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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ アイシャ

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832/847

実験が示すのは①

******


 目標はディティアたちが戻る前に草原の町アーヴェル地下を制圧すること。


 でも、なんだろうな……〈爆突〉のウキウキ感がすごいっていうか。


 正直、なにがいるのか確認して問題なければ無視したい。


 やる気なのはいいんだけど、本当に大丈夫なのかなぁ。


「安心しろ。せっかく〈爆〉が揃ったんだ、暴れておかないとな!」


「……俺、顔にでも出てた……?」


「顔? なに言ってんだお前? 勘だ勘!」


「あ、そう……」


 なんだよ勘って。


 これはこれで複雑なんだけど……とにもかくにも進むしかない。


 バフは『精神安定』と『五感アップ』で二重。


 相手がなんであれ、すぐ対応できるよう〈爆突〉に先行してもらう。


 相変わらず羽虫がブンブンいうけれど……恐ろしいことに〈爆突〉が槍の穂先で射貫いていた。


 いや恐すぎるだろ……。


 ちなみに相手の気配はやっぱり地下だ。


 俺たちも今度は堂々と進んでいるんで、気付いているかもしれない。


 さっきは隠れながら進んだけど今回は隠す必要もないしな。


「まずは入口探しだが、こういうときは決まってデカい建物にある。……あれだな、行くぜ」


「え、そうなの?」


「デカい建物が研究施設に決まってんだろ。魔物だって飼育しなきゃならないんだしな。……ん? ここで家畜改良してるってのは知ってんだよな?」


「ああ、うん。〈爆風〉から聞いたけど」


「町の情報はそれなりに頭に入れとけよ? いざってときに役に立つぜ?」


「……あー、うん」


 すごく真っ当なこと言われてるのに、なんか違和感があるのはなんでだろ。


 つい緊張が緩むような――いや、それじゃ駄目なんだけど。


 とにかく、俺たちは大きな建物を目指して歩き、手近な場所に転がっている人々を屋内へと移したりした。


『肉体強化』を使えば楽に運べるからな。


******


 そうして入った建物内は――なんというか、無機質で静かだった。


 強度の高そうな金属の床を見るに、研究施設ってのは確実だろう。


 鈍色のそれは歩くとカツンカツンと音を響かせ、静寂がより鮮明になる。


 施設の職員らしきひとが数人眠っているけれど、〈爆突〉は目もくれず槍を片手にずんずん進んでいく。


 それでも隙は見せないので――そこはやっぱり伝説の〈爆〉なのだ。

 

 入ってすぐは広間。受付のような台があって、その奥に重そうな両開きの扉。


〈爆突〉が扉を押し開けると広々とした廊下が続いていて、左右に二枚ずつの扉。


 この廊下は壁も金属だけど塗料かなにかで白くされていて、窓がない故の圧迫感が多少緩和されている――かもしれない。


 突き当たりには……どうやら地下への階段があるようだ。


「ほらな、当たりだぜ」


「嬉しそうだな……」


 思わず言うと〈爆突〉はニヤリと笑って、そのまま廊下を進む。


 ちなみにだけと、廊下には結構な人数が転がっていたりする。


 なので俺は思わず呟いた。


「ずいぶん多いな」


「ああ。逃げようとしたのか……それとも」


〈爆突〉はそれだけ言うとゆっくりと右足を踏み出し、左足を引き寄せてから止まった。


「さて〈逆鱗〉。こっからはお前も警戒してろ。気配はひとつだが、まだ隠れている可能性もあんだろうぜ」


 その瞬間をどう表現したらいいのか。


 空気が張り詰めたというか、背筋が自ずと伸びたというか。


〈爆突のラウンダ〉が纏う柔らかくて明るい気配が、鋭利な刃物みたいに研ぎ澄まされたような。


「わかった。『五感アップ』『精神安定』」


 俺はすぐバフをかけ直して双剣を握り直し、改めて彼に頷いてみせる。


 斯くして、俺たちは階段をゆっくりと、慎重にくだりはじめた。


******


 階段をくだった先には二重扉があって、その奥が研究施設だったんだけど――。



 いま、俺たちは小さな部屋に閉じ籠もり、扉を背にふたりで思いっ切り『はぁーっ』と溜息をついたところだ。


「やばかった……なんだよアレ……」


 革袋から水を口に含み、ごくんと喉を流しておく。


〈爆突〉に差し出すと彼もひとくち飲み下し、俺に革袋を返しながら反対の腕で口元を拭った。


「気持ち悪かったなあ! アレがこの町を落としたやつだ。迎え撃つぜ?」


「えっ⁉ どうしてわかるんだよ?」


「勘だ!」


「えぇ……」


 いや、まあ……〈爆突〉が言えばそうなのかもと思うんだけどさ。


 それにアレが元凶だったら町が荒らされていないのも頷ける。


 考えていると〈爆突〉が肩を回し扉に向き直った。


「よぉっし、お前の『浄化』ってやつ俺に掛けろ〈逆鱗〉」


「はあ⁉ だ、駄目に決まってるだろ!」


「馬鹿言うな、よく考えろ。『精神安定』バフでどうにかできたとして、噛まれる量――つまり送り込まれる血が多くなっちまったらバフが切れたときにまた操られるかもしれないぜ?」


「それは……確かにそうかもだけど……」


「どうせ治療んときは『浄化』を使うんだ。先に掛けときゃ噛まれたと同時に無毒化できる。今回は人型よりもかなり小さい。それなら痛みも少ないはずさ。つまり! 俺で実験しとけってことだ!」


「……実験って……ああ、くそ。駄目だって判断したら即解除するからな!」



 ――俺たちが二重扉を越えて踏み入った施設は、暗いかと思いきや煌々と明るかったんだ。



 広く長い廊下が延びていて、天井付近に光の球がいくつも浮いていた。


 魔法大国であるドーン王国でも見かけた魔法だと思う。


 そして俺たちの正面、ほぼ廊下の末端にあたる位置に――『それ』はいた。


 最初はひとの影かと思ったんだ。全身が黒っぽく見えたから。


 でも違う。


 なんというかザラリとした質感があるようで――反射した光がテラテラと蠢いていて、およそ影とは思えないほど立体的で。


 刹那、その影みたいな『なにか』は空間に流れて(・・・・・・)ザアッとうねった。


 形を変え、まるで渦を描くように。


 咄嗟に脳裏を過るのは『災厄の砂塵ヴァリアス』だ。


 本体は核で、その核が砂を自由自在に操って様々なかたちを取る魔物。


 隣の大陸(トールシャ)で対峙した『災厄』のなかで一番厄介で一番救いのないやつで……。


 だけど――こっちに向かってくる黒い砂粒状の塊が『なんなのか』わかったとき、俺は弾かれたように手近にある扉を開け放っていた。


「ばッ……〈爆突〉ッ! こっち!」


「おうよ!」



 ……そうしていまに至るわけだけど。


 思い出すだけでもゾワッと背中が粟立つというか。



 黒い砂粒状のもの。


 それは虫。虫、虫。羽虫の群れだったのである。



メリークリスマスです!

本日もありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
小さい虫の大群とか魔法職意外だと相性最悪だな、どうやっていなしてくんだろう
待ってましたーー!! って、ギャーっ!! 虫ですかっ!! むむむっ、頑張れハルトっ!!
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