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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ アイシャ

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進退を決するは③

******


「ところでさー。なんで〈爆風のガイルディア〉が俺と乗ってるのー? もしかして〈爆突のラウンダ〉がハルトに用事とかー?」


 背嚢の中で自身の左腕を枕にしたボーザックが心底不思議そうに聞くと、〈爆風〉は仰向けになって瞼を閉じたまま鼻先で笑った。


「俺がお前に用事だ。少し褒めてやろうと思ってな」


「褒め……えぇ?」


「お前、海都オルドーアで〈爆突〉と〈爆呪〉の気配を察知していただろう?」


「んー? ああ、屋上でなんにもできなかったときのアレ? はぁ……俺だけ活躍できなかったなぁって結構凹んでるけどね……」


「そうでもないぞ。恐らく下に居た三人は察知できていないからな」


「……?」


 眉を寄せ背嚢からにょっきり上半身を突き出したボーザックに〈爆風〉は星が瞬く夜空を眺めながら続けた。


「〈爆突〉も〈爆呪〉も気配を絶つのは得意だ。当然俺もだが、あのときお前は本気で気配を絶っていたふたりを確実に捉えていた。いまのお前を相手に気配を隠すのは容易ではないだろう」


「……え、え? つまりどういうこと? 俺、強くなってるってこと?」


「強く――というかは定義に依るかもしれん。だが、少なくともお前が神経を研ぎ澄ませているあいだに奇襲を受けることはない。冒険において重要だろう」


「うーん……冒険には役立つけど、例えば剣術闘技会ではあんまり使えない感じ?」


「剣術闘技会か――ふむ。十分使えるぞ? 相手の剣筋をいち早く捉えられるからな。防御にも回避にも必要な感覚だと思え。……まあ併せて反応速度も実際の体捌きも磨かなければ意味がない――ひとつでは足りんといったところか」


〈爆風〉が応えれば、ボーザックは首を捻って「ぐぅ」と喉を詰まらせたような呻き声を上げた。


「結局は鍛えないと駄目ってことだよね……」


「はは。そうなるな。だが安心しろ〈不屈〉。ともに行動しているからわかるが、お前の動きは切れが増している。いつかに鍛えてやったときとは段違いだ」


「あー、ハルトとふたりでボコボコにされたとき?」


 あのときは悔しくて堪らなかったな、と感傷的になったボーザックはすぐさま頭を振る。


 冷たい夜の風が冷静にさせてくれるので、彼は大きく息を吸い込んだ。


「……あのさ〈爆風のガイルディア〉。俺、罪を犯したとしても生きたいって願う誰かを『狩る』のには納得いかないんだ、いまも。だけど、赦した誰かがほかの誰かを傷付けたら恐いっていう気持ちはよくわかる。……だからかな。お人好しの俺たちに〈爆風のガイルディア〉が歩み寄ってくれてるのも感じてるよ。ありがとう」


 彼が〔白薔薇〕として行動し、鍛えてくれること。


 それはボーザックが強くなるためには必須だった。


 自分たちだけでは登れなかった高みに、彼が引き上げてくれているのだ。


「始祖人を止めてアイシャに平和取り戻して――もっと強くなるからさ、俺。そのときはまた相手してほしい」


 どこか清々しい顔で言ったボーザックに黙って耳を傾けていた〈爆風〉は歯を見せて笑った。


「うん、いいだろう。望みどおり改めてボコボコにしてやるぞ〈不屈〉」


「えぇ、俺がボコボコにされる前提なの?」


「当たり前だろう? そう簡単に追い付かれてはやらん」


 ははは、と楽しそうに笑った〈爆風〉にボーザックは困ったように微笑んでみせる。


 実際問題、彼に追い付くことができるのかはわからない。


 ――けれど。


「ヨボヨボのお爺さんになってから負かすんじゃ俺の罪悪感がすごそうだし、もう少し早めになんとかしないとねー」


 言ってみせれば〈爆風〉はますます破顔して頷いた。


「いい心掛けだ。俺の寿命が尽きる前には負かしてみせろ」


******


「あのう、グランさん……やっぱり私、怒られるんですよね?」


「……あぁ? なんでだ」


 グランと乗るはずのアイザックの代わりに、ディティアは身を縮こませながら背嚢に収まっている。


 グランはそんなディティアに返したあとで顎髭を擦った。


 ファルーアに頼んでアイザックとディティアを入れ替えたのはグランだ。それは間違いない。


「まあ、なんだ。お前が噛まれたのは俺の責任だ。気にする必要はねぇよ」


「そんなこと! あれは私の判断が悪かったんです! グランさんのせいじゃありません!」


「あー、お前……もしかして怒られてぇのか?」


「えっ? あ……えぇと。……そう……かもしれません……」


 グランの言葉で一瞬驚いたように双眸を見開いたディティアは、しかし首を竦めてしおしおと応える。


 確かに自分は怒られたい――咎められたいと思っているのかもと考えたのだ。


 だとしたら、なんと浅ましいのだろうとディティアは唇を噛む。


 自分の間違いを誰かに怒られることでなかったこと(・・・・・・)にしようとしているのだから。


 口籠もった彼女だが、グランはと言えば実際は怒るのではなく謝ろうとしていたので眉を寄せて唸った。


「悪かったな。罪悪感を抱くことでもねぇよ。お前を連れ戻すのにハルトがいなかったらと思うと――まったく。この瞬間も情けなくて堪らねぇ」


「グランさん……」


「フルシュネを――町を制圧できたことで油断しちまった。始祖人なんて大したことねぇと舐めてたんだよ。本当に大したことねぇのは自分だと思い知らされた」


 言ってからグランは自嘲気味に笑う。


「はっ。多少有名になったからって調子に乗りすぎてたぜ。もう油断も怠慢もなしだ。始祖人がラナンクロスト王都に向かって進んでるなら早く止めねぇとな――そうだろ〈疾風〉」


「……。はい。止めましょう、絶対に」


 ディティアが真剣な声で応えれば、グランは星空を仰いだ。


「先に見張りするから休んどけ。次は対人戦になるだろうからな」


ギリギリ今日の投稿です。

いつもありがとうございます!

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