皇帝は偉そうなので。②
お腹も膨れたところで、グランがやってきた。
「はよー」
手を上げると、欠伸を1つしてこっちに来る。
「何だ、先に食ったのか」
「昨日寝ちゃったみたいで腹減ってさあ」
「……うん、大丈夫そうだなハルト」
まじまじと俺を見た後に、満足そうに髭を擦る紅髪紅眼のいかつい男は、やっぱり俺達のリーダーである。
「ああ。……ごめんグラン」
「ん?そういやお前痣無いな?」
「あ、うん……一応気遣って治した」
「ははっ、そうか。大分反省してたぞあの2人」
グランは、俺も食っちまうか、と言って、カウンターに向かう。
「何かあったのか?」
イルヴァリエが首を傾げる。
そうか、こいつ寝てたな。
「俺が痣だらけだったんで、ディティアとファルーアがやり過ぎたって気付いたんだよ」
「おお……それは朗報だな。逆鱗のハルト」
「あー、皆ここにいたんだ。おはよー」
さらにボーザックがやってきた。
グランが丁度トレーを持ってきたところだったんで、ボーザックも慌てて頼みに行く。
「ティア、ファルーアも、すごい落ち込んでたよ」
苦笑してトレーを運んできたボーザックにひらひらと手を振ってみせる。
もう大丈夫とはいえ、皆にも心配かけてたんだろうし。
「2人は?」
「まだ見てない」
「そっか」
グランもボーザックも、朝食を食べ始めた。
******
女性陣は朝風呂をしていたらしく、ご飯を食べるとのことで、後で合流することにした。
俺達はご飯も食べていたし、部屋で筋トレやら武器の手入れやらをしておく。
「筋トレ効率の上がるバフとかねぇかな」
グランが言うので、俺は双剣を磨きながら少し顔を上げた。
「肉体強化重ねて負荷かけまくるとか?」
「あー、それだと後がやばそうだな」
「今度、グランがどこまで耐えられるかは試したいな」
「そうだなー。いざって時のために知ってはおきたい」
他愛も無い話をしている内に、女性陣が戻ってくる。
散歩していたのか、フェンは外から戻ってきた。
「そういえばヴァイス帝国側のガライセンで檻の中の魔物見たけどさ、フェンは俺達といた方がよくないか?」
「がふ」
あれだけの魔物が取引されてる以上、注意しておくにこしたことは無い。
俺は尻尾を振っている銀狼に、苦笑した。
******
食糧や備品を補充、チェックして、宿場街カタルーペを出発。
昨日も一緒だったのに、イルヴァリエは愛馬に夢中だった。
「ルヴァルステンバリーン、寂しくはなかったか?」
そんな会話?を聞き流しながら、俺達の旅は続く。
相変わらず畑がずーっと広がっていて、そろそろ見慣れてきたなーとか思う。
2週間もしたらヴァイス帝国の帝都のはずだし、また礼服やら作法やらを聞かなくちゃならないなー。
「ハルトー」
「ん?どうした?ボーザック」
そこに、ボーザックが馬を寄せてきた。
「そろそろティア達と話したら?」
「え?……あー、そっか?まだ話してないなあ」
「俺としては別にどっちでもーと思うんだけど、どう見てもティアが落ち込んでるからさー」
「ディティアが?」
振り返ると、だいぶ後方にいたディティアがはっとして眼を逸らしたのが見えた。
「……?まだ気にしてるのかな」
「そう見えるー」
「そっか……じゃあ後で話してみるよ」
「うん」
そういうもんなんだなー。
ぼんやりと考えながら、今度は前方のファルーアを見やる。
金の髪をなびかせながら、彼女は今日はグランの後ろに乗っていた。
何やら会話をしているらしく、時折笑っている。
……ファルーアは気にしてないのかも。
そしたら、とりあえず、ディティアと話そうかな。
俺は馬のスピードを少し落として、後方にいる彼女が近付くのを待った。
けど。
一向に距離がつまらない。
彼女は俺の速さに合わせて、スピードを落としてるようだった。
……そこまで気にしなくてもいいのになあ。
「ディティア」
「ふぁ!?……は、はいっ!!」
「ははっ、何だよそれ?」
「え、えっ、と、あの」
しどろもどろな彼女に声をかけ、間髪入れずに近寄った。
驚いた彼女の表情を、俺は真っ直ぐに見返す。
「髪、伸びてきたな」
「えっ?……ああ、うん……」
きょろきょろして落ち着きが無く、髪を触りうつむく彼女に、俺は笑った。
「何だよ、何か言いたいことあるのか?」
「……だ、だってハルト君、怒ってるから」
「馬鹿だなぁ……まだ怒ってるように見える?」
「み、見えるような、見えないような……」
そわそわと辺りを見回し始めたディティアは、観念したのかため息をついた。
「……まだ、怒ってるかなって思ってた」
俺は笑った。
「とりあえず寝たから俺は平気だよ。でも、さすがにやり過ぎだったよな?」
「それは…その通りだから…ごめんなさいハルト君…」
「よろしい」
「……」
そこで初めて、彼女が唇を引き結んだ。
必死に、堪えるように、彼女はこっちを見ている。
「ディティア?」
「ごめん…ハルト君」
「い、いいって。…………でも」
俺は、思ったことを言った。
「意外と温泉とかさ-、仕切りの上開いてたりするからさ。気を付けろよ?俺達だけとは限らないんだし」
ディティアはうんと頷いた後、何だか一生懸命に話し始めた。
ちょっと微笑ましくて、俺も笑う。
こういうとこ見たら、偉そうだって皇帝も微笑ましく思うかもしれないなーなんて。
ちょっと和んだのだった。
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