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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅠ

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待ち合わせはしてないので。③

次の日、イルヴァリエは凛とした空気を纏いながら、晴れた空を仰いだ。


「では、まずはヴァイス帝国帝都までだな」


ぱか、ぽこ。


「……」


ぱかぽこ、ぱかぽこ。


「って、何でお前、馬なんだよ!……俺達、馬車乗れないじゃん!」

思わず突っ込む。

栗色の艶のある身体をした立派な馬が、フフー、と鼻を鳴らす。


「ルヴァルステンバリーンだ。私の愛馬でな」

「聞いてないよ…まあ、でも立派な馬だな」

褒めると、ルヴァ……何とかは誇らしげにポクポクと蹄を鳴らした。

「そうだろう、そうだろう?」

得意気なイルヴァリエ。


俺はもう諦めて、嬉しそうに見送りまでしてくれたギルド長を思い返した。

『よかった!助かるぞ、よろしく頼む』

何か、すみませんと謝ると、向こうも首を振った。

『あれは天災だからの。お前達も難儀だがこちらでは受け止められん』


はあ。

憂鬱だ。


まあでも、イルヴァリエ自体は悪い奴ではない。

ちょっと、かなり、行き過ぎたブラコンを除けば、それなりに礼儀正しい気はする。


「そうだ、不屈のボーザック殿」

「うん?何?イルヴァリエ」

「休憩にでも、手合わせ願えないだろうか」

「おー!いいよー、やろう!…手首のナイフは無しだからね?」

「そ、それは……申し訳なかった、すまないと思っている」

「いやいや、謝罪はもう受け取ったから!次は使わないでやろうってだけだよー!」


「それと……逆鱗のハルト」

「今思ったけど、お前はどうして俺は呼び捨てなんだろう?」

「兄上から気に入られている以上、私の敵なためだ」

「いや俺、本当に嬉しくないからな?それ」


前言撤回、礼儀はどこに置いてきたんだよこいつ?


「とりあえず。……貴殿にも手合わせ願いたい」

「ん?……え?俺?」

「そうだ。バフも使ってもらって構わない」

「………」

一瞬、迷った。


俺は、そんなに強くない。

バフをかけても、ディティアに程遠い自分を、強いなんて自惚れたりはしない。

だから、イルヴァリエの申し出の意図がわからなかったんだ。


そしたら。


「いいぞ、やってやれハルト」

「はっ?グラン!?」

「私も良いと思うよ、ハルト君」

ディティアまでそんなことを言い出す。


「なら、決まりだ。よろしく頼む」


悪そうな笑みで髭を擦るグランに、俺は肩を竦めた。

「…どうしてくれんだよ」

「どうもこうもない。やってみろハルト」

「うう…」


たぶんだけど。

勝とうと思えば勝てるような気はする。


俺には五感アップバフがあるから、イルヴァリエに攻撃の瞬間にかけてやればかなりのダメージになるはずだ。


あとは、素早いイルヴァリエをどう押さえるかだけ。

自分の速さを上げるか、いっそ肉体硬化で攻撃をあえて受けるか。


いろいろ考えていると、ディティアがぽんと肩を叩いた。


「難しく考えなくてもいいよハルト君。普通に戦ってみたら?」


そのくったくの無い笑顔。

彼女は拳を突き出した。

光るブレスレット。

「大丈夫、ハルト君」

「……わかったよ」

俺はこつんと自分の拳をぶつけて、笑った。


******


歩きだと、帝都までは相当な時間がかかってしまう。

なので。

俺達は馬を借りることにした。


ここ、農業大国のヴァイス帝国では、広大な農場を往き来するのに馬が多用されていたのだ。

1人一頭は高いので、女性陣を2人乗りにしてもらう。


「私が乗せてもいいが?」

と言うイルヴァリエはとりあえずスルーした。


冒険者養成学校で、馬の扱いは一通り学ぶから、全員乗ることが出来るからな。


フェンに馬の先導をしてもらって、俺達は街道に繰り出す。

左右はずーっと畑。

たまに農作業をしている人が見てとれる。


青々とした葉を広げて、作物が日の光を浴びる様は、壮観だ。

それが視界いっぱいに広がっているヴァイス帝国は、他の国とは一線を斯くしている。


「馬も気持ちいいねー」


ボーザックが楽しそうに言うのを、イルヴァリエが拾った。

「同感だ。ルヴァルステンバリーンも嬉しいと言ってる」

「バリーンも気持ちいいんだ、良かったねー」

「バリーンではない、ルヴァルステンバリーンだ」

「うんうん、良かったねバリーン」

「……おい、逆鱗のハルト」

「いや、俺のせいにするなよ」

イルヴァリエをからかっているんじゃなく、ボーザックは素だと思う。

俺は、俺のせいにしようとするイルヴァリエをあしらった。

「ただでさえ、何かと俺のせいにされてるんだからな……」


元凶はわかってる。

あの、爽やかな空気をまとった、あいつだ。


「ふふ、でもハルト君、逆鱗が板についてきたね!」

ファルーアを後ろに乗せたディティアが馬を寄せてくるので、俺は大袈裟に肩を竦めた。

「何だよそれ、褒められてない気がするぞー」

「兄上からの2つ名に何の不満があるのだ逆鱗のハルト」

「イルヴァリエ…頼むから、ややこしくしないでくれ…」


こうして、旅は始まった。

待ち合わせはしていないけど、一時的に戦力も増えたり。


旅は、飽きないものなんだって、そう思う。


……目指すは帝都。


その前に、今日は農産物を集めてガライセンに送る役目を果たす街、ニルスに向かう。


ニルスは、街道沿いにある宿場町だ。

ガライセンからは一日あれば着く距離のため、馬車が何台も往復する街である。


「よし、今から鍛錬だな」

意気込むイルヴァリエに、呆れ半分、尊敬半分の視線を送る。


やるからには負けたくない。


俺は、小さくため息をついて、戦術を練ることに気持ちを切り替えた。


本日分の投稿です。

毎日更新しています!


平日は21時から24時を目安に更新。


次章から、バーサスイルヴァリエです!


いつもありがとうございます。

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