たとえば悪夢のように③
◇◇◇
何度も何度も夢に見た。
たとえばそれは悪夢のようで、だけど私が彼女たちの顔をはっきり憶えている証明でもある気がして。
どこか安堵する自分がいるのは、ちゃんとわかっている。
何度も何度も彼女たちを失うのは苦しいし、つらい。それなのに――。
(ああ、私、またこの夢を見てるんだ)
私は双剣を手に湿地を駆けている。
これは大切な仲間を失う夢。過去に起こった痛ましい出来事の再演。
この夢を見る回数が減ったのは気付いていたけれど、どこか罪悪感もあった。
そんなとき、決まって誰かが囁くのだ。
「もっと俺たちに頼ってくれないか?」
その言葉はいつも私を絶望の淵から掬い上げてくれる。
だからきっと、今回だって。
◇◇◇
「嘘だろ……なんだよあれ」
思わず言った俺の言葉は怪鳥たちが鋭く鳴き交わす声に掻き消される。
互いが互いに警戒音を発している……そんな感じだ。
ボーザックがいち早く捉えた気配は黒い龍の群れだった。
夜闇のなかでは何頭いるのか全然わからない。
しかもかなりの速度。豆粒大だと思えば翼がわかるまでになり、あっという間に全体の輪郭がはっきりした。
間違いなく風将軍より速いだろう。
「くそったれ! 降りろお前ら! 空じゃ分が悪ぃッ!」
グランの声が轟いたけど――次の瞬間。
黒い龍たちが次々と顎を開き、炎の球が吐き出された。
すさまじい速度で飛んでくるそれは、夜闇を斬り裂きあたりを煌々と照らす。
「避けろ――ッ!」
響いたのは誰の声だったか。
考える間もなく、ものすごい勢いで体が振られる。
風将軍が回避行動をとって急旋回したのだ。
けれどその直後、全身にドンッと鈍い衝撃が奔った。
同時に聞こえたのは怪鳥の悲鳴じみた鳴き声。急激な浮遊感が手足を竦ませ、なにかが焼ける臭いが鼻腔に広がる。
「ハルトッ、俺たち落ちてる――ッ」
「わかってる!」
ボーザックと俺は怪鳥にしがみつき、ぐるぐる回る先へ目を凝らす。
気絶してしまったのか風将軍はまったく動かない。
轟々と風がうねり真っ黒な地面がどんどん近くなって……ああくそ!
「肉体硬化、肉体硬化、肉体硬化、肉体硬化ァッ!」
ほかの皆がどういう状況かわからない。
それならと全力でバフを広げた俺は来るべき落下の衝撃に備えて身構えた。
『――グルッ!』
そこで俺たちを乗せた風将軍が翼を広げ、懸命に体勢を整えようと羽ばたく。
よかった、意識が戻ったんだな?
でも再び舞い上がるだけの力は残されていないらしい。
速度は落ちたけれど――駄目だ、このままじゃ――ッ!
ドシャアァァッ!
風将軍は俺たちを庇うように腹側から落ち、水飛沫が上がった。
真っ黒な闇に染め上げられ、空からでは更地にしか見えなかったけど――この独特の苔や泥の匂いは。
ここ――まさか湿地か?
体は軋むけれど、風将軍のおかげで動けないほどではない。
さすがに焦った。
「大丈夫か、ボーザック」
「うん。皆の確認もしよう……!」
俺は背嚢に縛った縄をほどき、同じように体を起こすボーザックと視線を交わして頷き合う。
そうして背嚢から出ると、怪鳥は俺たちの下で浅い呼吸を繰り返していた。
池の深さはそれほどないと判断してその背から降り、俺は嘴の隙間から手を差し込む。
「『治癒活性』『治癒活性』! 無理せず少し休んでいてくれ。ありがとうな、庇ってくれて」
『クル……』
柔らかな羽毛を撫で、すぐにあたりを見回す。
上空では炎の球が何度も弾け、緑色の怪鳥が二頭、紅く照らされては闇に紛れていた。
「あっちは〈爆風〉たちとグラン、アイザックか?」
「だと思う。あの炎はファルーアの魔法じゃないみたいだし。ファルーア、ティア、フェンの風将軍はどこだろう?」
「空にはいないな。どこかに落ちたのかも。捜そう、『五感アップ』!」
俺は『肉体硬化』をひとつ書き換えて意識を集中させる。
湿地には色濃い気配が満ちているかと思ったが酷く静かだ。
瞬間、ボーザックが鋭い声を発した。
「ハルトッ、龍が来る!」
「!」
咄嗟に見上げた空、闇に紛れた黒い龍が数頭、急降下してくる。
その顎が開かれ、炎の球が生まれ、生まれて――。
俺たちとは別の場所に放たれた。
「あ……」
ゴバアァッ! ドゴオォンッ!
思わずこぼれた声のような音を、地面を揺るがす衝撃と爆音が吹き飛ばす。
熱波が駆け抜けた湿地で、池の水面が震える。
――気配があったんだ。着弾点に。
ご無沙汰しております。
すみません。
ひどい咳が続いておりましたが、薬も長いこと飲んでようやくマシになってきました。まだ出てますが!
夜中の発作みたいなのが一番キツいですね。
マイコプラズマ?も流行っているみたいだし、皆さまもお気を付けて!




