待ち合わせはしてないので。②
ヴァイスガライセンのギルドに到着。
まずは今日の宿を取り、美味しい御飯屋でも探そうって事になる。
朝出た船は昼には着いたので、ちょうどお腹も空いてきたところだ。
しかし、受付で名誉勲章を見せた瞬間、ギルド員の顔色が変わった。
「……!ぎ、ギルド長ぉぉーーー!」
「うおっ!?い、いきなりなんだ!?」
グランが仰け反ったところで、ギルド員は慌てて頭を下げた。
「ああっ、す、すみません!ギルド長-!ギルド長ーー!」
俺達への視線は増える一方だ…。
「ここにはギルド長が残ってるのかな?」
「終わって帰ってきたのかもしれないわ」
「でもあっちのガライセンはまだだったしねー」
ボーザックとファルーアが話し始め、グランはげんなりした顔でため息をついている。
ディティアは…しゃがみこんでフェンの毛並みを堪能中だ。
「ま、待っておったぞ白薔薇――!」
そこに、若そうなのにおじいちゃんみたいな話し方をする男性が走ってくる。
「何日待たせるんじゃ!おかげでこっちは…もう、とにかくヒヤヒヤじゃ!」
「うん??」
意味が分からない。
「別に待ち合わせなんてしてねぇぞ?」
グランが答えると、ギルド長はぶんぶんと首を振った。
「と、とにかく!とにかく来い、ほら!早く!」
俺達は、訳も分からず連行される。
これ…あっちのガライセンもこんなだった気がするなぁ…。
******
ギルドを出て路地を抜け、ギルド長はじぐざぐと進む。
この人も速い。
ようやっと目的地に達した時には、俺は結構疲れていた。
そして、通された部屋には。
「遅かったな、白薔薇」
『…………』
その、凛とした空気。
切れ長の蒼い眼に、銀髪。
短く整えられた髪が、凛とした空気と相まって、何というか潔癖そうに見える。
「な、い、イルヴァリエ!?何してんの!?」
そう。
シュヴァリエの弟、ブラコンを地で行く冷えた夜の月みたいな男が、そこにいた。
待ち合わせなんてしてないぞ、断じて。
******
「……で、何してんのお前」
ギルド長は逃げるように帰ってしまったので、仕方なく適当に座った。
宿で優雅にお茶していたイルヴァリエは、畏まったように頷いた。
「見ての通り、待たせてもらっていた」
台詞はちっとも畏まってなかった。
「いやいやいや。待ってたって、誰を?」
「もちろん、名誉ある白薔薇をだよ、逆鱗のハルト」
「その言い方、シュヴァリエを真似しても似合わないよ…?」
俺が肩を落とすと、イルヴァリエははっとした。
「そうだな!兄を真似するなど、過ぎた真似だった!」
「わー」
「まあまあ。とにかくイルヴァリエ、何の用なの?」
ボーザックが聞くと、彼はまた頷いた。
「実は…白薔薇と行動するよう兄上から指示があってな」
イルヴァリエは、一言一句を覚えているのか、すらすらと言葉を紡ぐ。
『イルヴァリエ、お前は最近、騎士団に馴れがあるようだ。鍛錬に手を抜いていては力にならないよ。……そうだ、少し白薔薇と行動してみたらどうだろう?』
「はあ?また勝手なこと言って、あいつ……それから?」
「それだけだ」
「うん??」
「そう言われたから、待っていた」
「……わー」
本当に、こいつは正真正銘のブラコンだ。
周りを見たら、皆がこっちを見ていた。
「えっ、俺のせい……違うよな?」
「ハルトのせいっていうか、もう元凶よ」
「ファルーア……ちょっと酷くないか」
そんなわけで、イルヴァリエはノクティアからハイルデンルートでヴァイス帝国に俺達が来ると予想して、遥々とやって来たらしい。
「ラナンクロスト王都からどれくらいかかったんだ?」
俺が聞くと、イルヴァリエは少し考えてから言った。
「ひと月程だ。だいぶ馬を飛ばしたからな」
「それはすごいわね……普通の2倍近い早さなんじゃないかしら?」
今度はファルーアが聞いてくれる。
「そうだな、少し早く着きすぎた故、暇をもてあました」
「そうなんだー、どれくらいここにいるの?」
「ひと月ほどかな」
「……そんなにー!?」
ボーザックが驚いて眼を丸くした。
「お前、その間何してたんだ?」
呆れたようにグランが言う。
イルヴァリエは、真顔でしれっと言った。
「ギルドの部屋を借りて鍛錬に励んでいた」
「イルヴァリエ…って、…冒険者だったかな?」
ディティアが首を傾げる。
「いいや、王国騎士団だ」
「でも、部屋って確か冒険者しか貸してもらえないよ?」
さらに彼女が言うと、イルヴァリエは首を振った。
「ああ。白薔薇の仲間だって伝えて使わせてもらっていたから問題ない」
「おいおい……」
グランが頭を抱える。
それでギルド長、あんなだったのか。
ちょっと可哀想だ。
無理矢理部屋に押し入られる様がありありと思い浮かぶ。
「では、今日から頼む、白薔薇」
「もうこれ、受けないと……っていうか、イルヴァリエを引き取らないと、ギルドからの信用がた落ちだよな俺達」
待ち合わせなんてしてないのに。
飛んだとばっちりであった。
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