温泉は好きですか。②
さて。
移動しながらざっと見ると、依頼内容はこんな感じだった。
問題の源泉は街の外にある。
街の中にも温泉は湧いているため、わざわざ行く必要は無いんだけど、自然の中の源泉を見たい冒険者や観光客が行ったりしていたそうだ。
そこに、魔物が棲み着いた。
それがあっという間に噂になって、もしかしたら毒でも出してるんじゃないかって大問題になっているそうな。
……街の外にある源泉で毒まいてたとして、街の中にも影響するのか?とも思うんだけど。
とは言え、街にとっても大打撃であるこの討伐依頼、すぐにでも片付けなければならない。
それはわかってたんだけど、冒険者達が中々受けたがらない。
その理由が、魔物の容姿にあった。
どうも、おぞましい感じらしい。
俺はちょっとだけ、鍛治士の街、ニブルカルブの鉱山を思い出した。
黒くて跳ぶ、アレだ。
思わずぶるりと身体が震える。
嫌だなぁ…。
とは言え、受けてしまったもんはしょうがない。
徒歩で行ける距離なのと、馬が襲われたらかわいそうなので、俺達は半ば小走りで向かっている。
フェンは温泉の臭いに、終始鼻をふすふす言わせていた。
「しっかし、こんな平坦な場所にも温泉なんて湧くんだな」
グランが言う。
確かに、イメージは山の傍とかなんだけど…ここは見渡す限りは平野な気がした。
ただ、地熱のせいなのか暖かいところで育つ作物が多く実ってるような気もする。
「難しいことはわかんないけどさー、とりあえずやっつければいいんだよね?」
ボーザックは地面を確かめるようにとんとんと爪先で土を叩く。
ついでに身体を伸ばしつつ、辺りをきょろきょろと窺った。
源泉の一帯は、いくつかの池が点在しているように見えた。
蒸気が噴き上げる場所も見えて、視界は白くけぶっている。
「熱そうだな」
グランが警戒しながら呟く。
街よりも濃い硫黄の臭いが嗅覚を刺激するんで、ここで五感アップは使えない。
多分、使ったら臭いで卒倒しちゃうだろう。
フェンがふすふすからガフガフに変わったので、離れて待ってるように伝えて、俺達は源泉地帯に踏み入った。
フェンは不満そうだったけど、言うことを聞く約束だぞって言ったらおとなしく引き下がってくれたんだ。
……あとで肉でも買ってやらないとな。
******
……出てきたそれは。
本当に、もう、何て言うか、ヤバイ。
自分の全身が、あれはやばいって伝えてくる。
蒸気で暖かいはずなのに、肌は総毛立って、冷たい汗が滲む。
喉はからからに渇いた。
うん、わかる。
もしかして街の温泉にも毒が……いや、むしろそれのエキスとか出ちゃってるんじゃないか?って疑いたくなる。
「ごめんなさい」
ディティアはそれを発見した直後、早々に後方に下がる。
「グラン、期待しているわ」
ファルーアも……って!
「ファルーア!お前が1番適任だろうが!?」
グランが先に突っ込んでくれた。
「イヤよ、汚らわしい」
「で、でも俺もちょっと嫌だなぁ…」
ボーザックも顔をしかめた。
……黒い体躯。
6本の刺々しい脚。
細長い楕円形を描く身体には、なぜかぬらぬらしたテカり。
長く伸びた触角が、ゆらゆらと揺れている。
その大きさときたら……俺の半分くらいある。
それが、びっしり。
少なくとも、ひとかたまりで20匹くらいいた。
「ハルト、お前行けよ」
「ばっ、な、何言ってんだよグラン!ふざけんな、嫌だよ!」
「俺だって嫌だよ」
「ファルーアっ、焼いてくれよあれ!」
「だから、嫌よ……こっち来たらどうするつもり?」
「そっ、そんなこと言ったってさあ!?」
ぎゃあぎゃあ言い合っている俺達。
魔物は襲ってくる気配は無かった。
そこに。
「?……何故そんなに恐れるんだ?大した強さでも無かろうに」
イルヴァリエが、心底不思議そうに聞いてきたんでさあ大変。
「大きさじゃないのよ!これは死活問題よ!」
ファルーアに怒鳴られ、イルヴァリエは一瞬呆気にとられた。
「そ、そんなになのか?」
「そんなになんだよ!」
後ろからディティアが応戦する。
「っていうかイルヴァリエ!ならやっちゃってよ!」
「お、それいいな!イルヴァリエ、頼む!」
ボーザックと2人で励ますと、イルヴァリエはしぶしぶ剣を抜いた。
「では、いざ参らん」
おおお、やってくれんのか!!
思いの外、頼りになるやつである。
俺はひとり飛び込んでいくイルヴァリエにバフを投げてやった。
頼んだぞ!イルヴァリエ!
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