たとえば遊戯のように③
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「丘陵の町フルシュネの次にシェイディが狙っていた場所はここ――海都オルドーアだろう」
〈爆風〉はそう言ってギルド長マローネが用意した追加資料をバサリと机に置いた。
「国取りを画策していたのであれば大量の手駒が必要だ。町を襲い、最終的にラナンクロスト王都、そして城を陥落させるためのな」
俺たちはギルドの一室で情報共有をしたところだ。
ちなみに、近場の遺跡を回ったロディウルも帰ってきている。彼の土産はいくつかの石だった。
「それで人数を集めていたのなら、たしかに納得がいくわね。フルシュネを何度も攻めていたのは手駒を増やすためだった――ということになるもの。どんどん操っていたのも話に聞いたとおりだわ」
ファルーアが言うとロディウルが緑色の前髪を掻き上げて瞼を閉じ、小首を傾げた。
「石埋めて縄張りを作るんもそのためかもしれへんな。自分の手駒を集める場所が必要やろし。鍛治士の町でも縄張りがあったやろ? なら残りふたりの始祖人がおる場所も割り出せるんとちゃうか?」
「ああ、なるほどな。それなりに大きい町の近くってことか……」
俺がぽんと手を叩くと、器用に右眼だけ開けたロディウルが頷く。
「せや。つまりシェイディ以外の三人をさっさと制圧せんと王都が襲われるってわけやな」
「鍛治士の町にいたセウォルは〈爆風のガイルディア〉と戦って傷を負ったはずだよねー」
ボーザックが言うと〈爆風〉は肩を竦めた。
「ああ。とはいえ、操られた者が本当にあれだけだったのかは不明だ。早々に対処すべきだろう。ほかの国で被害が出ているのも気にしておく必要がある」
「そうだな。ほかの国でも手駒を増やしている可能性は考えておくべきだ。あとひとりがどこにいるか割りだせりゃいいんだが」
「あとひとり? ふたりじゃなくて?」
応えたアイザックに俺が聞き返すと、彼は自信たっぷりに頷く。
「おうよ。おそらく始祖人の残りふたり……そのどっちかと俺らの大将がやり合っているからな。場所はラナンクロストの南、ヴァイス帝国との国境付近にある森林の町。まだ始祖人の確認はできていなかったが、まず間違いない」
そこで俺は腕を組んで思わず唸った。
「なあ……結構厳しい状況なんだろ? あいつのことだからバッファーは確保してるかもしれないけど……援軍は必要ないのか?」
「ほっほ、それは問題なかろう。儂が〈閃光〉のところへ戻るからの。〈祝福〉はこのまま貸出しておくから心配ないじゃろ」
「なんだ〈爆炎〉の爺さん、先に戻っちまうのか?」
グランが聞くと〈爆炎のガルフ〉は白い鬚を撫でながら続ける。
「目的は〈爆突〉と〈爆呪〉の制圧じゃったからの。こやつらが想定より早く目覚めたのも朗報じゃ」
「あー、そういえばそうだったな。あれ? そういえば〈爆突〉……さんと〈爆呪〉さんはどうするんだ?」
俺が言うと〈爆突のラウンダ〉が「はっは!」と大声で笑った。
「俺たちはこのまま加勢するぜ? そのために動いていたんだからな! それに今更なんだ〈爆突〉さんってのは! 気にすんな〈逆鱗〉。俺たちはもう仲間だぜ?」
「えぇ……」
なんていうか、こう。いままでにいなかったな、こういう性格のひと……。
俺が若干引いているとファルーアが資料のなかから一通の封筒を引っ張り出してヒラヒラさせた。
「とりあえず落ち着きなさい? 〈閃光のシュヴァリエ〉から手紙が届いているようよ?」
「おー、新しい指示かな? 俺たち勝手にオルドーアに移動しちゃったしね~」
「一応報告は上げたし文句は聞かないけどな。ディティアが優先に決まってるだろ」
身を乗り出すボーザックに即座に応えると、グランが呆れた声で続けた。
「異論はねぇがわざわざ噛み付くこともねぇだろうよ……。ファルーア、頼む」
「ええ」
ファルーアは封蝋をペリと剥がすと中身を取り出して読んでくれる。
『丘陵の町の制圧、ご苦労だった。君たちの尽力に感謝する。こちらもバッファーを確保し反撃に出たところだ。君たちが〈疾風の〉を連れ戻し、かつ始祖人を捕縛しているだろうと想定し指示を送る。始祖人は王都へ輸送し、薬の研究を続けているデミーグに引き渡してくれたまえ。そのほか海都オルドーアに危険がないようであれば草原の町アーヴェルに向かってほしい。かなり厳しい状況下にあるようだが人選については君たちに任せよう』
正直、身構えていたんだけど。
淡々とした指示のみだったんで、俺は拍子抜けして肩の力を抜く。
いや、なんかいつもだったら『やあ〈逆鱗の〉~』みたいにくるだろ? そうだよな?
「あははっ、ハルト腑に落ちないって顔してる」
「はっ? そんなわけあるか! 煩いぞボーザック」
顔を顰めるとファルーアが封筒のなかから別の紙切れを出してピッと俺に差し出した。
「安心なさい、ちゃんとあんた宛の手紙もあるわよハルト?」
「あっ……安心って! 誰がそんなの――っていうか、え、あるのか? ……そっか」
まあ、さ。
ディティアのことがあって、あいつからなにも言われないわけがない。
それはわかっていたんだけど。
「……ふー……」
俺は黙って紙切れを受け取り、思い切り息を吸ってバッと目を通した。
――でも。書かれていたのはたった一行で。
『その不甲斐なさを噛み締めるといい。僕なら彼女を逃がさない』
「……ッ」
頭をガツンと殴られたみたいだった。
俺はギュッと紙切れを握り締め、唇を噛む。
わかっていた。わかっていたけど――。
「……くそッ」
――悔しかったんだ。
皆さまこんばんは。
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