たとえば遊戯のように①
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「結論から言うと此奴の魔力はおそらく弱体化されているようじゃの」
〈爆炎のガルフ〉は自慢の豊かな白鬚を撫でながら片眉を上げた。
俺はディティアの頬を拭い始めたファルーアと枕になっているフェンにあとを任せ、ボーザックと一緒にグランやアイザック、〈爆〉たちの話に交ざることにしたんだ。
ディティアのことは気になるけど……できることをしようと思ってさ。
起きたら謝らないと。俺が不甲斐ないせいで捕まえられなかったことを。
俺を傷付けたくないってディティアの気持ちは痛いほど感じたのに……それに反して俺の命を狩ろうとする彼女に対してなにもできなかった。
それどころか動いた時点で俺の命はなかったろう。本当に情けない。
いま考えれば自分が〈疾風のディティア〉に遠く及ばないのだと再確認した出来事で、ディティアを失う可能性もあった出来事だ。
ゾッとするし考えただけで指先が震える。
俺はそこで頭を振って気持ちを切り替え、こっちに一瞬視線を向けたグランが唸るのを聞いた。
「するってぇと、ハルトのバフが始祖人に弱体の効果をもたらすのか?」
「ふむ。始祖人相手では体を焼くほどの威力がなかった結果かもしれん。とはいえ十分すぎる効果だろう。身体能力も低下していると考えていいはずだ」
〈爆風〉はそう言って岩塊と化しているシェイディをしげしげと眺める。
「効果時間がどの程度かはまだわからないからな。注意しておくに越したことはないだろう。しかしこれではっきりしたぞ〈逆鱗〉。お前は始祖人の天敵だ」
〈爆風〉は腕を組んで笑うけど、天敵って……ひとを捕食者みたいに言わないでくれよ……。
思わず顔を顰めると〈爆突のラウンダ〉が豪快に笑った。
「ははっ! 天敵ってのはいい例えだ。始祖人っていうのか? こんなのがほかにもいるんだろ? どんどん喰ってもらいたいところだぜ! さて、こいつはこのままギルドに引き渡すとして――〈爆呪〉は同行していたほうがいいよな?」
「うん、それがいいだろう。それにしても話し方もまるで変わらないな。いい歳だろうに」
突っ込んだのは〈爆風〉だけど、そうだよなあ。なんか快活なじじ……いや、お爺さんって感じだ。
まあどんどん喰えってのは遠慮しておくけど、始祖人を倒すことには尽力したい。
俺がうんうんと頷いているとボーザックがどこかウズウズした顔で拳を握り締めているのが見えた。
これはあれだな、〈爆突〉に手合わせしてほしいんだな。
「ふ。〈爆突〉。お前はこいつらと少し遊んでやってくれ。なかなかやるぞ?」
「へえ? そりゃいいな。……言っておくが口調はわざとだぜ? もういいジジイだが気持ちくらいは若くいないとな! はっは!」
「はあ。〈爆突〉は僕を誘いにきたときもこんな感じでしてね、全然ひとの話を聞かないところも昔のままですよ……」
黙っていた〈爆呪のヨールディ〉が大袈裟に肩を竦めて深いため息をつく。
すると〈爆炎のガルフ〉が楽しそうに笑った。
「ほっほ、お前たち全員成長しておらんわ」
「まったく。伝説の〈爆〉が揃ってるってぇのはすげぇもんだな。とはいえ、だ。ボーザック、模擬戦はあとにしろー。次の指示が届いてるかもしれねぇし、さっさと動くぞ」
グランが腕を組んで言うので、俺たちはギルドへと移動を開始。
岩塊になったシェイディはグランが背負い、〈爆突〉と〈爆呪〉、〈爆炎〉が乗ってきた風将軍にはディティアとファルーアを頼んだ。
思ったより早く片付いたな、あとはシェイディからどれだけ情報を聞き出せるかだろう。
店舗の前には不安そうな顔をした人々が集まっていたけれど、ギルド員たちが対応しているようだった。
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ギルドに戻った俺たち。
シェイディへの尋問は〈爆風〉とアイザックが対応することになった。
同じ部屋に待機するのは足止め要員である〈爆呪のヨールディ〉とバフ要員である俺だ。
準備された小さな部屋の中心に岩塊で拘束されたシェイディ。
窓際には〈爆風〉が陣取り、アイザックがシェイディと向かい合うような位置でとげとげしい杖を肩にトントンしていた。
〈爆呪〉と俺は扉の前に待機だ。ちなみに念のための『精神安定』バフはすでにかけてある。
〈爆呪〉曰く、〈爆突のラウンダ〉は周辺の町で起こっている怪現象を独自で調べていたそうだ。
言うまでもなく、今回の始祖人による諸々の件である。
その調査に誘われて渋々同行した〈爆呪〉は、けれど辺境の村でシェイディに噛まれてしまったという。
シェイディが泣きながら助けを求めてきたらしい。
〈爆突〉も似たようなことを言ってたしな……やっぱりディティアと同じだろうし、ほかの冒険者たちも――。
考えていると尋問が始まった。
「さて。お前は俺たち相手に万が一にも勝てん。話してもらおう、なぜこんなことをしている?」
〈爆風〉の声は渋くて落ち着きのあるものだけれど、そのゾッとするような空気はとてもじゃないけど触れていたくない。
鋭利な双剣を首にピタリと添えられている……そんなふうに感じる。
言葉に合わせ、〈爆呪〉がツイと指先を動かした。
彼の指に光っている指輪が魔力変換のための武器なのだろう。
岩が粘土かなにかのようにズズ、と動き、シェイディの唇が露出する。
「……別に隠すことでもないしいいわ。これはただの遊びよ。けれど抵抗しなければ私は私の人形を大事にするのに、どうし――ヒッ」
淡々と言ってのけようとしたシェイディの首に、後方から〈爆風〉の指先が触れる。
「戯れ言は聞かん。質問にだけ答えろ」
……恐い、というか、無理だ。あれは相手にしたくない。
俺は身を震わせて右手で左腕を擦った。
ほかのサイトさんもそうですが、どうも繋がりにくい状況が続いているようです。
投稿しようとしたら駄目みたいだったので様子を見ていたのですが……どうなるやらですね。
早く落ち着きますよう。
いつもありがとうございます!




