表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ アイシャ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

845/847

決別を選ぶのは⑤

******



 まあ、そんなこんなで。


 俺たちは各々『高栄養バー』を頬張り僅かながらの水を飲んで準備を整え、そのあいだムルジャが出来うる限りの情報を共有してくれた。


 途中で満足したらしい〈爆突〉も入ってきたので高栄養バーを分けておく。


「城にある兵器のお陰で龍も二の足――いいえ、二の翼を羽ばたいております。王も無事と思われますが着実に城の被害は拡大しており、保ってあと数日かと」


「なあ、うちの大将から連絡は来てないのか?」


 そこでアイザックが口を開く。


 かなり気を揉んでいたのだろう。黙っていた彼の眉間にはずっと深い皺が刻まれていた。


「これは失礼を。〈閃光のシュヴァリエ〉様でしたら、直接こちらに寄られましたぞ。始祖人をひとり捕縛し王都に移送するところで、彼だけが始祖人を連れて先行したとのこと。それが三日ほど前ですから、彼の部隊は今しばらく戻らないでしょうな」


「そ、そうか……!」


 あからさまにホッとしたアイザックは俺たちの生温い視線に気付くと澄まし顔になり、ゴホンとわざとらしい咳払いをする。


「なら王と姫はシュヴァリエが護ってるはずだ。心配ない」


「城には俺の姉貴も両親もいるはずだからな。物資はうまく回してんだろうよ。デミーグの薬も完成しているかもしれねぇし――まあなんだ。よかったな!」


 グランがばしんとアイザックの背を叩くけど――厳つい絵面だなぁ。


 一瞬気が抜けてしまい、俺はすぐさま首を振る。


 いやいや、油断禁物だ。気を引き締めておかないと。


 すると隣のディティアが苦笑した。


「ハルト君……顔に出てる」


「えっ、いやいや、ほら、いまは引き締まってるだろ?」


 思わず自身の顔を指差して向き直ると、彼女のエメラルドグリーンの瞳が大きく瞬かれた。


「そっ……そう、言われると……えぇとッ」


「ハルト。ティアを揶揄うのはやめてあげなさい?」


「は? なんだよ揶揄うって……至って真面目だけど?」


「わー……本気なのがハルトらしいー……」


 ファルーアとボーザックに言われて顔を顰めると、今度はグランの声。


「おいハルトー。そろそろ気合入れとけよ?」


「いや、だからちゃんと気を引き締めたとこなんだけど?」


 口を尖らせた俺に向かって、再び机の下に寝そべっていたフェンが『がふぅ』と呆れたような鼻音で応えて……なんだよ、もう。


 そもそもグランとアイザックのせいだからな!



******



 そうして僅かな休憩を挟み外に出た俺たちは『五感アップ』『持久力アップ』『速度アップ』のバフを重ね、一気に城への道を駆け抜けた。


『魔力感知』もかけたかったけど、時折空を奔る雷の魔法が眩しすぎるので却下。


 ちなみに貴族街はひっそりしていたけどひとが居ないわけではなくて、屋敷の中に無数の気配があるところが殆どだった。


 はっきり感じ取れるのだから昏睡しているわけじゃないのも間違いない。


 勿論操られているわけでもないだろうから、意図的に留まっているのだ。


「残っているのは意外だわ。忠誠心ってことかしら?」


「王国騎士団に所属しているのは貴族が多いからな……身内が城にいるんだろう」


 こぼしたファルーアにすぐ応えたのはアイザックで、彼はさっきとは打って変わって眼をギラギラさせている。


 ……まあ、仲間が無事だとわかったときの安心感というか……その気持ちは俺もよくわかるしな。


 別にシュヴァリエのことなんてこれっぽっちも心配してないけど。


 ――あいつが強いからとか、そんなんじゃないぞ。断じて。


 なんとなくイラッとしたので鼻を鳴らすとボーザックが笑った。


「アイザック見て笑ったと思ったら顰めっ面して……ハルトって本当に顔に出るよね」


「ん? 俺、そんな顔してたか?」


「うんー。ホッとしたって顔してた。その気持ちはわかるかんねー。まあ俺はハルトと違って〈閃光のシュヴァリエ〉のことも人並みには心配してたつもりだけどさ」


「……は? 嘘だろ。そこまでわかるのか? 顔で?」


「わかるわかる」


 さすがにシュヴァリエのことを考えたのがバレるとは思ってなかった……。


「おいハルト、ボーザック。ちゃんと気ぃ引き締めておけー」


 そこでグランが言ったので、俺はぶんぶんと首を振って頬をぐにぐにと揉んだ。


 集中しておこう。


 ボーザックはニッと笑うと前方に目を向け足早に進む。


「城の裏手は手薄に感じますね。上空の龍たちも正面に多いみたいだし。アイザックさん、裏門を使ったことは?」


 そこでディティアが空の様子を窺いながら言うと、アイザックは顎で左の方角を指した。


「当然ある。あっちだ、行くぞ〔白薔薇〕」


「なんだなんだ若者たち、正面突破しないのか?」


「あはは、それも格好いいんだけどねー」


 即刻言い放ったのは〈爆突〉で、ボーザックがカラカラと笑う。


「暴れるのは中に入ってからよ。有象無象よりも元凶を押さえて頂戴。そちらのほうが余程素敵なんじゃないかしら?」


 ファルーアが言うと〈爆突〉はニヤリと笑みを浮かべた。


「まあそうだな。さっさと制圧しようぜ?」


「あくまで制圧だからな〈爆突〉。狩らないでくれよ?」


「ははは。〈爆突〉相手に随分言えるようになったな〈逆鱗〉」


「うぐ。〈爆風〉は黙っててくれよ……」


 俺は〈爆風のガイルディア〉が颯爽と歩くのに続き、城の方角を仰ぐ。


 高い城壁によって全貌は見えないが、空を埋める黒龍はまだまだ数が多い。


『五感アップ』を重ねれば戦闘音も拾えるかもしれないけど……兵器の音があまりに爆音だったので結局いまは消していた。


 内部がどうなっているのかをもっと探れたらいいのにな……。


「……ハルト。気負いすぎるんじゃねぇぞ」


 俺のやきもきした気持ちを察したのか声を掛けてくれたのはグランだ。


 頼りになる纏め役に、俺は口角を吊り上げて頷いてみせる。


「わかってる。さっさと始祖人見つけて押さえよう!」


 その時、城壁を槍でガツガツ突いていた〈爆突〉が槍をぐるんと回転させて構えた。


「おっと、客のようだぜ〔白薔薇〕!」


 なにやってたんだ? と思ったのも束の間。


 正面――裏門からこちらに走ってくる影がいくつも見えてきた。


 眼が紅くギラついた――騎士のような誰かたち(・・・・)


 どう見ても操られているけれど、門が破られているわけではなさそうだ。


「手薄とはいっても流石にすんなり通らせてはくれねぇか」


 グランはそう言うと当然のように俺を見る。


「バフ寄越せハルト。一撃で意識をぶっ飛ばす!」


「任せろ! 『肉体強化』『肉体強化』ッ!」


『持久力アップ』と『速度アップ』を残し、『肉体強化』を二重に。


 グランは左足を大きく前に出してギュッと地面を踏み締めると、ふーっと息を吸い――。



「おおぉっらあぁぁァッ!」



 凄まじい掛け声とともに、向かってくる騎士へと大盾を突き込んだ。


 ドゴアッ……!


 鈍く重たい音が響き、先頭の男性がもんどり打って地面に伏す。


 宣言通り意識は刈り取られていたけれど、それを確認することなくグランは次の一人を殴り飛ばし、その次を殴り飛ばして前に進んでいく。


「はっは! 大盾ってのは便利なんだなあ!」


〈爆突〉は言いながら大外から回り込んできた騎士を槍の石突で突き倒し、裏門を見遣った。


「さて。動いてるのはあと十人ってとこか? 中には〈爆呪〉もいるみたいだしな……そろそろか」


「!」


 瞬間、俺は思わず身構えた。


 なんだろう、ざわざわする感じ――魔法が発動する時のそれだ。


 ど ぱ あ っ!


 次の瞬間には走ってくる騎士たちの足下から泥が噴き出して彼等を包み込み、岩のように硬化する。


「――今のうちに入ってください。全員を縛っておくのは疲れるので」


 その声に再び裏門を見れば〈爆突〉の言葉どおり……〈爆呪のヨールディ〉が裏門を開けて手招きしていた。

皆様こんばんは!

ちょこちょこ書いておりますが、

もっとなんとかならないものかと自問自答しつつおります……

見てくださる皆様に感謝を!

引き続きよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
こんばんわ!! 爆の冒険者と白薔薇、さすがにかっこいいですね^ ^ もちろん、ハルトくんの活躍も楽しみです〜 更新はゆっくりでよいですよ〜 ご無理なさらず^ ^
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ