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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ アイシャ

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831/847

進撃の始まりは④

******


 建物に近付き様子を探る。


 動く気配はないが、どこかで何者かが息を潜めているかもしれない。


〈爆風〉ばかりを当てにして頼るのは駄目だ。


 俺はバフをかけ直し『速度アップ』を消して『精神安定』に変える。


 いるのは家畜の糞尿で寄ってきたのだろう指先ほどの黒っぽい羽虫くらいか。


 五感アップのせいで羽音が耳につくんで、俺は音がしたら即刻振り払った。


 くそ、バフを消すわけにもいかないしな……。


 そうしてゆっくりと壁沿いを移動して窓から中を覗くと――やっぱりというべきか、ふたりの人影が床に伏していた。


 規則正しく胸が上下に動いているので深く眠っているだけだろう。


 だけど――。


(あれが始祖人の罠じゃないって保証もないし、もう少し見て回ろう)


 俺が小声で言うと〈爆風〉は口角を吊り上げた。


(お前のことだ。あとさき考えず助けに走るかもしれんと思ったぞ)


(さっ……さすがにそこまで向こう見ずでもない……と思う)


 失礼すぎる。いや、本当ならいますぐ駆け寄りたいのは否定しないけど。


 俺たちは建物の壁に寄り添うようにして回り込み、別の建物を覗く。


 ここにも気配がある。息を潜めて裏口から侵入したけど、気配の主は居間のソファにもたれるようにして瞼を閉じていた。


 こっちも眠っているだけに感じるんで、いまは放置するしかない。


 ――それから少しのあいだ町を見て回ったけれど、やはり意識のあるひとは見当たらなかった。


 屋内だけじゃなく広場に伏しているひとたちもいたし、騎士も冒険者もいたけど。


(昏睡状態じゃない人たちは、どこかに移動したってことだよな――俺たちが湿地に残してきた数はそう多くないし、もっと大きな部隊があるか、もしくは小分けにした部隊がいくつも……)


 俺はそこまで口にして、一度唇を湿らせる。


 先を紡ぐのが少し恐いとさえ――思った。


(戻るぞ〈逆鱗〉)


 先を紡がずにそれだけ応え〈爆風〉が踵を返す。


 どちらにせよ『俺たち』で決められる話じゃないしな……。


 すると彼はすぐにぴくりと肩を震わせて立ち止まった。


 直後、首筋にビリリとした感覚。強化された五感が伝えてくるそれ(・・)はどうやら地下にいる(・・)らしい。


 さっきまで気付かなかったのはなんでだろう。急に気配が濃く膨れ上がったようだった。


(俺たちに気付いて動き出したのか?)


(――ふむ。家畜改良の設備は地下にあるらしいな。魔物か――或いは始祖人か、気配を殺していたのかもしれん)


 そっか、この町は研究もやってるんだった。


(動き出したのは偶然(・・)で相手がこちらに気付いていない可能性もある。気配を殺しておけ〈逆鱗〉。あれだけ遊んだんだ、やり方はわかるだろう? そのうえで一度戻るぞ)


(……! わ、わかった)


 そうだ、気配を殺す。ずっとやってきた。


 俺は一度だけ大きく息を吸って、細く吐きながら瞼を閉じる。


 自分が空気に溶けるような感覚。


 大丈夫。息を潜めて――俺はそこにある(・・)けれど、そこにいない(・・・)。そう意識していくだけ。


(……)


 俺は〈爆風〉に小さく頷いて移動を開始した。


 途中でバフが切れたけれど掛け直すことで相手が気付くかもしれないのでやめておく。



 そうして皆のところに戻ったときには、俺はどっと汗を掻いていた。


 自分が思うよりずっと緊張していたらしい。



******


「町のひとが狙われる可能性はねぇのか? 姉貴の前例もあるから昏睡状態でも命を繋ぐことはできるだろうが……無防備だろうよ」


 状況説明のあとでグランが言うと〈爆風〉は頷いた。


「あの状況になって数日は経過しているはずだが町には食い荒らされた者はいなかった。荒らされた様子もない。血生臭くもない。となれば地下から出られないか、ひとは食べないのだろう」


 聞いていたファルーアは口元に手を当てて瞳を伏せる。


「戦闘の痕跡もなく家畜も怯えた様子がないのよね。だとしたら、そもそも始祖人はどうやって『噛み付いた』のかしら」


「それは俺も気になった。屋内も綺麗だったし――」


 俺が呟くとアイザックがため息混じりに首を振る。


「それだけ相手が厄介ってことだな。ただ……部隊が出発していたら一刻を争うぞ」


「ラナンクロスト王都までは俺たちのほうが先に着くだろ? 一刻を争うって……どうしてだ?」


「いねぇんだよ、防衛できるほどの部隊が。騎士団は各地に駆り出されてる。草原の町アーヴェルに派遣された奴らだってかなりの人数だったんだ。それがほとんど操られたとなれば最悪だぞ」


 アイザックは難しい顔で唸ると俺たちを見回す。


「王都の防衛を固めるには日数がいる。もしあの黒い龍でも使われてみろ。進撃している奴らのほうが早いんだよ」


「あ……」


 そうか、なにも徒歩とは限らない。


 俺は思わず唇を噛み、晴れた空を振り仰ぐ。


「ディティアたちがまだだ。すぐ出発するにしても全員は無理だし――それに」


「そうね、アーヴェルにいる『なにか』を放っておいていいのか、確認しないとわからないわ」


 ファルーアは肩から滑り落ちた髪を背中へと払い、草原の町アーヴェルへと視線を向ける。


 けれどその張り詰めた空気は瞬時に弾け飛んだ。


「おう若者! なら俺の出番たろうが! よぉっし任しとけ、そいつは俺がぶっ倒してきてやる。お前らは〈疾風〉が戻り次第発っていいぜ?」


〈爆突のラウンダ〉。


 伝説の〈爆〉が豪快に笑ったからだ。


「あ、あぁ……確かに〈爆〉ならなんとかなるかもしれねぇが……うぅむ」


 グランは困惑気味に顔をしかめ顎髭を擦る。


「でもさ、もし始祖人だったらヤバくないか? また操られたら困るし」


「なら着いてこいよ〈逆鱗〉。強くなりたいんだろ?」


「え……ええっ⁉」


 俺が両肩を跳ねさせるとグランと目が合った。


「まあ……ハルトが行くなら心配はねぇが……」


「よぉっし、決まりだ! そうと決まればさっさと行こうぜ〈逆鱗〉」


「それ……そんな簡単に……」


「なぁに〈疾風〉と〈不屈〉、あとは銀狼が戻る前に片付けりゃいいんだ。こっちには〈爆風〉が残れば問題ないぜ」


「う……わ、わかったよ……」


 なんて強引なんだろう。


 ちらと見ると〈爆風〉は口角を上げて笑っていたりする。


『これが〈爆突〉だ、諦めろ』とでも言いたげな表情に、俺は肩を落とした。


こんばんは!

クリスマスイブですね~。

自分へのご褒美にショートケーキとクッキーを買いました。

皆さまよいクリスマスを~!

いつもありがとうございます。また明日!

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― 新着の感想 ―
ハルトが強くなるのは嬉しいなぁ!
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