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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ アイシャ

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進撃の始まりは①

〈爆風〉の声は相変わらず渋くて――落ち着いて聞こえた。


 それが俺の焦りとか不安みたいなモヤモヤした感情を抑えてくれたのは確かだ。


 まだかなり距離はあったけど、無数の「冒険者」が草木のあいだからユラユラとその姿を現すのを俺たちは黙って見詰めるしかない。


 言わなくてもわかる。あれは――自我を失った冒険者たちだ。


 月と星の灯りだけが頼りの夜闇のなか、泥濘(ぬかるみ)だろうがお構いなし。ドロドロになっても進んでくる。


 ()えた臭いに鼻が利かなくなっても、煙で眼が痛んでも、きっと彼らは気にも留めないんだろう。


 俺は背筋が薄ら寒くなるのを感じながら口にした。


「……誘導する()はこの龍たちの腹の中なんだよな? だとすると、あいつらはここで止まるってことか?」


 すると〈爆風〉は双剣を構えたまま自我を失った冒険者たちに視線を這わせ、ゆるりとグランへ移す。


「さてな。どちらにせよ始祖人はいないようだ。操られている素振りはない。であれば放っておくべきだと思うがどうだ〔白薔薇〕?」


「……」


 問い掛けられたグランの眉が寄せられ、彼は黙って顎髭を擦る。


 どこか重苦しい空気が俺たちを包んだ。


 だから。


「……なあグラン。俺とアイザックで治療すれば――」


 俺はどうにかしたくて口を開いたけど、アイザックが苦しそうな表情で首を振った。


「悪い。さすがにあの人数は――俺の魔力がもちそうにない」


「……でも放っておくなんてできない。魔力回復の妙薬は持ってないのか? ……あ、そうだ。俺たちが石を持って移動すれば着いてくるよな? 近くの町まで行けば治療できる! そこでなんとかしようアイザック!」


「俺だってそうしたいが……いいか〈逆鱗の〉。俺たちの目的は草原の町アーヴェル制圧だぞ。町だって一番近いのが|目的地〈アーヴェル〉だ。……連れてはいけない」


「……そうね。ここで治療できたとしても結局放置することになる。魔力切れだって深刻よ。それなら治療後の昏睡状態よりこのまま待たせたほうがいいと思うわ。ハルト、あとでギルドに連絡をして彼らを保護してもらいましょう」


 ファルーアが僅かに唇を噛むのがわかる。


 俺はそれ以上なにも言えなくて俯いた。


 目の前にこれだけの冒険者たちがいるっていうのに、ここじゃなにもできないなんて。


「なあ〈逆鱗〉。あいつら、ここにいれば少なくとも俺たちと戦わずに済むわけだろ? 始祖人がいなけりゃ暴れたりしないんだしな。前向きに行けよ!」


 そのとき、すこぶる明るい声で〈爆突のラウンダ〉が笑った。


「全員と戦っても俺は負けないぜ。つまりボコボコにしちまうってわけだ。……怪我なんかさせたくないが、攻撃してくるなら迎え撃つ。そうだろ?」


「それは……うん、そうだ」


 俺は顔を上げて、笑う彼を見た。


 そのとおりだ。戦わなくて済むなら、それでも充分儲けものなんだよな。


 俺はゆっくり息を吸って頷く。


「ごめん。あんたの言うとおりだ〈爆突〉。ギルドに連絡を取ろう、できるだけ早く」


 それを聞いた〈爆突〉はますます破顔し、グランが俺の前に来て肩を叩いてくれる。


「そうと決まれば、だ。遠回りになるが、誰かが近くの町まで飛んでギルドに連絡をするってぇのでどうだ? 生存本能は働いてんだろうから、ここなら飢えて絶えることもないだろうよ」


「だねー。一番近いのが草原の町アーヴェルなら、二番目ってどこだろー?」


 応えたボーザックは回復してきた風将軍(ヤールウィンド)の嘴を優しい手つきでトントンと撫でた。


 怪我をしている二体は大人しく伏せているけど、どうやら飛べる程度には回復したようだ。


 残りは上空を旋回して見張りを担ってくれている。


「あの。ここからなら林業で生計を立ててる村が近いかも……。あそこのギルド、それなりに大きかったからきっと大丈夫」


 ディティアが言うので、俺はどんどん近付いてくる冒険者たちを見回して頷いた。


「俺はバフ要員だから行けない……アイザックも駄目だ。ファルーアの援護もほしい。それにグランの守りも」


 草原の町アーヴェルがどんな状況かわからない以上、必要な戦力は遠回りさせていられない。


 本当は言い出した俺が行きたいけど、そのせいで誰かが操られてしまったらと思うと……危険は犯せなかったんだ。


 指示を求めてグランを見ると、彼がなにか言う前にディティアが手を挙げた。


「私が行くよ、ハルト君。皆にも迷惑かけちゃったから。その村なら場所がわかるし任せて。きっと私のことも覚えてくれてるから」


 ぐっと喉が詰まったけれど、反対する理由はなくて。


 ただひとつ、またディティアになにかあったらと思うと恐くて。


 だから俺が言葉を発しようとしたとき、グランが俺の前に手を向けて制した。


「待てディティア。ひとりでは行かせられねぇ。〈不屈のボーザック〉〈銀風のフェン〉。ディティアを頼む。お前らなら風将軍(ヤールウィンド)に一緒に乗れるだろうよ」


「……! うん。任せて〈豪傑のグラン〉。たまには俺もやれるところ見せないとねー?」


 ボーザックは一瞬だけ驚いたように眼を瞠り、すぐに大きく頷いてくれた。


 フェンに至っては既にディティアに寄り添っている。


〈爆風〉でも〈爆突〉でもなくボーザックとフェンに任せるのは、ふたりもきっと俺と同じように恐いと思ったはずで……守りたいと思ったはずだからだ。


 俺もグランも同じことを考えていたんだな。


 なんとなく胸の奥が温かくなったとき、ファルーアがディティアをぎゅーっと抱き締めた。


「私だって一緒に行きたいのよティア。グランもハルトも絶対に守るわ。だから気を付けて」


「ファルーア……うん。ふたりはお願いします」


 どうやら守られるのは俺たちらしい。


 グランと顔を見合わせて苦笑を交わす。


 ファルーアとディティアはくすくすと笑って俺たちを見回した。


「そうと決まれば出発よ」

「そうと決まれば出発します」


 気付けば冒険者たちはもう眼と鼻の先。


 なかには王国騎士らしき人々もいるようだと気付いた俺は、唇を引き結んでいるアイザックの肩を叩いて踏み出す。


 俺たちはそれぞれ|風将軍に乗り込み、冒険者たちが石の周りに留まるのを確認して飛び立った。



 ……ここに冒険者がいたってことは草原の町アーヴェルは壊滅してしまったのかもしれない。


 だけど始祖人がいないのは間違いなさそうだ。


 フェンが戻るまで俺たちは風将軍(ヤールウィンド)の鼻に頼るしかないし、気は抜けないよな。


 遠ざかるディティアたちを見送って、俺はバフを広げた。


「『五感アップ』『五感アップ』『魔力感知』『魔力感知』!」



皆さまこんばんは!

本日もよろしくお願いします。

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