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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ アイシャ

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実験が示すのは⑤

 資料からは多くの情報が読み取れたらしい。


 曰く、虫の実験は長い期間行われていたこと。


 クトラフという男性が指揮を執っていたこと。


 そしてこのクトラフが研究職を退くと何年かしてその子供または孫が「クトラフ」の名で入ってきて、再び虫の研究職に就いていること。


 今回もそのクトラフが羽虫を放ち、阻止しようとした研究員は腹を刺された――。


 あとは町が家畜改良という特殊な研究を行う場所だから、騎士団や冒険者たちが常に警護に当たっていたらしい。


 当然、研究所とも密接な関係にあっただろう。


「つまり……クトラフってのが始祖人ってことか。世代交代してまた戻るってのは容姿が変わってなくても誤魔化せるようにかな」


 俺が言うとファルーアはさらりと髪を払って頷いた。


「おそらくはね。それに騎士団や冒険者たちが町を護っていたなら操れるひとがいたはずよ。地位が高ければ強かったでしょうから、古代の魔力を有していた可能性もある」


「なるほどな。そういうひとを使えば研究所で望む研究を引き継げるってことか」


「ふむ。そもそも戦っている者だけが強いというわけでもあるまい。研究所の所長が操られていたとしたらどうだ」


 そこで〈爆風〉が肩を竦めてみせる。


 あ……確かにそうか。所長を操って『虫の研究はクトラフに継がせるように』なんてお触れを出した……なんてことも有り得るのかも。


 思わず頷くと、うーんと唸ったボーザックがポンと手を打った。


「とにかく。長いあいだ始祖人が研究所に潜り込んでた可能性は高そうってことだよねー? そんでその羽虫が『戦闘の痕がないのに人々を昏睡状態にした元凶』ってことで合ってる?」


「そうなるわ」


 答えたファルーアに、次はディティアが心底ゾッとしたような顔で呟く。


「じゃあその羽虫をどうにかしなきゃ……ほかの町にも飛んでいたりしたら……」


 うん。そうなんだよな。


 だから先行していた俺たちが知りたいのは『羽虫の習性』だったはず。


 すると今度はアイザックが机にドンと石板を置いた。


「そこなんだが、羽虫はこの石板から離れすぎると死ぬらしいぞ。生殖機能もないから増える心配もない。つまりこの町からは離れられない」


「離れすぎると死ぬ⁉ そんなことできるのか?」


 危険な魔物を制御するために使えそうではあるけど、それがもし『ひと』にも適応されてしまったらと思うと――考えたくもない。


 すると〈爆風〉が唇を引き結んだ俺を見て説明し始めた。


「正確にはこの石板から放たれる魔力を糧にしているようだ。つまり離れてしまったら餓死するよう設計されている。虫の研究の目的は魔物を制御する方法の確立だ。ゆくゆくは改良に使う魔物をより安全に飼育するためらしいな」


「そして当然それは表向きの理由よ。この実験が示すのは――羽虫で『眷属』や『従ずる者』を増やすだけでなく、『統べる者』から離れられないようにするつもりだった――ということね」 


 ファルーアが冷たい声で続けるので、俺は思わず右手で左腕を擦る。


 そうなったら始祖人の『統べる者』とやらから逃げられたとしても助からないってことだ。


「羽虫では成功しているようだけれど、いまのところ家畜に使われた形跡はなかったから……それは救いだったかもしれないわ」


 アイザックはファルーアの言葉を聞きながら、グランの作ったスープを飲み干して口元を拭った。


「――おい〈豪傑〉、美味いなこれ。お前、料理の才能があるのな?」


「……あぁ? なんだいきなり。違ぇよ、俺たち〔白薔薇〕は野宿が多いんでこうなっただけだ」


「ふふ。アイザックさんのお陰で少し和みましたね」


 ディティアが口元を少しだけ綻ばせるので、俺も苦笑を返す。


「……それじゃ、とりあえずこの町の羽虫については問題ないんだな?」


 続けて聞けば〈爆風〉が頷いた。


「念のためこの石板を持って移動すれば、万が一町に羽虫が残っていてもそれで殲滅できる。まさか風将軍(ヤールウィンド)に追い付けはしないだろう」


「警戒はしていたが、ここにいても羽虫は寄ってこなかったしな。まったく……とんでもない実験をしてくれたもんだ。派遣した騎士たちとも音信不通になるわけだぜ」


 アイザックはそう言うと立ち上がる。


「そうとわかれば、あとは王都だな。うちの大将もそろそろケリをつけてるかもしれない。王都からなら直接伝達龍を飛ばせる。すぐ発つぞ」


「わかった。俺、〈爆突〉とフェンと見張りを交代してくる。飯を食べてもらわないと」


 俺が自分の器を手に立ち上がるとディティアも慌てたように器を重ねた。


「あの、ハルト君! 私も一緒に見張りするよ」


「ん? そっか、俺ひとりだと心配だもんな」


「ええっ、そんなつもりで言ったんじゃないよ⁉」


「はは。わかってる、冗談だよ! 頼む」


 俺が笑うとディティアは唇をつんと尖らせ不満そうな顔をする。


「……これよ、これよね。久し振りに感じるわ」


「ああ、よくわかるぞファルーア」


 すると急にファルーアとグランが深々と頷くので俺は眉を寄せた。


 いや、なんとなく言いたいことはわかったと思うんだけど……俺、いつもどんな反応してたっけな……。

 

いつもありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします✨

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