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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ アイシャ

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決別を選ぶのは⑥

******



「状況は芳しくないですね。まったく……災難もいいところです。始祖人を運んで取り調べやら薬の精製やらを手伝うことになったのは仕方ないとしても、襲撃があるなんて……」


 廊下は石造りで松明が等間隔に並び、意外と明るい。


 俺たちの前を歩く〈爆呪〉は薄くなった頭を振って深々溜息をつくとチラと横目でこっちを見る。


「〈爆突〉の合図(・・)があったから様子を見にきましたが……気付かなかったら門は開きませんでしたよ?」


「なぁに、心配はいらん。開かなければ〈逆鱗〉のバフで登るだけだ。気付かないとは思えないがな」


 笑ったのは〈爆風〉だけど……〈爆突〉の合図ってなんだ?


 あー、もしかして城壁をガツガツ突いていたあれか?


「〈爆呪〉は敵の妨害が好物だからな。門付近には感知のための魔法を施してあって、触れれば〈爆呪〉に伝わるという寸法だ。その魔法を特定のやり方で突くことで合図にもなる」


 考えていたら〈爆風〉が説明してくれた。


 俺はボーザックと二人で「へえー」と相槌を打ち、〈爆呪〉の背中に言葉を投げた。 


「それで、薬はできたのか?」


「ええ。量産に少し時間は必要ですがね。それもこの状態では――」


 ズゴゴォォッ……!


 瞬間、低い音が轟いて天井からぱらぱらと砂が落ちてきた。


「――今のは龍が吐く炎の球によるものですね」


 薬が出来たことは喜ぶべきなんだけど、俺は思わず天井を見上げて別の言葉を口にする。


「え……大丈夫なのか?」


「ユーグルが防御用の兵器も運んできてくれました。今は城全体を防御膜が覆っている状況です。かなり揺れますが」


「つまり今のところは大丈夫なんだな?」


〈爆呪〉の言葉にアイザックが質問を重ねる。


 彼はちらと目線だけ寄越して小さく首を振った。


「今のところは、です。長くは保ちませんよ……魔力結晶の消費が激しすぎる。黒い龍を操る始祖人の居場所もはっきりしていませんから、反撃に出るのを躊躇っているのが現状です」


「あ? 居場所がわからねぇだと? しまったな――フェンを置いてくるべきじゃなかったか」


 グランが眉を寄せるけれど仕方ない。


 町の虫だって何とかするべきだし、フェンを残したのは英断のはずだ。


「なら現状は王を護るのが最優先ということかしら?」


 そこでファルーアが言うと、再び轟音がして城が震えた。


 全員が足を止め、パラパラ落ちてくる砂粒を手で払ったりして眼を眇める。


 こんなに揺れると不安になるな。本当に大丈夫なのか? これ……。


「……そうですね、国の陥落とは即ち王の首を獲ることでしょう。その後は力で捻じ伏せるだけでいいのですから」


 揺れと砂粒が落ち着くと、〈爆呪〉はこちらを確認してすぐに歩みを再開した。


「この後は休んでいられませんよ、覚悟してくださいね」


「なら一度うちの大将と合流しようぜ。作戦を立てるべきだ」


〈爆呪〉の言葉に被せるようにしてアイザックが言うので、俺たちは頷く。


 自ら会いに行くのは非常に不本意だけど文句を言っている場合じゃないしな。


 やたらキラキラした空気を纏う嫌味な騎士を思い出し、俺はこっそりため息をこぼした。


「ふむ。敷地内に魔物や操られた者はいないのか? 見回りはどうしている?」


 けれど、ただひとり〈爆風〉だけは足を止めたままそう言って腕を組んだ。


 なにか引っ掛かっているのか、その表情は疑念に満ちている。


「……残念ですが正式な答えは持ち合わせてないんですよ。私が護っているのは城門だけ(・・・・)です。防御膜の中に入り込まれていたら――確認する方法がありません」


〈爆呪〉が答えると静かにしていた〈爆突のラウンダ〉が狭い廊下で器用に槍を回した。


「まあこの状況なら十中八九、もう中にいるんだろうぜ?」


「うん、俺もその考えだ。外の龍が城を攻めあぐねる理由がわからなかったが――腑に落ちた」


〈爆風〉はそう応え、難しい顔の〈爆呪〉を見る。


「気付いているんだろう? 妨害好きのお前が何も手を打っていないわけがない」


「……ふふ。まあ、そうですね。兵器の魔法は素晴らしいものですが、龍を殲滅できるほどではありませんでした。全力で攻め込むことで防御膜も突破できる力が相手にはあります。それなのに見せかけの攻撃しかしてこないのは何故なのか。龍に時間を稼がせて魔力結晶切れを狙っている可能性も考えましたが……それにしてはお粗末です。別に目的があると考えるのが妥当でしょう」


「うん。同感だ。城内での活動時間を稼いでいると考えるのが妥当だろう。始祖人が紛れるとすればどこだと思う」


〈爆風〉が言うとアイザックが眉を寄せながら言った。


「それなら尚のことシュヴァリエに会うべきだ。城の警備は騎士団が担っているから潜り込むなら騎士団が早いだろ? シュヴァリエなら見張りの状況も把握しているはずだからな、怪しい奴がいればわかる」  


 でも俺は思わず眉をひそめる。


 するとディティアが即座に反応して顎を引いた。


「私もたぶん、ハルト君と同じ考えだよ」


「ああ。ここに居るのはクトラフのはずだ。だったら騎士団っていうより、城で魔力結晶とかを研究してる――」


 瞬間。



 ズガアァァンッ!



 いままでとは違う衝撃と爆発音で城が震えた。


「……いまの音……龍の攻撃じゃないよね!?」


「ええ。城の内部のようね」


 あたりを見回すボーザックにファルーアが冷静に言って杖を構え、俺は息を呑む。


 グランはヒュッと喉を鳴らし、次いでギリッと歯を鳴らした。


「クトラフは魔物の研究をしていやがったな……クソッ、まさか研究員に紛れ込んだってのか!? なら狙われるのは――」


「薬、かもしれません」


 静かに。けれど張り詰めた声でディティアが続ける。


 それを聞いたアイザックがハッと肩を跳ねさせた。

 

「薬を作っているのは〈豪傑〉の姉とデミーグか……!」


 グランは唸るようにして頷く。


「〈爆呪〉、すぐ案内してくれ。おい〈祝福〉、悪いが同行してもらうぞ。ハルトのバフにはお前のヒールが必須だ!」



******



〈爆呪〉の案内で階段を二つ登り、一つ下り、また登る。


 グランの姉、アルミラさんは城でデミーグさんとともに薬を作っていたはずだ。


 当然、城で魔力結晶を研究していた研究員達も薬作りに協力しているだろう。


 それだけでなく、グランの両親もアルミラさんに会いに城へ向かっていた。


 嫌な予感が胸を締め付けるけれど、グランはもっと苦しいだろう。


 俺たちは迷路のような城を駆け抜け、その場所にたどり着く。


 入口から土煙を上げる部屋は見通しが悪く、ツンとした刺激臭が鼻を突いた。


 なにかの薬品か? 爆発で飛び散ったんだ、きっと。


 部屋の中に気配はあるけれど――(もや)の向こうで姿は見えない。


「姉貴! おい、いるのか!?」


 グランが呼ぶと――答えたのは聞き覚えのある声だった。


「グラン君、かな!?」


「デミーグさん! げほげほっ……大丈夫? どうなってるの!?」


 ボーザックが問えば、デミーグさんらしき声はゲホゴホと()せ返る。


「ゴホッ……ボーザック君もいる……ということは〔白薔薇〕は揃っている、かな!?」


「ああ、いる! いまそっちに……」


 そう言って俺が部屋に突入しようとするとデミーグさんは悲鳴のような声を上げた。


「いけない! こちらは後にしてほしいかな〈逆鱗〉君! アルミラが逃げたかな!」


「逃げた? 始祖人が攻撃してきたんだな!?」


〈爆突〉が言ったけれど――デミーグさんは悲痛な声で告げる。


「違う。アルミラが……アルミラが操られた! 再発したかな!」




「…………あ?」




 たぶん皆、よくわからなかったと思う。


 俺もそうだった。


 だからグランがポツンと聞き返したときに誰も答えられなかった。


 再発って……だってアルミラさんは治っていたんじゃないのか?


 だとしたらアルミラさんを操れるのは彼女を噛んだ始祖人――。



「…………セウォル……いやがるのか、あいつもここにッ」



 ――そう。


〈爆風〉が傷を負わせた始祖人、アルミラさんを昏睡状態にした元凶がここにいるということになる。


「部屋は薬品でけぶっているだけだから僕は大丈夫かな! 君たちはアルミラを……おそらく薬の保管庫に向かう、かな!」


 デミーグさんの訴えにグランは「ああ」とだけ返し、半身を引いて呟いた。



「姉貴を探す。決別を選ぶのは――二度と御免だ」

 


皆様こんばんは!

今日はいつもより少し長めです。

急にというかとうとうというか、寒くなってきましたので暖かくお過ごしをば。

引き続きよろしくお願いします!

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