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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ アイシャ

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たとえば悪夢のように④

「まさか……あそこに風将軍(ヤールウィンド)が落ちたのか? 行こうボーザック! 『速度アップ』『速度アップ』『速度アップ』ッ!」


 燃え上がる炎がチラチラと火の粉を散らし、そこだけが煌々と明るい。


 泥濘(ぬかるみ)が重く絡み付くのを蹴り飛ばし、草を掻き分けて飛び込んだ先は酷い有様だった。


 燃えている。


 草が、地面が、メラメラと。


 ほとんどは沼地だろうか? 浮いた水草すら炎を纏い、水面がそれを映し炎に包まれているかのよう。


 燻る草木が眼や喉を刺激し、俺は思わず双眸を眇め腕で口元を覆った。


「凍りなさいッ!」


 そんななか、ファルーアが金色に輝く龍眼の結晶が填まった杖を掲げる。


 彼女が頭上に広げたのは半球状の厚い膜。


 透き通るそれは氷でできた障壁で、その大きさは蹲った風将軍(ヤールウィンド)を悠々と覆う巨大さ。


 ボッ……ゴバアッ!


 そこに追撃の炎がいくつか炸裂して弾け飛ぶ。


 新たな熱風に身を屈めた俺とボーザックの視線の先、障壁のまわりには炎が燃え上がったけれど彼女たちは無事だ。


 さすがファルーアである。


 金色の髪を靡かせたファルーアは左手で頬についた泥を拭い、俺たちに目線を寄越すと妖艶な笑みを浮かべて言った。


「援護を頼めるかしら?」


「あ、おう! 『持久力アップ』『持久力アップ』、『威力アップ』『威力アップ』ッ!」


 彼女にはまだ『肉体硬化』の四重が残っていたけれどすぐに書き換え、俺とボーザックは駆け寄って武器を抜く。

 

「助かるわ。ティアはフェンに任せてあるから心配いらないけれど、さすがにこの数をひとりで落とせる気がしないもの」


「あはは、全部落とす気だったくせにー! でも任せて。俺、ばんばん叩き斬るからー!」


 ボーザックが白い大剣を構えて不敵に笑うのを見て、俺は口角を吊り上げた。


 うん。俺たちならやれる。そう思ったんだ。


 当然足場は悪く、視界もよくない。


 相手は飛んでいるし、炎の球だって吐き出してくる。


 だけどどうしてだろう。こんなに滾るのは。


「じゃあ、どっちが多く落とすか勝負だなボーザック。『肉体強化』『肉体強化』『脚力アップ』『脚力アップ』」


 自分とボーザックにバフを広げ、俺はふーっと息を吐いてから大きく吸った。


「さあ来い!」


『グルアァァッ!』


 黒い龍たちが一斉に降下し、地面すれすれを飛行して鋭い鉤爪を繰り出してくる。


「たああぁぁ――ッ」


 負けじと気合いを吐き出すボーザックが大剣を閃かせ、その爪を脚ごと刎ね飛ばす。 


『ギャアァッ!』


「まだまだぁッ!」


 閃かせた剣を引き戻し次の爪を弾いたボーザックは体を捻って大きく剣を振り抜く。


 斬り飛ばされて仰け反る一体に別の一体が巻き込まれ、ほかの個体にもぶち当たる。


「ほらハルト! 俺が全部やっちゃうよー?」


「はっ、言ってろ! おおっ!」


 俺は後ろから向かってきた一体の首を半身を捻って斬りつけ、擦れ違い様その翼の根元に掴まる。


『ギャギャッ!』


「悪いな! ちょっと運んでくれ!」


 のたうって飛び上がろうとする龍とともにぶわりと体が浮いたところで手を放し、俺はボーザックが斬ったことで踏鞴を踏んだ一体を上から踏み付けた。


 ドシャアッ!


「ふッ!」


 双剣を振りかぶって突き刺し黒い龍が動かなくなったところで、俺はボーザックにニヤリと笑う。


「一体いただき!」


「ちょ、ずるい!」


「燃えなさいッ」


 そこに特大の炎が吹き荒れ、龍たちを数体巻き込んでいく。


「……馬鹿やってないで真面目に戦いなさい? 消し炭になりたいの?」


「すみませんでした」

「ごめんなさい」


 いやめちゃくちゃ熱いんだけど、いまの……。


 間髪入れずに謝った俺とボーザックは軽く肩を竦め、背中合わせに立った。


「じゃあ気を取り直してーどんどんいくよハルト!」

「おう!」


 ……とは言ったものの、龍たちは降りることを躊躇ったのか上空で旋回を始める。


 これはまた炎を吐くか?


 警戒した瞬間、予想とは裏腹に龍たちが一斉に急降下した。


「なんだ⁉」


 狙いは俺たち――じゃない!


 ファルーアの向こう側、蹲る怪鳥だ……!


「……ッ、ディティア!」


 思わずその名を口にした俺の視線の先、銀色の風が飛来する龍の喉元に食らい付いた。


『グアウウゥッ!』


「フェン! ……いくぞボーザック!」

「了解ッ」


 フェンだけじゃ多勢に無勢だ。


 俺とボーザックが地面を蹴ったところでファルーアの氷の魔法が炸裂。


 何頭かは顎や鉤爪を凍り付かせて落下し、何頭かは再び舞い上がる。


『ウウウゥッ』


 しかし、食らい付いたまま唸るフェンの体ごと飛び立とうとする一体が顎を開いた。


「フェン! 放せ、炎がくるぞ!」


 思わず叫び、懸命に足を前へと運ぶ。


 あれが炸裂したら風将軍(ヤールウィンド)も巻き込まれる。ファルーアの魔法もこの距離で撃つのは難しいかもしれない。


 泥濘(ぬかるみ)についた足が重くてもあと一歩、ほんの瞬きの時間だけでも速く――!


 俺は歯を食い縛り、双剣を収めてすぐ隣を駆ける大剣使いを見た。


「『腕力アップ』『腕力アップ』『腕力アップ』ッ! ボーザック!」


「任せて! たああぁ――ッ!」


 俺は自分の『肉体強化』二重と『脚力アップ』ひとつを『腕力アップ』に書き換え、泥濘にこれでもかと足を突き込んで手を組む。


 そこにボーザックが大剣を振りかぶりながら足をかけたのと同時、思いっ切り跳ね上げた。


「いっけえぇぇ――ッ!」


 夜闇に浮かぶ白い大剣。


 閃いた瞬間はなんというかこう、むちゃくちゃ格好良かった。


 

 ズダァンッ!



 龍の首を捉えたそれが一気に地面に到達し、黒い龍の巨躯がドンと弾む。


「やっ……」


「まだよボーザックッ!」


 やった、と言いたかったんだと思う。


 俺だってそうだから。


 だけど。


 首を斬り落としたというのに、顎に集約した炎は大きく膨れ上がって――弾け飛ぶように放たれた。


 その先には蹲る風将軍(ヤールウィンド)がいて、当然、彼女(かのじょ)もいるはずで。


「……ッ、や、やめろおおぉ――ッ!」


 俺は思わず絶叫していた。



恥ずかしい誤字をやってしまいました、誤字報告大感謝です!

本日もよろしくお願いします!

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