温泉は好きですか。①
農業大国、ヴァイス帝国。
皇帝(偉そうだという)ヴァイセンが治める、東西に長い領土を持つ大国。
その、見渡す限りの農作物は、日の光を一身に浴びてすくすく育ち、時には濃い草の香りを広げていた。
俺達はフェンを先頭に、街道をひたすら馬で駆ける。
途中に、農作業用の道具を入れたり、簡易的に寝泊まりが出来るよう造られた小屋もいくつかあって、利用させてもらったり。
移動に馬が多用されているので馬小屋も用意してあるから、思ったよりは快適だった。
そうして、1週間が過ぎる頃、畑の向こうに街が見え始めた。
「次の街は大きそうだな?」
グランが馬の背でぐるりと腕を回す。
「そろそろ身体が軋んでくるよねー」
ボーザックも伸びをした。
見えてきた街は、どうやら柵で囲まれているようだ。
まだはっきりはわからないんだけど、広そうに見える。
「ゆっくりした雰囲気の街だったな。でかい風呂があったぞ」
イルヴァリエが言うので、女性陣がぱあーっと笑顔になった。
「温泉?」
「いいわね、露天?」
「いや。私は入っていないのでな…」
「ええー!?どうして?」
ディティアが心底驚いたとでも言いたげな声で聞く。
「勿体ないわね」
ファルーアも残念なものを見るような眼。
イルヴァリエは困った顔をして頭をかいた。
「いや、どうしてと言われても…別に風呂など入らずとも」
『…!?』
女性陣が固まる。
「野宿の時は最悪、拭くだけで我慢するわ…でも、ねぇ?」
「う、うん…街にいるのにそれはちょっと」
「そうか?そんなこともなかろう。なあ、逆鱗のハルト」
「それ、俺に言うなよ。風呂は入るぞ」
「なんだと……」
そっか、風呂があるのか。
ちょっと楽しみだな。
「あったまりながらストレッチすると効率的だからねーイルヴァリエ」
「そうなのか?」
「わかんないけどねー」
「そ、そうなのか」
「そういうことじゃないのよ!」
「もー、ボーザックもそうじゃなーーい」
「全く……お前らは風呂の嗜みも知らねぇのか」
グランまで参戦して、俺達はわいわいと街に向かった。
******
「はあ?どういうことだ?」
「何で!お風呂が閉鎖って!?」
グランとディティアが詰め寄ったので、かわいそうに、ギルド員は後退った。
……宿場街カタルーペ。
思ってたよりもさらに大きいその街は、ヴァイス帝国の東西を結ぶ街道の休憩拠点だった。
もちろん、温泉もある。
柵でぐるりと囲まれた街は至る所に湯気が立ち上り、温泉特有の匂いがする。
たっぷりの野菜で育った鶏の卵が温泉の源泉で温められて、とろりとした半熟になった『温泉卵』なるものが人気らしい。
後で食べなきゃな。
「……じ、実は、魔物が源泉のあたりで見つかって……」
「魔物!?」
そんなカタルーペのギルドで、温泉に入りたい俺達は早速お風呂の場所を聞いた。
そして返ってきた言葉が「今は閉鎖中」だったのである。
「おい、姉ちゃん」
「はっ、はいっ」
いかついグランに詰め寄られ、ギルド員は涙目。
「そいつ、討伐依頼は出てんだろうな?」
「あっ、は、はい……に、認証カード持ちの依頼なんですが」
「ほらよっ、すぐ寄越せ!」
名誉勲章を引っ張りだし、グランは鼻息荒く言う。
ディティアとファルーアもめちゃくちゃ真剣だ。
久しぶりの依頼だしなー、身体が鈍らないようにしないとならないし、たまには戦っておかないと。
俺達はすぐに出発することになった。
11日分の投稿です。
毎日更新していますが、遅れてしまいました。
しかも!
データが消えてしまうという悲しい現実に遭遇しました。
すみません、ほんとにお読みくださってありがとうございます!




