たとえば遊戯のように②
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それからはなんというか……早かった。
いや、時間にしてみれば結構長かったようにも感じたけど、シェイディがすらすらと話したから。
……始まりは遠い昔。
始祖人には『統べる者』と『従ずる者』がいたそうで、後者が眷属と言われていた。
やがて一部の眷属たちが従うことに反感を抱き、革命と称して『統べる者』たちから逃れたそうだ。
そうしてできたのが、俺たちが古代都市国家、魔法都市国家と呼ぶ国。
やがてこの国は対立して戦争を起こし、禁忌の魔法で『災厄』を生み出すことになる。
始祖人の『統べる者』、そして忠誠を誓う『従ずる者』たちはこの長い時間をただ傍観して過ごした。
多少遊ばせてやらねば可哀想だと、そう言って。
彼ら始祖人は長い刻を生きることができる。だからこの数百年……もしかしたら数千年ものあいだ、彼らの営みを娯楽代わりにしていたのだ。
ちなみにだけど眷属たちは『統べる者』の力なくしてはそう長く生きられないらしい。
だから彼らは子をなし、何世代も何世代もかけていまの俺たちになっていったんだ。
最初は彼らの進化……または退化を面白おかしく眺めていた始祖人だったけど、それでも飽きというのはやってくる。
始祖人たちは次に『国取り』を画策した。
数人の『統べる者』のなかで誰が一番早く国を取るか。それが今回の目的であり、これは彼らの遊戯だったのだ。
手始めに取る国を『ラナンクロスト王国』と定め、開始時期を予め決めた始祖人たちは水面下で準備を始める。
それも数十年に及ぶ時間を使って……。
たしかに始祖人セウォルに従っていたタトアルも『知己に思いを馳せていた』と言っていたみたいだし、本当のことなのかもしれない。
――けど。
「そんなくだらない理由でラナンクロストを襲ったっていうのか?」
呆然と呟いたアイザックに、しかしシェイディは子供のように「あははっ」と笑う。
「私たちはお前たちを統べる者よ。理由なんてそれで充分」
「黙れ」
「……ッ」
冷たい〈爆風〉の声にシェイディが息を呑む。
俺は疑問に思って口にした。
「始祖人は……『統べる者』は何人いるんだ?」
「私を入れて四人よ。私たちは頂点にして起源。貴方たちが畏れ敬うべき存在ね」
「それがここまで弱いってのは聞いて呆れるなぁ、おい」
アイザックがそう言いながらとげとげしい杖の石突きで床をガツンと突く。
「こっちはお前のくだらない遊びで何人も……そう、何人も命を落としてんだよ。俺の大将がどれほど背負うことになったと思う――お前にも覚悟ができているってことだよなあ?」
珍しく怒っているように見えて、俺は口を引き結ぶ。
そうだよな――あいつは決断しなきゃならなかった。背負うと決めたんだ。
こんなくだらない理由でそうなったなんて理不尽すぎるだろ。
「……私を狩るのならそうなさい? 私のお人形さんたちが黙っていないだろうけれど」
アイザックの震える腕に、手の甲に、額に、血管が浮かぶ。
だけど聞こえたのはアイザックの声じゃない。もっと冷静で静かで、それでも耳にゾワリとした感触を残す声。
「ふむ。強がりはやめたらどうですか? 君はいま震えていますね。僕の魔法からそれが伝わってきています。それにほら、貴方のお人形さんとなったはずの僕はこうして君の敵です。楽しみすら感じますけどねぇ」
〈爆呪のヨールディ〉だ。
「……それはッ……な、なんなのよ、なんなの、本当にお前たちはなんなの⁉ 私のお人形さんになれば幸せなはずなのに! なんで勝手に動いているのよ……!」
「はあ。面倒臭いですね。……僕は妨害が大好きなんですよ。足留め、拘束、なんでもです。目的を挫くのも妨害ですね、大好物です。まあ、普段は僕より血の気の多いひとに任せて後ろで待機しているんですけどね。……でもねぇ、僕にも許せない人種っていうのはいるんですよ。特に、騙してひとの命を奪うような――そう、君のようなものは、呼吸するのもおこがましい」
魔力感知なんてなくても魔力が膨れ上がるのがわかる。
ビリビリした感覚に、俺は〈爆呪〉に向けて思わず手を伸ばした。
「ま、待っ……」
「やめろ〈爆呪〉」
けれど、その空気すら打ち消してキッパリ言ったのは――。
「〈爆風〉……」
「悪いが、これは〔白薔薇〕の獲物だ。俺もいまは〔白薔薇〕だからな。すぐにでも首を飛ばしてやりたいがそうもいかん」
「いや物騒だから」
思わず言ってから俺は肩を竦めた。
「……ありがとな〈爆風〉。ごめんアイザック、〈爆呪のヨールディ〉さん。こいつの処遇はちゃんと国に――あいつに任せよう。俺たちはほかの始祖人をなんとかしないと」
腰を折って素直に頭を下げると、空気が弛緩するのを感じた。
「……甘いですねぇ本当に……〈爆風〉、君はそういうのを引き寄せるんですかねぇ」
〈爆呪のヨールディ〉が纏っていた強烈な魔力が霧散する。
彼は俺を見て小さく笑った。
「君に免じて少し黙りますよ。でもね、自身の命が危ないとき――迷ってはなりませんよ〈逆鱗のハルト〉君。〈爆辣のアイナ〉のこと、聞いているんですよね?」
「…………はい」
はっとしてひと呼吸置き、頷く。
彼は俺の肩に皺のある手でポンと触れるとゆるい感じで続けた。
「そういえば〈爆炎〉の炎を継いだメイジがいるようでしたね。これは一度手合わせ願うとしますか。魔法の撃ち合いなんて最近やってませんでしたから」
「……えッ、あ、はい。伝えておく、おきます」
もろに杖で殴られて昏倒させられたんだぞ……とは言えなかった。
こんにちは!
いつもありがとうございます。
やはりこちらのサイトも攻撃されているみたいですね……
どこもかしこも大変そうで心配ですが、できるだけ投稿はしたい所存です。
引き続きよろしくお願いします!




