温泉は好きですか。③
1匹殴ると、それはガザガサと嫌な音を立てて戦闘態勢に入った。
あまり好戦的では無いようだ。
反応速度と速度アップ、肉体強化を重ねてとにかくイルヴァリエを支援する。
「はあぁっ」
格好良く気合いを込めた一撃に、黒い塊が両断された。
うわぁ……まだ動いてる…。
1匹、また1匹と屠られる魔物は、頭が良くないのかほとんど成されるがままだ。
それはそれで助かる。
「はあ、はあ、あと何匹だ!」
「イルヴァリエ、左からいくよー」
「おおっ」
イルヴァリエが剣を振るう。
その、腹の部分が魔物を捉えて……
「おおおおお!?」
俺達のすぐ横まで、黒い塊がぶっ飛んできた。
「きゃーーーッ!」
「うおおっ、お前、何してんだよ!?」
ディティアが悲鳴をあげてグランが飛び退く。
俺とボーザックはどうにか剣を構えた。
瞬間。
「炭になりなさい」
ごおっ!
炎が塊を呑み込んだ。
その、氷のような冷たーーい声。
やばい。
「……イルヴァリエ?」
微笑むファルーア。
目が笑ってない。
「ふおっ、は、はっ!」
「次やったら消し炭にするわよ」
「し、失礼した!!」
******
「最後、かっ」
イルヴァリエが剣を振り抜くと、最後の1匹が両断されて動かなくなった。
汗を拭い、イルヴァリエは剣をふって顔をしかめる。
「数の暴力とは恐ろしいものだな」
「いや、暴力振るってたのはイルヴァリエの方だけど…」
思わず突っ込む。
「逆鱗のハルト、少しは労ったらどうだ」
イルヴァリエがため息をついた。
それ言うなら、お前こそ俺にも礼儀をはらえ、と思うんだけど。
討伐対象が動かないのを確認し、グランが髪をくるくると弄んでいるファルーアの方を見やる。
「おい、ファルーア」
「わかってるわ。………燃えなさい!」
ごおおっ
残骸をファルーアが消し炭にして、戦闘は終わった。
後には、時々噴き出す蒸気と温泉、硫黄臭が残る。
ちなみに、この源泉はガスはそこまで濃くないので大丈夫だけど、ガスが溜まるような穴とかで長居するのは危険である。
「確かそんな話をしていたと思うのだが、最初から、ファルーア殿がそうすれば良かったのでは?」
「だから言ったでしょう?それでこっちに向かってきたらどうするつもり?」
「……」
イルヴァリエは、深いため息をついて肩を落とした。
******
「あおんっ」
待たせていたフェンとも無事合流。
美しい毛並みを手入れしていたのか、艶々の銀の毛並みを輝かせたフェンが尻尾を振っている。
俺達は宿場街カタルーペに戻った。
「結局何にもしなかったー」
ボーザックが何度目かわからない伸びをするのを、俺は笑って見た。
「本当になー。鈍らないといいんだけど」
首を左右に倒して、肩を回してみる。
何となくだるい。
けど、けどな!
「まっ、俺達には温泉があるからな」
グランが嬉しそうに髭を擦る。
そう、この先に待っているのは満を持して再開する温泉だ!
ギルドに戻った後、討伐依頼が完了したかの確認もあって2時間ほど待たされた。
戻った調査員のお墨付きで、晴れて再開することになりそうな温泉だったんだけど、今回は一般に開放するまでの準備の時間に貸切にしてくれることになったのである。
「頑張った甲斐があったわね」
妖艶な笑みのファルーアに、イルヴァリエが小さく「1番頑張ったのは私ではないか」と呟いていたけどスルーされた。
ディティアに至っては申し訳なさそうな顔をしつつ、待ち遠しくて仕方ないのがにじみ出ている。
微笑ましい。
俺達は温泉の入口に到着。
フェンは洗い場まで入って良いとのことで、女性陣と共に行くことに。
「各自自由行動!好きに宿に戻れよ、解散!」
グランのかけ声で、俺達は男女別に分かれ、進んだ。
******
はあ、温泉なんてどれくらいぶりかなー。
隣を歩くファルーアを横目に、うっとりと物思いにふけった。
「嬉しそうね、ティア」
心地よい鈴のようなきれいな声で、私は顔を上げる。
私よりも目線の高いファルーアが、サファイアブルーの眼で優しく見下ろしていた。
「ふふ、うん!久しぶりだもんー。ファルーアは?」
「早々無いわ、こんな機会」
絹のようなすべすべの金の髪が、さらりと肩にかかる。
ファルーアのような色香はどこから出てくるのかなあ。
「あ、あれが脱衣所ね」
私は足元のフェンを軽く撫でて、脱衣所への入口をくぐった。
……。
………………。
「広ーい!」
「あぉん」
私の声がフェンの声と重なって反響する。
広い屋内風呂は岩を切り出して造られていて、簡易的なドアの向こうには木で造られた露天風呂が見えた。
身体を綺麗にして、フェンも洗ってあげてから、ファルーアと2人で湯に浸かる。
つま先からそっとお湯に差し入れると、じんわりした熱がゆっくりと足下から私を呑み込んでいく。
とけそうな気持ちよさに、思わずほぅっとため息がこぼれる。
源泉では気付かなかったけど、ここのお湯は白濁していて、肌にするりと滑る。
胸のあたりまで浸かって、左手で右肩にお湯を滑らせると、肌に触れた温かい液体がすうっと流れ落ちていった。
「やっぱり水弾くわねー」
隣のファルーアに凝視されているのに、その言葉で気付く。
「ええっ、そんなことない……」
反論しかけて、言葉がすぼまる。
ファルーアの白い肌がうっすら上気していて、玉のような雫達が光っていた。
「ひゃーーー、ファルーア、やっぱりきれーーーい!」
思った以上に女神様みたいで、もうテンションはうなぎ登り。
ぱしゃぱしゃとお湯をかけると、ファルーアがこっち側の片目をつぶって笑った。
「やめなさいよティア、そんな弾く歳じゃないんだから」
「うっそだーぁ!すべすべじゃないファルーア!」
肩をなぞると、くすぐったいのか彼女が身じろいだ。
「あはっ、やめてよ!くすぐったいわ」
その瞬間の、彼女の形の良いバストときたら。
ふわっふわだ。
「時に、ファルーア」
「?、何かしら」
「それは、どうしたらそんな風になるのかな」
「ぶっ…ちょ、ティア…?」
「だって、やっぱり気になるよー!覚えてる?湖畔の街アデルド。あの時のずぶ濡れのファルーアったら、惜しげも無くぴったぴたにくっついたローブだったよね?」
「え?…あぁ…あまり覚えてないわね」
「絶対ね、あれは目の保養だったよ!」
「それを言うなら目の毒じゃ…」
「違うの!保養なの!もう、私女神様かと思ったんだからー」
つんつんすると、ファルーアがますます笑った。
「も、もうっ、ティア…!やめなさいってば!くすぐったいわ」
「今日は教えてもらうまで逃がさないんだから」
「あはっ、あははっ、もー!悪い子はこうよ!」
「ひゃあーっ!?」
ファルーアがばしゃーんっと派手な飛沫をあげて、私のおなか周りを指先で刺激してくる。
「あっ、あははっ、あはっ、ひゃめてぇー!あはははっ」
くすぐったくて、ばしゃばしゃ。
貸し切りだから出来る贅沢を、私はファルーアとフェンと堪能するのだった。
******
ちなみに、彼女達は知らなかった。
会話が、仕切りのすぐ向こうの男性陣に丸聞こえだったことを。
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