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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ アイシャ

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830/847

進撃の始まりは③

******


 草原の町アーヴェル。


 その名のとおり草原のど真ん中にある町で、空からは町よりもずっと先に横たわる山々が見て取れた。


 この大陸(アイシャ)にある四カ国の国境となっている山脈だ。


〈爆風〉とともに徒歩で(・・・)町に向かっている俺からはもう見えないけれど、ここが国の外れであることを実感する。


 残りの皆は風将軍(ヤールウィンド)と一緒。背の高い草がみっちり生い茂った場所に身を隠し、待機していた。


 決して整備されているとは言えない街道らしき道が敷かれた草原は、こんな状況じゃなければ心地よいとすら思えるだろう柔らかな風が吹き抜けていく。


 香る草も気持ちを和らげ、フェンでなくとも駆け回りたくなるような長閑さだ。


 五感アップには複数の気配が引っ掛かり、彼らのものと思しき「鳴き声」が耳朶を打つ。


 ンモォ、とか、ブブブ、とか、とにかくいろいろな音だけどな。


「家畜だらけだな……畜産業が盛んな町なのか?」


 思わずこぼすと〈爆風〉は前方を見たまま頷いた。


「畜産業だけでなく家畜の改良も行っている町だ。魔物と家畜の交配も研究されている」


「え、魔物と? ……あー、馬車の馬が改良されているっていうのはそれ(・・)か」


 そういえばずっと前、シュヴァリエの弟であるイルヴァリエの愛馬が三日三晩寝ずに走るみたいなことも聞いたっけな。


 あのときは『もう馬じゃないだろそれ』と思ったけど、魔物の血が入っている改良された馬だとしたら納得できるってものだろう。


 そこで俺はヴァイス帝国で乗せてくれた黒い馬、クロを思い出す。


 ヴァイス帝国はアイシャの南に位置する農業大国だ。


 いろいろ起こった国だけど、現在は俺たちとも関わりが深い女性――ラムアルが皇帝ヴァイセンを名乗り国を治めている。


 クロもそのラムアルが買い取ったため、大切にされているだろう。


 長いこと会ってないけどラムアルも元気にしてるかな……いや、してそうだな。なんか。


 そこで〈爆風〉がさらに言い募った。


「ギルドの伝達龍もこの町で繁殖させているはずだぞ」


「えっ、そうなのか? へえ……思ったより冒険者と縁のある町なんだ……」


 思わず感嘆の吐息を漏らす。


 だとすると結構潤っている町なのかも。ギルドだってまさかタダで伝達龍を使っているわけじゃないだろうし。


「さて〈逆鱗〉。町の偵察だが、お前ならなにから始める?」


 すると突然、渋くていい声で〈爆風〉に問い掛けられた。


 彼はときどきこうやって俺に考えさせる。ふたりで――途中で同行者が増えたり減ったりはしたけど――行動していたときもそうだ。


 なんだか少し懐かしい気持ちにすらなった。


 俺がいまディティアやボーザック、フェンのことを心配しながらも落ち着いていられるのは〈爆風〉のお陰だ。


 俺は一度肺の中身を全部吐き出して大きくゆっくり吸い直し、返答を口にする。


 成長したところを見せないとだしな。


「まずは遠巻きに気配を探ろう。パッと見はいたって普通だし、戦いの痕跡もこのへんには見当たらない。かなり厳しい状況だって聞いてたのに――静かなのが気になる」


「ふむ。その次はどうする」


「気配の有無に関係なく様子を見に行く。戦闘にならないよう細心の注意を払おう。俺と〈爆風〉なら最悪見つかってもなんとかできる――はず」


「はは、いいだろう」


 正解だったかはわからないが〈爆風〉は破顔すると軽く肩を回した。


「そうと決まればバフをかけろ。町の南から回り込むぞ」


「おう。『五感アップ』『魔力感知』『速度アップ』『速度アップ』」


 俺と〈爆風〉は街道を外れ、草に紛れるようにして進む。


 町に近づくほど家畜が増えるが、よくひとに慣れているのか騒ぐこともない。


 ただ……ちょっと、かなり、臭い。鼻が曲がるってこんな感じか?


「『五感アップ』のせいで鼻が痛いな……」


「ははは。今更だ、我慢しろ」


 軽口を叩けるくらいには落ち着いている。


 俺は建物の輪郭がはっきりわかるくらいの距離で身を伏せ、町を探った。


 建物は薄い橙色。平面的で広く、窓が大きい。町に二階以上の建物はほとんど見当たらず、空が広く感じる。


 草原のなかにあっても景観を損ねないというか、一体化して開放感があるというか。


 本来なら人々が穏やかに暮らしているのだろうと思うんだけど――気配はどうか、といえば。


「…………感じないわけじゃない、わけじゃないんだけど……」


 なんというか、弱い。


 薄いというか、静かというか……。


 俺は眉を寄せ、小さく唸った。


 心臓がぎゅうっと掴まれたように苦しくなって唇を引き結ぶ。


 思い当たることなんてひとつだ。


「なあ〈爆風〉。まさか皆、昏睡状態なんじゃ……」


「様子を見に行くのだろう? 警戒は怠るな」


 絞り出すように言った俺に〈爆風〉は間髪入れずに応え、俺の肩を拳でドンと叩いた。


長らく開いてしまい申し訳ないです……

クリスマスくるので明日と明後日は少しでも楽しみを供給したいと思います!

来てくださっているかた、新しく来てくださったかた、皆さまに感謝を!

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― 新着の感想 ―
クリスマスプレゼントだー!久しぶりに更新きて嬉しいです!
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