皇帝は偉そうなので。⑤
ヴァイス帝国帝都ギルド長、オドール。
齢84歳にして現役ばりばりのギルド長は、帝都でギルド長を任されて既に35年が過ぎているらしい。
見てるとすぐにでも折れそうで恐いんだけど……本人は至って元気。
杖も必要ない脚力で、呼ばれればノクティア王都まで行っちゃうような強者だった。
……そう、彼は、ノクティア王都ギルド長、タバナさんからの要請で、つい最近ノクティア王都まで赴いていたそうだ。
彼の帰りが他のギルド長より早いのは、要点だけ聞いて即判断の上、すぐに帰ってきたからだった。
「とにかく……魔力結晶をギルドで収集するのは構わん。協力するさ。しかし、それを帝都で造ってるとなると4国間の協定すら怪しい。怪しい集団が出入りするようになったのもあって、警戒はしてもし足りない」
「そういや、門番がそんなことを言ってたな」
「そうか。……帝都民も恐らくは何か感じ取っている。…数日後に行われるパレードなるものも相当おかしい」
パレード…。
帝都に来る途中で出会った、養成学校の同級生、トールが言っていたのを思い出す。
近々、催し物があるようだ、と。
「皇帝も参加するらしいな」
グランが聞くと、オドールは頷く。
「今までそんなことは無かった…ヴァイセンはそんな気前が良い皇帝ではない。帝都民は皇帝の逆鱗に触れまいとして生きてる現状だ」
「へー、逆鱗ねー」
ボーザックがこっちを見てにやりとする。
俺は鼻を鳴らした。
今はそんな場合じゃなかったけど、少し場が和む。
俺をだしにして、ボーザックのやつ。
覚えとけよ?
「でも、そんな恐い国で何でやってけるのかな」
「ここは発展した国だ。給料も良く、皆羽振りが良い。皇帝自体は早々お目にかかることのない相手だからな。天秤にかければ、住んでいる方がいいのさ」
オドールの言葉に、ボーザックが「そういうもんかー」と唸る。
「…ヴァイセンは、妻が亡くなった頃に狩りを始めた。何か打ち込むことが欲しかったのだろうと、人間らしい姿に帝都民も温かく見守っていたんだよ。…しかし、日に日に鬼気迫るような形相になっていく皇帝に、やがて帝都民は恐怖を抱いた。…ヴァイセンは、妻を生き返らせようとしているのではないか?と噂が立ってな。……ギルドに、帝都民からの依頼が極秘に届きだしたんだよ。それを、鼻で笑うことも出来ず調べているうちに、魔力結晶の製造に辿り着いた」
……。
俺達は目配せする。
俺達の知る方法ではない製造方法……それがあってもおかしくない。
もしかしたらそれは、なんらかの条件下にある魔物の血で事足りるのかもしれないし。
「あんたは見たのか?」
グランが腕を組んで聞く。
オドールはゆっくり頷いた。
「帝都の隅に貧民街が出来ていてな。そこに、廃工場があるんだ。その中で、そいつは行われていた。数々の魔物が運び込まれて、そいつらを闘わせていたんだよ。闘技場……いや、魔物達の生き残りを掛けた牢獄だ。……皇帝の狩った魔物は、そこで餌にされてたのさ。……そこの景品とやらが、魔力結晶だ。…真っ赤な粉状のな」
「粉?」
驚いて聞き返す。
「そう。魔力結晶に特殊な加工を加えてから、粉状にしたものらしい。皇帝自ら、帝都で造っていると公言したほどだ」
「それ、どうやって使うの?」
ボーザックが身を乗り出す。
「……飲むようだ。飲んだ奴らは、……そうだな、永遠にバフ状態になるとか言われている」
「バフ……?」
「強くなるそうだ。それこそ、肉体も、反射神経も、力も、全て」
「………」
それが本当なら、バッファーに意味は無くなるんだろう。
けれど。
「それ、どう考えても怪しいわね」
「同感。強くなったとして、それが永遠に??身体への負担はどうしてんだ、有り得ないよ」
ファルーアに相槌を打つ。
「その集団って……もしかして、魔物達のディーラーって事でしょうか?」
ディティアが話に入ると、オドールは彼女を見て深くため息をついた。
「どうもそのようだ。……しかも、魔力結晶の件もそいつらが関わっているように見える」
「そりゃ……危ねえな」
グランが背もたれに寄り掛かり、鬚を摩った。
ぎしりぎしりと椅子が鳴る。
「そんなわけで白薔薇!協力要請だ」
だから、待っていた、と。
オドールは頭を下げた。
******
その日、とりあえず宿を取ってもらって、俺達は状況の確認を行うことになった。
1番の問題が、そこに鎮座していたからだ。
「同行しよう、白薔薇」
淡々とそう言った『問題』は、俺達を非常に困惑させる。
「あのさ、イルヴァリエ……イルヴァリエは、騎士団だよね?」
「当たり前だ」
ボーザックに堂々と答え、イルヴァリエはふんと鼻を鳴らす。
「その騎士団様が、皇帝を探ったらどうなるかわかっているのかしら?」
「心配するな。冒険者って事にすればよかろう?」
ファルーアにも、自信満々に答える。
「駄目なんだよ……俺達はギルドの使者なんだ。お前、その格好で堂々と街に入っただろ?万が一にもチェックされててみろ、大問題なんだからな?」
俺が言うと、イルヴァリエは顔をしかめた。
それは、国家間の介入になる。
つまり、両国の信頼関係……あるかどうかは知らないけど……が、崩壊するきっかけにもなりかねない。
聞いた感じだと、皇帝は好戦的に思えるし。
魔力結晶を造ってるって公言するってことは、今の俺達には戦争の火種の提示にしか思えないんだ。
「今回は、ここまでにしよう、イルヴァリエ」
珍しく、ディティアがイルヴァリエを諭す。
イルヴァリエは、そこで初めて肩を降ろした。
「……疾風のディティア殿…、貴殿までそう言うのか。…私は、こんなきな臭い状況下にも関わらず役には立てないのか?」
その、意外にもしょんぼりとした空気に、俺達が困ってしまう。
そんなこと言ってもイルヴァリエに頼める事なんて……あ、いや、待てよ?
「……なあイルヴァリエ」
「何だ、逆鱗のハルト」
「いや、そろそろ俺にも敬意をはらえよ……まあいいや。そしたらさ、頼みがあるんだけど」
「頼み?」
「うん。もしもこの問題が本格化したら、俺達は最悪、逃げなくちゃならなくなる。魔力結晶の製造方法を、俺達は知ってるんだからな」
「ああ」
「……ラナンクロストに伝えてくれないか?俺達の今の状況」
「………ラナンクロストに…?」
それが、どんな効果を発揮するかはわからないけど。
今の状況が、どう転ぶのか全くわからないから、やれることはやっておくべきだ。
「そうだな。イルヴァリエ、お前は閃光の弟で王国騎士団だ。これ程信用ある報告もねぇだろ。一筆箋書くから書状も持ってってくれ」
グランの後押しで、イルヴァリエは頷いた。
「何も無いことを1番願うがな……」
グランが、小さくそう付け足したのを、俺は聞き取っていたけれど。
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