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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ アイシャ

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834/847

実験が示すのは③

******


 こうなる気はしてた。


 うん……してたんだよな。


 俺は〈爆風〉と研究施設を調べている。


 ――選ばれたのは必然だ。


 まず〈爆風〉は羽虫のもととなった魔物がわかるし、鼻が利く(・・・・)


 俺はといえば、当然ただのバフ要員である。


 バフが活かせるのは嬉しいけど……なんかこう、もうちょっと活躍したいところだよな。


 ちなみに皆がいる場所に羽虫がきても〈爆突〉とファルーアの魔法で対処できるだろうから心配ない。


 そんなわけで。


 地下の明るい廊下の先には扉、さらに奥は大きな檻が並んでいた。


 見れば家畜なのか魔物なのか――研究対象の生き物たちが生態に合った環境が再現された檻の中、静かに眠っている。


 それは二度と醒めない眠り。緊急事態への備え(・・)によるものか、はたまた羽虫によるものか、俺にはわからない。


 でもなんだか――やるせなかった。


 少しして見つけた研究員が使っていたと思しき部屋は資料で溢れていて、俺は思わず眉を寄せる。


 廊下に比べたら灯りもなく暗い。


 ここから羽虫のことが記載されたものを探すとなれば相当な手間だ。


「ディティアたちが戻るまでに間に合うかな」


 思わずこぼすと〈爆風〉は手近にある本をペラペラと捲って「さあな、お前の運次第だろう」なんて言う。


 最初の予定どおり、ディティアたちが到着次第発ってもらうのも決定事項だ。


 その場合は操られないよう始祖人との戦闘を避け、ラナンクロスト王都へ直行することになっている。


 少しでも王都の防御を固めないとだしな。


 ……はあ。悶々と考えていたって進まない。


 俺は気持ちを切り替えて資料探しに専念することにした。


「資料の棚に法則性でもあれば探しやすいよな? 整頓されてるといいけど」


 言えば〈爆風〉が小さく笑う。


「なんだよ?」


「お前の思考はよくわかる。急がば回れだ。並びを確認してみるぞ」


「……俺の思考って……勘かなにか?」


「ははは。そんなわけないだろう。顔に出ているだけだ」


「……あ、そう」


 伝説の〈爆〉が個性豊かなのは、なんとなくわかった気がするな……。


 俺は肩を竦めてから棚を調べた。


 家畜の改良……その実験記録が多い。ここはそればっかりかも。


 次は――なんだろうこれ。汚物処理……ああ、なるほど下水に配置するやつか。


 ここも外れかな。


 そもそも羽虫の改良だもんな。まさか「毒を広めるために改良してます」だなんて言わないだろうし、なにを理由にして改良したんだろ。


 考えつつ隣の大きな棚を開けようとして……俺は息を呑んだ。


「うわ……なんだこれ……」


 その棚の扉には血らしきものがべったりと付着していて、よく見れば足下にも確認できた。


 棚の隙間からも流れ出ていたのだろう。既に乾いて黒っぽく変色している。


「……ッ」


 気配がないのだから、そういうこと(・・・・・・)だ。わかっているのに俺は咄嗟に扉を開け放っていた。


 そこには――なにかを抱えて事切れた研究員らしきひとが収まっていた。


「……なんで……なんでこんな……」


 俺とボーザックのあいだくらいの背で、男性のように見える。


 腐敗しているわけでもなく、亡骸はともすれば眠っているみたいだ。


「腹部に刺し傷があるが腐敗は進んでいないな。亡くなる前に虫に噛まれたのかもしれん……見ろ」


 感傷に浸っていても解決なんてできない。 


 それなら動けと己を叱咤し、俺は体を屈めて彼が抱えるものを見た。


 手のひらくらいの石板――だけどこれは……。


 思わず〈爆風〉を振り仰ぐと彼は同意を示すように頷く。


「始祖人の血の石だ。ふむ、そういえばお前と〈爆突〉を襲ってきた羽虫は廊下の奥側にいたんだったな。まさにこの部屋側になる」


「あ……そっか、羽虫もこれに反応してたんだな? 見てくれ〈爆風〉。この石板、虫の模様が彫ってあるぞ」


 申し訳ないけれど、そっと抜き取った石板の表面に羽虫に似た模様があった。


 このひとはきっと――町のため、町のひとのために羽虫を留めようとしたんだ。


 そう思いたい。


「可能性はあるな。残念ながらひとに噛み付くほうが優先度が高いようだが……む」


〈爆風〉は言いながら俺の隣に膝を突き、彼の懐から羊皮紙の束を取り出した。


 そのうち最初の一枚にさらりと目を通して彼は僅かに瞳を伏せる。


「……殴り書きだが、研究員のひとりが羽虫を使ったうえでこの男性を刺したとある。石板で羽虫が外に出ないよう誘導するはずが、うまくいかなかったようだな。ほかの資料も羽虫について書かれたものらしい」


「羽虫を使った研究員のひとり――そいつが始祖人だったのかも」


「ああ。……〈逆鱗〉、その石板を持って外を歩けば町中の羽虫を一網打尽にできるかもしれん。さぞ美味そうな餌に見えるだろうからな」


「うん。でも町から離れた個体がいるのかわからないし、急いで資料も確認しないと。羽虫の習性とか……なんでもいいから……」


 でないと、このひとが浮かばれない気がする。


 俺は無言で彼に頭を下げ、立ち上がった。


「町の羽虫を集めながら戻ろう。〈爆風〉なら羽虫くらいなんとかできるだろ」


 彼を出してあげたい。いますぐ弔いたい。


 けれどいまは彼が望んだことを引き継ごう。


 俺は唇を噛んで踵を返した。


こんばんは!

本日もよろしくお願いいたします。

年末感が増してきたなと感じています。

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