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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ アイシャ

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844/847

決別を選ぶのは④

******


 ラナンクロスト王都ギルド長、名はムルジャ。


 爺ちゃんの見た目に反してその機敏な動きはいつ見ても圧巻で、仕事ができることに疑いの余地はない。


 彼は窓からずかずか入ってきた俺たちを待ち構えていて、扉付近で優雅に一礼してみせた。


「これはこれは名誉勲章を授かりし〔白薔薇〕の皆様。〔グロリアス〕の〈祝福のアイザック〉様。そして――伝説の〈爆〉。久し振りですな。お待ちしておりましたぞ」


「うん。まだ生きていたか爺さん。健勝でなによりだ。本題を頼む」


〈爆風〉は歯を見せて笑ってみせ、ムルジャもなんだか嬉しそうに頬を緩める。


 そっか、考えてみたら彼等が知り合いだっていうのは当然だろう。


 そんなムルジャは部屋にある長机を囲むように俺たちを座らせ、すぐに資料を持ってきた。


 ランプの灯りで照らし出された資料はかなりの枚数で、彼等ギルド員の苦労と努力が垣間見える。


 彼の手にはペンがあり凄まじい速さでクルクルと回されていて――そうそう。ムルジャといえばこれだよな。


「現状、始祖人の情報は〈閃光のシュヴァリエ〉様の通達により騎士団とギルド間で全て共有されております。飛ばしてくださった草原の町アーヴェルからの伝達龍も到着し警戒を行っていましたが……残念ながら城を襲撃されたのが昨日。冒険者の多くは援護に回っておりましてな」


「昨日か……」


 グランが顎髭を擦りながら唸るように言うが、こればかりは――時間が戻るわけでもない。


 ムルジャはひと呼吸置いて華麗にペンを回してから続けた。


「ノクティア王国、ハイルデン王国、ヴァイス帝国から兵器使用の賛同を得られていたのは大きかったですぞ。使者として派遣されたドーン王国のシエリア王子には感謝してもしきれません」


 兵器を使用できていたお陰で黒い龍は攻め倦ねていたんだろう。


 俺は胸のなかでシエリアに称賛を贈る。


 まあ正直、想像よりはるかに巨大な物だったしな……道具なんて言い方は適切じゃない。あれは言葉どおり兵器だと誰もが思うはずだ。


 だから城を守れるんじゃないかって期待したけれど、ムルジャの話は決していい方向に転じたりはしなかった。


「時を同じくして昏睡状態に陥る民が多数出始めました。どうやら報告書にあった()も入り込んでいるようです。龍が城だけを狙うのは、残りを虫にやらせればいいと判断したから――でしょうな」


「そんな……アーヴェルにいた虫で全部じゃなかったのか。ひとが少ない気がするのもそのせいだな?」


 俺が言うとムルジャは自慢の口髭を撫でながら頷く。


「はい。幸いにも振り払うことである程度の対策は可能ですからな。バッファーとヒーラーを集めていたのも功を奏し、噛まれて昏睡しなかった者については早々に捕縛し対応できています。城に向かう前に抑えることで微力ながら援護にはなっているでしょうな。ここに残した冒険者たちは巡回を行い危険の周知と混乱の収束に努めている次第ですが――あまり疲れさせないでやってほしいのが本音です」


「まったくだわ。〈爆突〉についてはすぐ止めてもらうとして……一番の脅威は城に居そうね。私たちは迎撃と城の防衛にまわっていいのかしら?」


「勿論ですとも。こちらからも依頼させていただきたい。しかし空からはご覧のとおり向かえませんので、徒歩になりますな……トロッコも停止しております故」


 ファルーアの言葉にムルジャが言う。


「元々そのつもりだし任せてよー。ハルトのバフもあるし俺たちなら問題ないと思う」


 ボーザックが頷くと、グランがちらとファルーアを見た。


「あー、なんだ。雷は大丈夫か?」


「あら、なんのこと? と言いたいところだけれど……余計な心配を掛けるわけにもいかないわね。〈爆風のガイルディア〉が鍛えてくれたお陰で魔力を感じ取れるから大丈夫みたいだわ。私のなかであれは『雷ではなくて魔法』という認識ができているようよ」


「……そ、そうか。違いがよくわからねぇが……ファルーアが大丈夫ならそれでいい。駄目だとしても助けてやれそうにないんだが」


「気にしないで前だけ守っていて頂戴。虫が来たらすぐ排除するわ」


 するとディティアが困った顔で少し考える仕種をみせた。


「ここに虫がいるってことは、虫を制御する石板もどこかにあるのかもしれないね」


「だな。始祖人が持っているとも限らないし、フェンが臭いで捜せるはずだ。気に掛けながら行こう」 


「王都は広いぞ〈逆鱗〉。石板が一枚とも限らん。だとすればアーヴェルから持ち出した石板にも虫が集まる可能性がある」


 俺が応えたところに〈爆風〉が言うけど……そうだ、俺たちも石板を持ってきたんだったな。


「でしたら、こちらで石板を預かり虫を排除しましょう。寄ってきたら塵も遺さぬよう手厚く歓迎しますぞ。対応も楽になりますからな」


「そりゃありがてぇ。頼む」


 即座に判断したムルジャにグランが頷いて、石板はギルドに渡すことに決まった。


 続けてグランは足下のフェンを覗き込む。


「――フェン。お前はギルドと連携して石板を捜せねぇか? 自慢の鼻なら操られた冒険者にも対応できるだろうよ?」


 フェンは耳をぴくりと動かすと頭だけ持ち上げてグランを見詰める。


「このまま王都を放っておくわけにもいかねぇからな……」


『あうぅん』


 彼女(フェン)は仕方ないとでも言うように鳴いてみせ、机の下から出るとブルブルッと体を震わせた。


「一緒に行きたかったろうよ、当然俺もだ。お前だって〔白薔薇〕なんだからな」


 グランはそんなフェンの鼻先を大きな手でわしわしと撫でる。


 出逢った頃は頭まですっぽり納まりそうだったのに、いまやその鼻先すらグランの手で覆うことはできない。


「フェン、石板をお願いするね。終わったら合流しよう? お城にロディウルも居るはずだから、あとは任せて」


 堪らなくなったのかディティアが飛び付き、ファルーアもフェンの滑らかな背を撫でた。


 ……あれ、もしかしていまなら俺も触れるんじゃないか?


 思わず手を伸ばすと、大きな尻尾がぶわんと振るわれて俺の顔面を叩く。


「ぶっ……! おいこらフェン!」


『ふっすう』


「お前なぁ! いいだろ、減るもんじゃないんだから!」


「ははは。完全におちょくられているな〈逆鱗〉」


〈爆風〉にも笑われたけど――なんだよ! 俺がなにしたっていうんだよ!




いつもありがとうございます!

Xでご報告をポストしました。

よかったらどぞー。

ハルトもちまちまですが更新していきたいと思っています。

よろしくお願いいたします!

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