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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ アイシャ

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822/847

たとえば悪夢のように①

******


 俺たちはギルドで夕飯の弁当を準備してもらい、すぐに出発した。


 空は夕闇の帳を引いてきたところで、だんだんと肌寒くなってくる頃合いだ。


 眠っているディティアはファルーア、フェンと同じ風将軍(ヤールウィンド)に乗せ、様子を見てもらうことにする。


 俺はいつもどおりボーザックと一緒で、〈爆風〉と〈爆突〉が一緒。


 グランは〈祝福のアイザック〉と一緒だ。まあ……そこだけちょっとむさ苦しい気もするけど仕方ないだろう。


 シュヴァリエのところに向かう〈爆炎のガルフ〉だけはひとりで乗って別に発つことになるけど、この爺さんときたら「眠っておれば到着じゃな」なんて言っていた。


 どれだけ寝るつもりなんだか……。


 そうして始まった空の旅がそれなりの高度になって安定した頃、背嚢の中からもぞもぞと上半身を出したボーザックが思い出したように言う。


「ねえハルトー。結局オルドーアのギルド長マローネってどっちだと思うー?」


「あー。そういえばまた聞くの忘れたな。まあどっちでも構わないんだけどさ……」


 一度気になったらずっと気になるんだよなぁ。


 俺がひとりでウンウンと頷いていると、ボーザックが笑った。


「あっはは! そうなんだよー、どっちでもいいんだよね! ただこう、はっきりさせたいっていうかー? うーん、ここまでくるといっそ謎のままがいいって気もしてきたな、俺ー」


「謎のままか……それもいいかもな。顔見るたびに絶対気になるけど」


「だめじゃん!」


「ははっ。……草原の町アーヴェルは東のほうだったっけ。風将軍(ヤールウィンド)で数日ってところか?」


「ん、そうだね。例の湿地帯(・・・・・)よりさらに東、四カ国の国境が接する山脈の手前みたいだよ。ティアが早く起きてくれたら……とは思うけど、湿地は越えてからのほうがいいかもーとも思ったりしてさー」


 例の湿地帯(・・・・・)がなにを意味するのかは聞かなくてもわかる。


 大規模討伐依頼で過去に例がないほどの死者と負傷者を出した場所。


 ディティアが――前の仲間を失った場所だ。


 俺は胸の奥がすぅっと冷えるような無力感に大きく息を吸う。


「そうだな。もしもディティアが起きない場合、ファルーアに任せて俺たちだけで始祖人を迎え撃つことになる可能性もある。始祖人の情報もないし、いきなり戦闘になるかもしれない。気を付けておこう」


「うん。まあこっちには〈爆突のラウンダ〉もいるわけだし、俺は少しほっとしてるー。早く手合わせもしたいしさ」


「ははっ、お前らしいな。ロディウルとアロウルがいたらまた空で模擬戦ができたかもだけど」


「げー……あれはもう勘弁してほしいよ。二度と落ちたくない」


「俺だって落ちたくないよ。ま、しばらくはお預けだな」


 こんな感じで空の旅は順調だった。



 ――だけど。


 それは二日後の夜中に起こったんだ。



『アォオオオォンッ!』



「……ッ、フェン?」


 背嚢のなかでうつらうつらしていた俺は聞こえた鳴き声に飛び起きる。


 いや、窮屈な場所だから飛び起きようとした(・・・・・)っていうのが正しいかもしれない。


 頭が思い切り背嚢に擦れたところで思考が追い付き、俺はひとりで苦笑いしてモゾモゾと這い出した。


 感じるのはおかしな気配。なんというか……大きくなったり小さくなったりしているような。


『ガウゥッ!』


 絶えず聞こえてくるのはフェンの声だ。


 風が轟々と唸りながら頬を打ち据え、暗い視界に緑色の怪鳥の背が広がるが――それだけじゃない。


 夜闇を纏ったような大きな『漆黒』が一頭、周りを旋回しているのが見えたんだ。


 なるほど、気配が遠くなったり近くなったりしているから変な感じがするのか。


「あれ魔物――? 大きい」


 ボーザックが咄嗟に抜いたのは短剣だ。


 ここで大剣を振るうのは分が悪いとわかっているのだろう。


「お前らッ背嚢と自分を縄で固定しろッ! そう簡単に着地させてもらえそうにねぇぞ!」


 グランの怒声が微かに聞こえて、俺はばっと手を上げてバフを広げた。


「『肉体強化』『肉体硬化』『速度アップ』ッ!」


 皆の力を底上げし、防御を固めつつの加速付与。


 落下したらひとたまりもない。すぐに動かないと。


 俺はボーザックと素早く目配せして荷物から縄を取り出し、背嚢と自分の体を結ぶ。


『グルアァッ!』


 緑色の怪鳥と擦れ違いざま漆黒の魔物が短く(いなな)き、腹の底がビリビリと震えた。


 一対の翼は皮膜があり、先端には爪のようなものが見える。


 太い脚は二本で、長めの首の先に突き出すのはすらりと伸びる鼻筋と牙の並んだ顎。


 耳らしき突起の上あたりには黒い角が二本、波打つような形を描いて伸びていた。


 飛龍タイラントに比べたらかなり小型だけど、風将軍(ヤールウィンド)よりはでかい。あれ、まさか龍か?


 ひやりと背中を冷たい手で撫でられたような感覚と同時、『ボッ』となにかが弾き出されたような音がして、俺たちの乗る風将軍(ヤールウィンド)が左の翼を下に向けて体を捻る。


「うぉあッ!」


 咄嗟にしがみついた俺は内臓が引っくり返るような浮遊感に歯を食い縛った。


 なにか強大な魔力の塊が掠めて虚空に弾け、今度はその爆風で怪鳥の体が弾き飛ばされる。


「……ッ!」


 急降下と急上昇――風将軍(ヤールウィンド)が風をいなしながらグルグルと回転し、俺とボーザックは言葉を発することすらできない。


 俺たちの風将軍(ヤールウィンド)が狙われてる――ッ!


 瞬間、俺たちと擦れ違うようにして別の怪鳥が飛来した。




「――燃えなさいッ!」




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