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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ アイシャ

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たとえば鳥籠のように④

 グランがシェイディを担ぎ、俺がディティアを抱き上げて屋上へと移動した。


 ちなみにシェイディの体はガッチガチの岩で包まれていて、声も出せず目も見えずの状態になっている。


 かなりの重さがありそうだけど――そこはさすがグラン、さすが俺のバフってところだな。


「うまくいったのね、ああ……よかった」


 駆け寄ってきたファルーアは真っ先にディティアを確認して心底安堵した顔をする。


 ボーザックもディティアを覗き込み、眉尻を下げて泣きそうな笑顔を浮かべた。


「本当によかった……ごめんね、結局俺だけなんにもしてないや」


「なに言ってんだよ、お前はここを守ってくれてただろ。鳥籠がうまくいかなかったりディティアが逃げを選んだとしたら、俺じゃ対応できなかった。お前がいなきゃ俺が動けないってことだからな?」


 笑ってみせればボーザックは目を瞬いて頬を掻く。


「へへ……そう言ってくれると少し楽になるよ。なにもできなくて悔しい気持ちもあるけどさ。ありがとうハルト。……それにしてもやっぱ〈爆〉ってすごいね。殺気がここまでビリビリきてた。それに誰よりも早く目覚めたんじゃない? ハルトのバフで治療できる証明にもなったよね」


「ああ。俺も気配を絶たれていることに全然気付かなかった――びびったよ。正直言うとシェイディは彼らのお陰で捕まえられたんだ。完全に戦意を失っていたというか、混乱していたというか……?」


「そうだったんだ。こっちは〈爆炎のガルフ〉が風将軍(ヤールウィンド)に乗ってふたりを連れてきたんだけど、ざっと説明聞いただけですぐハルトたちを追いかけていってさー。バフもなしに〈爆呪のヨールディ〉の魔法で下まで降りていったのはびっくりしたよ。〈爆風のガイルディア〉がほっとけって言うから俺たちは作戦決行したってわけー」


 俺とボーザックが話し込んでいると、ファルーアがふうと息を吐いて腕を組んだ。


「ハルト、ボーザック。話はあとよ。ティアをこっちに寝かせて頂戴。可哀想に埃だらけだわ。始祖人についてはギルドに対処してもらいましょう」


「ん、ああ」


 見れば〈爆〉たちとアイザック、グランが岩塊を囲んでなにやら話している。


 ファルーアの言葉に颯爽とフェンがやってきて伏せたので、俺はその体を枕代わりにディティアを横たえた。


 目を閉じ規則正しく胸を上下させるディティアの頬、掛かった横髪を指先で払う。


 睫毛が頬に落とす影をじっと見詰めてから俺はふと考えた。


 そっか。俺……ディティアを捕まえられたんだ。


 助けられたんだよな、だからいま、こうして……。


 瞬間、ぶわーっとなにかが込み上げてきた。


 熱いような、胸がざわつくような、はたまた不安で震えるような。


 歓喜のようで恐怖にも似たごちゃごちゃな感情の波。


 ディティアが噛まれたと思われる直後、なにもできなかった自分をいまでも不甲斐なく思う。


 もっと強くならなくちゃ。ディティアを守れるくらい――。


 彼女を抱き上げていた手をゆっくり握り締め、俺は思わず苦い笑みをこぼした。


 もう少しのあいだ腕に熱を感じておけばよかったかもな。


******


 少し前、建物を鳥籠にすべく魔力を練り始めたファルーアの隣でボーザックは大剣を手に集中し瞼を下ろしていた。


 自分がなにもできないことを恥じていたけれど、気落ちしている場合でもない。


〈爆突のラウンダ〉と〈爆呪のヨールディ〉が気配を殺して建物内を疾走し、ハルトたちのすぐそばに留まったのがわかる。


 ファルーアはいつも岩を突き出す要領で地面を変形させ、建物を覆う手筈(てはず)だ。


 それにはかなりの魔力を練り上げて形にする必要があり、しかも精密な操作をしなければならないらしい。


 ――それを邪魔させないこと。それがいまの俺にできることだから。


 ボーザックは呼吸を整え、意識を集めて深く深く己の世界に潜り周囲のすべてを投影する。


 ――こっちが〈爆風のガイルディア〉。大きいのはフェンだ。このモヤモヤしたなにかは魔力で……それを練り上げているのがファルーア。


 空に待機するのは〈爆炎のガルフ〉と緑色の怪鳥。


 建物の内部にはグラン、ハルト、アイザックと〈爆〉ふたり。


 そしてシェイディと思しき謎めいた気配と――三人の気配。


 その三人のうちひとりは〈疾風のディティア〉だ。


 ――空に黒い魔物の気配はない。どこかに隠れているのかもしれないけど、少なくとも近くにはいないみたいだ。


 不思議なことに自身の周りが酷く静かに感じる。


 気配が本体の姿を形作って視えるような気にさえなった。


「ふむ。始まったか」


〈爆風のガイルディア〉の渋い声が耳に触れ、目を閉じるボーザックの世界にさざ波を立てる。


 グランが、ハルトが、アイザックが動き出し、同時にディティアの気配が凄まじい速さで移動していく。


 ――ほかのふたりも動き出してる。大盾と……弓使い。


 その間にハルトが飛び出してディティアと交錯する。


 速さでいえば〈疾風〉は抜きん出ていたけれど、それでもハルトが躱して進むのが視えた(・・・)


 シェイディに近付く彼とそれを追うディティア。


 そうこうしているうちにボーザックのすぐそばで魔力が高まり――。


『アオオオォォンッ!』


 フェンが嘶いた。


 瞬間、ハルトが転じて〈疾風〉を捻じ伏せる。



 本当に一瞬の出来事だった。



「覆いなさいッ!」


 ファルーアの凜とした言葉に、地面が低く唸り声を上げる。


 メキメキと音を立てながら太い岩の蔦が建物を這い、文字通り鳥籠のように絡み合う。


「はあ、はあ……ッ。ボーザック、首尾はどうなの⁉ ティアは!」


 額に汗を浮かべたファルーアが煌めく龍眼の結晶が填まった杖を翳しながら言うので、ボーザックは頷いた。


「大丈夫、ハルトが押さえてるよ。〈爆突のラウンダ〉と〈爆呪のヨールディ〉も動き出そうとしてる」


「やったのね――なら私も気張らないと」


 ファルーアが続けた言葉に、なにもできないのが恥ずかしく歯痒くてボーザックはただ苦笑を返しただけ。


 けれどひとり――〈爆風のガイルディア〉はボーザックをチラと見て小さく笑みを浮かべた。


「まさか〈爆突〉と〈爆呪〉の気配を感じ取れているとは……たいしたものだな。ここでひと皮剥けたようだ」


「……え、なに? 〈爆風のガイルディア〉、なんか言ったー?」


「いや。万が一にも逃がすわけにいかん。大事な任だ、あいつらが戻るまで警戒を続けるとしよう」


「うん、わかってる! 任せてよー!」


 返したボーザックは気持ちを切り換え、もう一度集中し始めた。

 


皆さまこんばんは!

本日もよろしくお願いしますー!

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