しい魔物達を狩って売っている奴等なのは間違いないが、その規模や魔力結晶との関わりが不明。


⑤宿場街カタルーペ方面への街道の飢えた魔物達の排除に手が回っていない。

あちら側に畑を持つ農家達が途方に暮れている。


と、まあこんな感じだ。

「…いつのタイミングで皇帝に会うか…」

グランは気に入らない箇所があるのか、鬚を1本摘まんでは引いている。

「とりあえず、その闘技場とやらに赴いてみない?」

ファルーアが言う。

「そうだな、見てみないことには全くわからん。…ところでギルド長、俺達は何を手伝えばいいんだ?」

頷いたグランは、やはり鬚を1本摘まんでは引いて言った。


「うむ、それなんだが…」


そこに、ノック。

「朝食が届きました」

「…食べながらにするか」


運ばれてきたサンドイッチは茶色いパンに野菜と肉。

それから卵が挟んであった。

酸味の効いたソースがひと役買っていて、すげー上手い。

温かいお茶も用意されていて、俺達はそれを頬張りながら続きを待つ。


「白薔薇に頼みたいのは、集団の調査だ。皇帝は強い奴が好きだからな、タイラントを倒したとなればそれなりに話は出来るはずだ。それから、お前達の持つ情報にはさぞや興味があるだろうし、無下にはされんと踏んでいる」

「成る程、皇帝から話を聞けばいいんだな」

「今の皇帝は…何かおかしい。出来ることなら、もう1人コンタクトを取ってもらいたい」

「コンタクト?」

聞き返すと、オドールは頷いて、お茶をすすった。

「いるんだよ、最高のお転婆がな」


******


「どう思う?ハルト君」

ディティアの左手首に、きらきらと光るブレスレット。

彼女の眼と同じ色のエメラルドが、控えめに揺れる。


俺はそれを眺めながら、似合ってるなーなんて思っていた。


「ねぇ、ハルト君ってば」

「へっ?…あ、あぁごめん。ぼーっとしてた」

「もうー、はい、これとこれ。刃を長持ちさせるためのコーティング剤ね。…速乾性のあるコーティング剤と、乾くのは遅いけど長持ちするやつと…どっちがいいかなあ」


ここは帝都の武器屋だ。

武器屋と言っても、双剣専門店。

なかなかの品揃えのため、ディティアは始終テンションが高い。


…俺達はそれぞれの武器の手入れ道具を補充するために、外に出ていた。


「速乾性のやつじゃないかな?いつ戦闘になるかわからないし。殆ど毎日磨いてるだろ?ディティアは」

「やっぱりそうだよね!じゃあこれと…あ、そうだ。ハルト君、砥石は何使ってる?」

「え?…これかな」

バックポーチから砥石を出すと、ディティアはじっとそれを見る。

「うーん、このタイプは磨ぎやすいけど、もう少しきめ細かいやつでもいいかも」

…そんなこと考えたことも無かった。

ディティアはさくさくと手入れ道具を選ぶと、ひとつひとつ説明してくれて、2人分を整える。

「ありがとな」

ぽんぽんと頭を撫でたら、この上なく驚いた顔をされ、さらには飛び退かれた。

「なっ、ど、どうしたのっ…び、びっくりする!」

「ええ?どうしたのって、お礼だけど??」

「お礼で頭撫でちゃだめだからねっ!?」


…ええー?


首をかしげていると、ディティアはため息をついて肩を落とした。

「もー…。それじゃ、とにかく戻ろうか」

「あ、その前に。念のため軽く食糧も買っておこう。何があるかわからないし」

「あ、そうだね」


俺達は日持ちする食糧を補充して、宿に戻った。


街の状況を確認するのも兼ねていて、立ち寄った店で聞き込みをしたんだけど、やっぱりそれほどの情報は掴めなかったんだよなあ。


「もしかしたら、貧民街って所の方がいいのかもね」

「そうだな。治安は悪そうなイメージだけど」

ディティアと話しながら扉を開けると、既に窓際にいたボーザックが手招きした。


その足元で、フェンも身を伏せている。


ただならぬ雰囲気。


ボーザックが人差し指を唇に当てていたので、俺達は顔を見合わせて、黙ったままそろそろと窓辺に寄って、隣に並んだ。


(ハルト、五感アップかけて)

(お、おう…五感アップ)


すると。


「おい、いたか?」

「いや…見失った。フェンリルだったと思うんだが」

「魔物使いか…上手くすれば相当な上玉が手に入るぞ」


男2人の声が聞こえてきた。

どうやら窓の下あたりでこそこそ会話してるみたいだ。


「皇帝は偉っそうな奴だからな、それくらいの献上品なら…」

「しっ、迂闊なこと言うな。…とりあえず1度引き上げよう」


そのまま遠ざかる気配に、俺は止めていた息を吐き出す。    


「はーーー…なんだよあれ?」

「わからない、何だかつけられてる気がしてたんだよね」

「フェンを探してたみたいだな」

俺が言うと、ボーザックはフェンをそっと撫でた。

「うん、あいつら、もしかしたら俺達が調べようとしてる怪しい集団なのかな」

「可能性はあるよな」

「ちょっと心配だね…グランに言って、フェンをギルドに匿ってもらおっか?」

「うん。賛成…。私も宿よりは安全だと思うな」

ディティアも同意してくれたんで、俺達はグランとファルーアを待つ。

フェンには申し訳ないけど、大人しくしててもらうしかなかった。


「しかし…怪しい集団ってやつすら皇帝を偉そうって言ってたな。何か不安しかないよ」

思わず言うと、ボーザックが少しだけ笑った。

「そうだね-、俺達も会うときはいいもの用意しないとかな?」


それを聞いたフェンが、フンッ、と鼻を鳴らした。



本日分の投稿です。

毎日更新しています。


もうすぐ100話。

皆様、いつもありがとうございます。


そういえば、いつの間にか読者のユニーク数が5000を超えました。


ひゃっほー!


5000人の皆様の眼に触れたと思うと、

本当にうれしいです。


述べ数はもっともっとなので、

いつも読んでくださる皆様にもとても感謝です!

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