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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ アイシャ

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進退を決するは④

******


「ちょっと。何度もゴロゴロしないでほしいのだけれど。気になって眠れないわ?」


 ファルーアが眉間に皺を寄せて背嚢から上半身を出すと、隣の背嚢から渋い顔をしたアイザックが顔を出した。


「いや悪い……どうも隣が異性ってのに慣れなくてな」


「はあ? なにを言っているのよ今更。〔グロリアス〕だって〈迅雷のナーガ〉がいるでしょう。それにフェンもいるわ。ふたりきりでもないのに……」


 呆れたように口にするファルーアの向こう、フェンが自身の背嚢から鼻先だけ突き出して『あぉん』と眠そうな声を上げる。


「あー、なにかあるとき〈迅雷〉は〈爆炎〉の爺さんと座るんだよ。俺はシュヴァリエの隣が多くてな……。すまん〈銀風〉、お前はなんというか例外だ」


 応えるアイザックに『ふすぅ』と鼻を鳴らしたフェンが自分の背嚢に引っ込んでいく。


 心底どうでもよさそうだ。


 ファルーアはそれを確認してから口を開いた。


「……言われてみれば〈迅雷のナーガ〉は〈閃光のシュヴァリエ〉の後方に控えていることが多かったわね」


「だろ。なんつうか……崇拝してんだよ。だから隣は烏滸(おこ)がましいっていうのか? そんな感情があるみたいでな」


 思い当たる節はある。ファルーアは大袈裟に肩を竦めて髪を手櫛で整えた。


「そのナーガもハルトには懐いているわ。不思議なものね」


「あー。〈逆鱗の〉はなぁ……あれこそ例外だろうな。シュヴァリエも随分気に入ってるようだし」


「そういえばそうね、ふふ、どうしてなのかしら」


 思わずくすくす笑ったファルーアに、アイザックは少し考えて笑った。


「シュヴァリエを特別扱いしなかったから――かもな。寧ろ貶してたくらいで……ははっ、こんなこと言ったってバレたらうちの大将になに言われるかわからないが」


「あら、私はもっと言っていいと思うわ? それくらいの分別、次期騎士団長様が付けられないはずがないもの。でしょう?」


「言うなあ〈光炎〉」


 澄ました顔で言ってのけたファルーアに苦笑を返し、アイザックは唸る風の音に耳を澄ませる。


 ほかの風将軍(ヤールウィンド)の羽音が微かに掠め、夜の空気が頬に冷たい。


「…………あっちも片付いてるはずだよな」


 思わずこぼれたのだろう。シュヴァリエたちの動向が気になるのだろうと察したファルーアは深呼吸を挟んでからゆっくりと唇を開いた。


「――当然よ。あっちには〔グロリアス〕の〈閃光のシュヴァリエ〉がいるのだもの。私たちは信じて進むだけよ」


 アイザックはそう言われて仲間とはぐれた〈逆鱗の〉が不安そうにしていたことを思い出す。


 グランとボーザック、そしていまはすぐ隣にいるファルーアの安否が不明だったときだ。


 再会を願うと口にしたハルトに、自分だってもう一度会うことを疑っていない……なんて言ってのけた。


 けれど、そう。信じて合流したとして――今回はあのときとは違うだろう。


「……なあ、お前たち〔白薔薇〕は不安にならないのか? 今回の相手は魔物や悪人ばかりじゃない。操られた善人だって多いんだぞ」


 だからそう口にしたアイザックにファルーアはいつもの妖艶な笑みを浮かべる。


「弱音を吐くなら仲間に吐いて皆で支え合うわ。それが私たち〔白薔薇〕よ」


******


「なあ〈爆突〉。始祖人をみつけたらまずどうすべきだと思う?」


 そろそろ休んでおくべきかと考えながら俺が言うと〈爆突〉が片目を開けて俺を見た。


 彼は星空にも会話にも飽きたのかずっと瞼を下ろしていたんだけど、眠っているわけじゃなさそうだ。


「俺に聞くのか? 狩るって言ったのに変わってるなあ、お前……まあいいぜ、答えてやる。始祖人がなにか手を隠してるかもしれない。迂闊に近寄るのは危険だ。〈爆呪〉の妨害があれば頼るほうがいい」


「狩るのはナシだからな? 無力化させる必要はあるかもしれないけど。……妨害ならファルーアがいればやれる。目と口を塞げばいけると思うか?」


「お前たちの話のとおりなら気を付けることはふたつ。噛まれない、目を合わせない。これだけだ。目と口を塞げば事足りる――と言いたいところだが、さっきも言ったとおりなにか隠してるかもしれない。厳重にやるなら〈爆呪〉のやったように全身を覆うべきだな」


 確かに〈爆突〉の言うとおりだ。


 始祖人の統べる者と従ずる者が一緒に行動している可能性だってある。


 眠らされるのではない別の効果があるかもしれないもんな。


 考えていると彼はまた瞼を下ろしてぼやいた。


「まあバフで防げるんなら気にせず狩ればいいだろ」


「いや、だから狩らないって……」


 彼を真似て目を閉じてみたが、どういうわけか感覚が研ぎ澄まされるばかり。


 俺は寝るのを諦めて続けた。


「始祖人が王都に辿り着いていたらさ――」


「やめとけ〈逆鱗〉。考えるだけ無駄だぞ。なるようにしかならないぜ?」


「う……」


「言ったろ、休めるときに休め。戦うために休め。目閉じてじっとしてろ、見張りはしといてやるから」


「はい……」


 また言われてしまった。


 俺はおとなしく返事をして――いつしか眠りに落ちていた。


 感覚が研ぎ澄まされていても眠くはなるんだな……。


皆様こんにちは!

本日もよろしくお願いします。

そろそろラナンクロスト王都に参ります!

いつもありがとうございます。

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