表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ アイシャ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

821/847

たとえば遊戯のように④

 今度は思い切り息を吐き、皆がどこか察した眼で見ているのを感じながら俺は顔を上げた。


「ごめん大丈夫。痛いところを突かれてさ」


 苦い笑みとともに告げれば、皆がそれとなく流そうとしてくれたのがわかる。


 だけど。ひとりだけ違った。


「はっは! なあ〈逆鱗〉! 失敗なんて生きてりゃいくらでもあるぜ? 挽回できるものも、そうでないものも、だ。今回が大丈夫でも次は違うかもしれないしな。だからお前は二度とそうならないよう足掻いて進め!」


〈爆突のラウンダ〉。


 彼は豪快に笑いながらそう言うと突然〈爆風〉を見た。


「なっ、お前もそう思うだろ?」


「うん、俺に振るな。返答に困る。まあ少なくとも俺はそうしてきたつもりだ。……それで〈豪傑〉、これからどうする」


「んっ、あぁ? 俺か? これから? ああ、そうだな――」


 たぶん〈爆風〉は面倒臭くなったんだな。


 急に振られたグランが慌てたようにゴホンと咳払いを挟む。


「あー、すまねぇが皆には頼みがある。セウォルは俺に――俺がぶん殴るから任せてくれねぇか。当然手伝ってはもらうんだが……言葉を借りるなら俺も足掻きてぇんだ」


 グランには不意打ちだったろうけど、空気が適度にピンと張ったように思う。


 皆がそれぞれ頷くのを見ながら俺も顎を引いた。


 グランの頼みを断るなんて有り得ない。


 勿論、俺だって頑張ろうと思えたし、さっきのは〈爆突〉なりの激励だったんだよな。


 ――隣室で眠っているディティアにはフェンが着いている。魔力回復の妙薬は〈爆呪のヨールディ〉が分けてくれたのを呑ませた。


 だから彼女も〈爆〉ふたりと同じようにすぐ目覚めるはずだ。


 きっと心配いらない。それだけの強さをディティアは持っているんだから。


 なら〈爆突〉や〈爆風〉の言うとおりだ。足掻こう。俺も俺なりに。


 ゆっくり拳を握り締めると、グランは「恩に着る」と言って話を続けた。


「まず〈爆呪のヨールディ〉とロディウルでシェイディを王都に輸送してくれ。残りは草原の町アーヴェルに向かう。セウォルはそのあとだ」


 グランは同意を示して頷いたロディウルに視線を移す。


「ロディウル、そろそろ王都に『魔力回復の妙薬』と『例の道具(・・・・)』が届いているんじゃねぇか? それを回収してきてほしいんだがどうだ」


 例の道具――隣の大陸(トールシャ)のアルヴィア帝国が所有している『血結晶を使う兵器』のことだろう。


 ロディウルは緑色の髪を手櫛で乱暴に梳きながらニッと笑った。


「せやな、時間的には充分やと思う。デミーグの薬の進捗も確認して――あとは姐さんの近況でも聞いてくるとするわ」


「それは……助かる、すまん」


 グランが頭を下げるとロディウルは口元に笑みを浮かべたまま首を振る。


「なに言うとんのや兄弟! 俺が受けた恩はこんなもんやなかったで? これくらい任せとき」


 ――ロディウルと杯を交わしたのはもうずいぶん前だ。


 兄弟と呼ばれるのはなんだかむず痒くもあり、同時に嬉しくもある。


 やっぱり仲間っていいよな、なんて素直に思った。


「そうと決まればすぐ動くぞ。シェイディの使っていた魔物の行方はわからねぇが、あの程度なら冒険者たちで対応できるだろうよ」


「ええ。草原の町アーヴェルの状況がよくわからないもの。救援は早いに越したことはないでしょうね」


 グランとファルーアが視線を交わして口にする。


 俺はふと考えついたことに「そういえば」と切り出した。


「シェイディには補佐みたいなやつ、いないのかな。セウォルにはタトアルがいただろ? きっと始祖人のなかでは『従ずるもの』なんだと思うけど」


「そういえばいなかったな。大盾も弓使いもそこまでじゃねぇようだし」


 グランが大きく頷いて顎鬚を擦ると〈爆風〉が応える。


「同じ始祖人であっても戦い方が違うのかもしれんな。セウォルは自分が前に出て戦うこともできるようだが、シェイディは後衛向きだろう。あの容姿で冒険者を操っていたとすれば『従ずるもの』がいなくともやれたのかもしれん」


「では僕がそのあたりも尋問を続けておきましょう。遊戯などと称して好き勝手されてはたまりませんからね、ふふ……」


 聞き役に徹していた〈爆呪のヨールディ〉が薄く笑ったので、俺は身震いしてから口を開いた。


「あ、あの。『精神安定』と『浄化』のバフが使えるバッファーを王都でも捜しておいてほしい、です。もしかしたらもう集められているかもしれないけど」


 この程度の指示、あいつならとっくに出しているかもしれない。


 でも念には念を、だ。


 俺が言うと、〈爆呪〉は「承知しました」と言って立ち上がる。


「では早速シェイディのもとへ行きますかね。よろしくお願いしますよ、ロディウル君」


「任しとき。んじゃ、俺らは先に発つわー。気ぃつけてな!」


「おう。お前らも気をつけてくれ。ああそうだ、こいつを預けておく」


 グランは荷物から革袋を出してドンと机に置いた。


 中身は――始祖人の血で作られた石。


「デミーグの薬の研究に使えるかもしれねぇし、もしものときはその『兵器』が動かせるかもしれねぇ。ほかの国からの承認はおそらくだが得られているだろうよ」


「……。せやな、そのもしもがないことを祈っとくわ」


 ロディウルは眉根をぐっと寄せ、真剣な面持ちで革袋を手に取った。


「まったく。歴史を見守る民(ユーグル)がこいつを手にしなきゃならないんはえらい複雑な気分や。でもこんな遊戯、俺かて認めん。さっさと終わらせんとな」


暑すぎてぐったりしています。

皆さまも熱中症にお気をつけて……

引き続きよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ