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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅠ
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硬い盾が欲しいので。②

飛龍タイラントの革の鎧と、龍眼の結晶の杖も、グランが行きたい場所で造ろうという話でまとまった。


鱗を加工したナイフだけは、名誉勲章の発行を待つ間にオルドーアで発注する。

俺の双剣を買った鍛冶屋に行くと、俺達を覚えていた職人が快く安価で請けてくれた。

ドラゴン素材の加工は、鍛冶屋にとっては名誉なことらしい。


何故か一緒にきたディティアが、嬉しそうに先を歩いている。

「早くグランさんの盾を造りたいね」

「ああ。あのままじゃ依頼も受けられないしなー」

「飛龍タイラント…まさか私達が倒せるなんて思わなかった」

「うん。ディティアがいなかったら、こうはなってなかったと思うよ」

俺が言うと、彼女は振り返った。

唇には笑み。

「…会えてよかった。仲間を亡くしたことは、今でも…辛いままだけど。でも、ハルト君があの日、私に声を掛けてくれなかったら、きっと壊れちゃってたと思うの」

彼女は、やっぱり可愛い。

俺もつられて笑った。

「ディティア、お前可愛いこと言うよな」

「あーっ!またそんな言い方して!もう慣れたよ、照れたりしてないんだからね!」

それでも頬が紅くなるところも可愛い。

「俺にとっても、ディティアに会えたことは転機だったよ。もっと頼りがいのある仲間になるからな。お前のためにも」

「…っ、わ、わあ…そっちの方が、ちょっと、照れるような…?」

顔を覆ってしまう彼女に笑って、もうひとつ。

「そうだ、この双剣もさ、あの時新調してなかったら、たぶんトドメ刺せなかったと思ってる。ありがとう」

ディティアはその言葉を聞くと、今日1番の笑顔を見せた。

「そうでしょう?ほら、やっぱりハルト君にはこういう曲線の双剣がいいんだよ!それにね、これを選んだのは…」

あーしまった。踏んでしまった。

俺は宿に戻るまで、ディティアの双剣愛に付き合わされることになったのだった。


******


「お待たせしました、こちらが、名誉勲章です」

マローネが差し出した箱に、俺達の名誉勲章は綺麗に並んでいた。

銀のカードで、美しい細工が彫り込まれている。

表面にはそれぞれの名前が刻まれ、討伐した日の日付と飛龍タイラントの名前があった。

「新しい名誉があると、この下に追記出来るシステムです。本人しか使えないので大切にしてください。ちなみに、無くしたりするのはもちろん罰金、売った場合は冒険者としては二度と活動できませんのでご注意くださいね」

どうぞ、と言われて、それぞれがそーっと手に取る。

俺のカードには、逆鱗という文字も刻まれていた。

ディティアには、もちろん疾風、と。

右上には穴があり、細い銀の鎖もセットになっていた。

首から下げられるようになっているのだ。

「今までの認証カードも併用出来ますけど、折角なので名誉勲章を見せて依頼を受けてくださいね、手厚いサポートがありますよ」

マローネはにやりと人の悪い笑みを浮かべた。

「それでは、白薔薇の皆さん。何かあればご連絡しますので、またよろしくお願いしますね!」


******


宿に戻る途中で鱗のナイフを受け取った。


が、そこに。


「やあ逆鱗の!奇遇だね」

「出やがったな…」

何故かまた出くわした爽やかな空気のシュヴァリエに、俺はこめかみを押さえた。

グロリアスの面々も揃っていて、鍛治屋はいっぱいになる。

「君達もここで鱗の加工かい?」

「ええ。シュヴァリエも?」

「ははっ、閃光の、と付けてくれてもいいよ疾風の。その通りだ、ここの職人は腕がいいからね」

爽やかに告げるシュヴァリエの向こうで、ナーガが無言で包みを受け取っている。

アイザックが職人に礼を述べていた。

「爆炎のガルフ、貴方に尋ねたいのだけどいいかしら」

ファルーアが隅にいた爺さんに話し掛けるのに気付いて、シュヴァリエをディティアに丸投げして俺もそっちに行く。

「どうした娘ッ子」

「その、貴方のその杖、龍眼の結晶ではないかしら?」

「おお、よく気付いたの。その通りじゃ」

「やっぱり…」

俺がへぇーと声をあげると、ファルーアに足を踏まれた。

黙ってます、黙ってます。

「実は、タイラントの龍眼の結晶を貰ったの。何か…杖にするのに必要な素材とか、あるのかしら…。よかったら助言をもらえないかと思って」

「それなら、1番は骨じゃの。わしのは『そう』じゃが、たしか今回は標本にするらしいからのう、違うドラゴンの骨なんてそうそう無いからお奨めはドーン樹じゃな」

「ドーン樹…軽くて強い、しなりのある大樹ね」

「その通り。大抵の鍛治屋にはある素材じゃ」

「ありがとう、それからタイラント討伐での指揮、見事でした。今更ですが、お目にかかれて光栄です」

「ほほっ、娘ッ子、主も途中途中で主力のサポート、見事なお手前じゃ。…そうじゃの、お主が欲しいと思ったら声を掛けるといい」

「え?」

「2つ名じゃ。今はまだその時ではないがの。腕を磨きなさい」

「……」

なんか凄いこと、言われてないか?ファルーアの奴。

「それじゃあ、僕達は行くよ。次は1度王都に戻るつもりだ。また会おう、逆鱗のハルト。約束はその身で実感してくれ」

そうして、グロリアスはいなくなった。

ファルーアが、難しい顔で立ち尽くしていた。

「…ファルーア」

「ああ、ハルト。悪いわね、足が滑ったわ」

「いや、滑って踏まないだろ…。なんか凄いこと言われてたなあ」

「爆炎のガルフかあ…確かに、2つ名を頂けるなら彼がいいわ」

「え、そうなの?そんな凄い爺さんなんだ」

「ええーっ、ハルト爆炎のガルフ知らないの?…彼の者、地龍グレイドスを屠りし伝説のメイジ、だよ?」

ボーザックに言われて、驚いた。

「えっ、あれ、それって教科書に出てきたやつ?」

「ハルト君…もう少し勉強した方が…」

ディティアも呆れた声。

「何十年も前の歴史だよな?」

「だからあんな爺さんなんだろうに」

グランにまで言われて、俺はああ!と手を打った。

そうか、そんな凄い爺さんだったんだな…。

あー、そしたらあの龍眼の結晶は地龍グレイドスのもので、『そう』って言ってたのは…その骨って意味だろう。

ファルーアはその美しい顔立ちに、強い決意を秘めた眼差しで彼が出て行った扉を見つめていた。

「強くなって、そしたらだな」

俺が言うと、ファルーアは妖艶な笑みを浮かべる。

自信満々だった。

「ええ、時が来たらね。それに…上手くいけば杖の分くらい、角から余りが出るかもしれないわ」


******


グランが目指す盾の加工場所は、オルドーアから一月ほどの山間部にある鍛治士の街。

盾なら盾、大剣なら大剣を極めんとする、職人集団が住み着いて発展した街である。

素材を溶かすために炉を高温にする必要があり、それを可能にする燃料である燃炭岩が採れる採掘場が近いこと、冷却に必要な水…つまり川が傍にあることから、鍛冶士にとって最高の立地と称される。

評判を聞きつけた冒険者達が客となり、それはそれは繁盛しているとか。


その街、ニブルカルブ(最初の鍛冶士と言われる男の名前らしい)に向かう道中、俺は眼のいいボーザックと後方のファルーアに五感アップのバフをかけて警戒を任せ、ディティアに話しかけた。

「そういえば、シュヴァリエって王都出身なのか?」

確か別れ際に、王都に戻るつもりだって言ってたなあと思い出したのだ。

「わー、ハルト君…やっぱりそこからだったんだー」

ディティアが可哀想なものを見るように俺を見る。

「うわー、傷付くなー」

「そう考えると、ハルト君って2つ名には全く興味無かったんだね」

「え?そうか?でも俺、疾風のディティアには凄く興味あったけど」

「うっ、ええっ」

答えると、ディティアは眼を見開いて視線を逸らした。

今日もいい反応だなあ。

「ハルト、本当に無神経だよね…」

聴力も上がっているボーザックが、前から声をかけてくる。

俺は首を傾げた。

何か変なこと言ったかな?

「もう、ハルト君。あのね、シュヴァリエは、王国騎士団の団長になるのが決まってるのよ」

「……え?」

グランが見かねたのか、説明してくれた。

「王国騎士団は王と国民を守るために城に務める騎士達で、冒険者から騎士になる奴等も多い。それをまとめて束ねるのが騎士団長だが、代々、冒険者として名を売ってから就任するんだよ。誰もが認める騎士団長として立つためにな」

「へぇー……あいつ、そんな偉い奴だったんだ」

「そうだよ。だからシュヴァリエは、大規模討伐依頼とか難しい依頼は率先して受けるの」

なるほど。

俺は無駄に爽やかな雰囲気のあいつが、騎士っぽいと思ったことを思い出した。

「それであの服か……」

「あ、それは分かったんだ。うん、王国騎士団の団員服よ」

……あー。

騎士っぽいとは思ってたけど、本当に騎士の服だったのか。

「顔に出てるわよ、ハルト」


******


途中途中で魔物に襲われた。

大盾グランは素手でも結構強い。

いかつい割にキレのある動きで拳や蹴りを繰り出して、魔物をノックアウトする。

「っはー!やっぱグラン強いわ!」

ボーザックが自身の相手を斬り伏せて感心していると、グランは分厚い胸を張った。

「まあな、盾が無くても戦えて、初めて1人前だ」

そこに、1人で2体を倒してきたディティアがひらりと戻ってくる。

「もー、グランさん、ボーザック!手伝ってくれてもいいのに!」

「ああ、ティアごめん……」

ちなみに、俺とファルーアで1体を相手にしていた。

「楽できていいわね」

「ああ、ホントに」

最近は、少し自分の身体を鍛えようと思っていた。

せめて、五重バフに耐えうる身体は作っておきたいしな。

そのため、バフに頼らないで魔物と戦うことを心掛けている。

「よっ、はあっ!」

ディティアには遠く及ばない双剣さばきで、漸く仕留める。

少しは様になってきたか…?

「うんうん、ハルト君、動き良くなってきたね」

すぐ傍でにまにまと見守るディティアに、苦笑。

「手伝ってくれてもいいぞ、疾風のディティア」

「アドバイスはしますよ、逆鱗のハルト君」


旅は、順調である。


******


そうして。

約一月に及ぶ旅の末に、俺達は鍛冶士の街、ニブルカルブに辿り着いた。

途中、小さい街や村にいくつか寄って、簡単な依頼と補給をし、概ね行程通りの旅路だ。


「さあて、まずは大盾の鍛冶士に挨拶だ」

既に夕方。

山間の街は暗かったが、所々に赤々と炎の灯りがもれ、蒸気が絶えず上がっている。

この時間でも武器を鍛えるカンカンという音があちこちから聞こえた。

グランは角を背負い直すと、街を登り始める。

大盾の鍛冶士は、街のだいぶ高所に工房を構えているそうだ。

「グランさんの白薔薇の盾を造った人なんですよね」

「ああ。偏屈爺さんだが、いい盾を打つ」

「楽しみです」

すれ違うのは冒険者らしき人々が殆ど。

グランの背負う角を珍しそうに振り返る人も多かった。

とりあえず、話がついたら宿を取ろう。

久しぶりのベッドが恋しい。


「おい、爺さんいるかー」

高所も高所。

ニブルカルブのてっぺんに、鍛冶屋があった。

他の鍛冶屋よりだいぶ上にあることから、変わり者なのかもと予測する。

「冷やかしなら帰りな…おお、なんじゃ、白薔薇か」

出てきた人は…デカかった。

爺さんなんだけど、グランよりも大きい。

つるつるの頭に白い無精髭。

節くれ立った巨大な手。

俺達は眼を見開いて見入ってしまった。

「よお久しぶりだな。今日は……まず謝りてぇことがある」

「……入れ。後ろは……白薔薇のパーティーか?お前達も入れ。ここまで疲れただろう」


そこまで聞いて、白薔薇って俺達のことじゃなくてグランのことだと気付く。

へえ、それなりの付き合いなのかもしれない。


爺さんが中に引っ込むと、グランがにやりと振り返った。

「爺さんは巨人族でな。デカいだろ?」

「私、は、初めて見ました……」

「すげえ、グランよりデカい爺さんがこの世にいるなんて、俺今感動してる…」

ディティアとボーザックが感想を述べる。

俺達はとりあえず中に入り、適当に転がった丸太に座った。


「まずは、この大盾。……すまない、割れちまった」

「生涯を共にする盾として造ったつもりじゃったが……その後ろのやつが理由か?」

「ああ。……聞いて驚け、飛龍タイラントの角をとった」

グランが差し出した角を前にして、爺さんは30秒くらい、つるつるの頭を撫でていた。

俺達も黙っていた。

そして。

「なんと!?飛龍タイラントを討伐した白薔薇っつうパーティーはお前達か!?」

『遅ッ!?』

ボーザックとハモる。

爺さんは俺達を無視。

ぺしりとはげ頭を叩いて、角を触らせろと言った。

「ほお……状態も申し分ない。やるな白薔薇!いや、わしの大盾!……しかし盾にしてもこの素材はだいぶ余るぞ?」

「余りで大剣を造ってもらいたいんだ」

「さらに余るなら、龍眼の結晶の杖もね」

「ついでにタイラントの革鎧も2着造る予定なんだけど」

捲したてると、爺さんはまた30秒くらい黙ってしまった。

俺達も様子を見る。

「なんと!そんなに素材があるのか!?こうしちゃおれん、鍛冶士を集めるとしよう!」

『だから、遅ッ!?』

俺達がわいわいしていると、グランがひと言、付け足した。


「硬い盾が、ほしい。これからもっと強くなりたいんでな」



毎日0時更新予定です。


よろしくお願いします!

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