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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ アイシャ

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たとえば鳥籠のように③

 ――そのときの感覚をなんと言ったらいいのか。


 困惑、懐疑、そして危惧。なにかおかしい、そういう感覚。


 俺の浄化バフの範囲内でアイザックのヒールも届いたはず。


 体をキツく掻き抱いて座り込むその体は激痛に襲われたろう。


 けれどシェイディはグランでも俺でもないどこかを見詰め、声すらあげず息を殺していたんだ。


「……なにが……」


 思わず言いかけた瞬間、俺はゾッとするほどの殺気に四肢が竦むのを感じた。


 俺たち以外、この部屋には誰もいなかったはず。


 シェイディに向かっていったグランも足を止めて大盾を構えたし、アイザックも俺の横で額に脂汗を滲ませている。


 ……その殺気の発生源(・・・)は俺が開け放ちアイザックが閉めたはずの扉付近にあった。


 突如現れたとしか思えなかったんだ。満ちる闇になにか潜んでいる――でも、いったいなにが?


 ディティアに刺された腕はヒールで動かせるようになっていたので、俺は収めていた剣を構えなおす。


 そして。


「子供がいるから助けようとする――当たり前だもんなあ。そこを狙われるとは思ってなかった、うん。俺の考えが甘かったのは認める」


 響くその声はどこか明るくて場違いなほどハキハキしていた。


 暗闇から浮き出た影がゆっくりと形を成し、見覚えのある男性を描き出す。


「でもなあ。許すかどうかは別問題だぜ?」


「お前……私の人形……なんで勝手に動いているの? 壊されたはずじゃ……」


 シェイディの言葉に男性は大きく肩を竦めた。


「あー、そのへんは俺の専門外だな。あとで〈爆風〉にでも聞いてくれ――おっと。お前にあとで(・・・)なんてなかったか」


 長槍を構えた小柄な男性。髪は白髪が目立つツンツンと短い茶髪。眼は翠色でぱっちりと大きく目元には深く皺が刻まれている。明るく豪快な性格だって話だけど――いまはまるで獰猛な獣。狩る者の風格を纏う手練れ。


「悪いけど許さないぜ? 俺たちの後継者を弄んでくれた罪は償わせる。即刻その首落としてやるから覚悟しろ」


 ギラギラと光る瞳には強烈な敵意。


 言葉も声音も飄々としているのに、感じるのは恐怖。


 身が竦み、動くことさえできないほどの殺気。


「そういえば名乗ってもいなかったな! 〈爆突のラウンダ〉、いくぜッ!」


「意味がわからない――どうして、なんなの? 私はどうなってしまっ……ひッ」


 呆然と呟くシェイディに向けて伝説の〈爆〉が一気に加速する。


 だけど俺はそこで我に返った。


〈爆風〉のときもそうだった――彼らは狩る(・・)ことを厭わない。


 いつの間にーとか、目が覚めたんだなーとか、聞きたいことは全部呑み込んで俺は叫んだ。


「やっ……やめてくれ〈爆突〉ッ!」 


 たしかに許せない。それはわかる。


 ディティアを苦しませた罪がどれほどか、その身を以て理解させてやりたいと思う。


 でも命を奪うのは違うんだ――俺たち〔白薔薇〕はそれを噛み締めてここまで来たんだから!


 彼の一歩は大きく速い。


 俺のことなんて眼中にない〈爆突〉が目の前を駆け抜けようとしたその瞬間、俺は飛び出して両腕を広げた。


「待ってくれッ!」


「……ッ!」


「命を奪うな! 情報だって聞き出さないとだろ!」


 それこそ命を奪わせないために口から出た苦し紛れの戯れ言だ。


 そんなの自分でもわかってる。


 瞬間、俺の首に凄まじい速さで槍の穂先がピタリと添えられた。


 チリチリと毛が逆立つような殺気はそのままにギュッと足を踏ん張った〈爆突〉が笑う。


「はっは! その意気込みは買ってやる。でもなぁ、こいつは遊びじゃないぜ。そいつを生かす危険性がわかってんのか?」


「わかってる。〈爆風〉もわかっていて俺たちに力を貸してくれてるんだ」


 きっぱり告げると僅かに〈爆突のラウンダ〉の眉が動いた。


「……へえ。〈爆風〉が」


 退かなければお前を狩るぞ、と。彼の殺気が物語っている。


〈爆風〉と同じだ。このひとは確かに伝説の〈爆〉なんだ。そう思った。


 でも。それならきっと伝わるはず!


 俺は震える指先をぎゅっと握り締め、大きく息を吸った。


「〈爆辣のアイナ〉さんのことも聞いてる。そのうえで頼ませてほしい。シェイディを狩らないでくれないか……! 俺たち〔白薔薇〕に任せてくれッ!」


 瞬間、〈爆突のラウンダ〉はくるりと槍を回して背負い直したんだ。


 溢れていた殺気が嘘みたいに消え、険しかった顔に優しい微笑みが浮かぶ。


 呆気ないといえばそう。


 だけど畏怖は簡単に消えるものじゃない。


 自分の心臓がドッドッと激しく鳴ったままなのがわかった。


「なんだ、あいつアイナの話までしたのか? そうか。なら仕方ないな」


「あ……りがとう、ございます」


 はあーっと息を吐けば〈爆突〉は後方に向けてひらひらと片手を振った。


「おい〈爆呪〉。そういうわけだから縛ってくれ」


「え?」


 彼の言葉が終わるか終わらないか――ギルュルと奇妙な音を立てて床が波打つ。


「……なんなのよ、お前たちはいったい……むぐぅ」


 その波はシェイディまで到達するとまるで粘液のように彼女に纏わり付き、目元と口元を塞いで硬化する。


「呼吸はできますよ、話せませんけどね」


「嘘だろ……もうひとりいたのか」


 入口のそばの闇から現れるもうひとりの人物にアイザックがこぼす。


「初めまして――ではないのでしたか。僕は〈爆呪のヨールディ〉。僕たちを止めていただいたことに感謝します。〈爆風〉と〈爆炎〉が世話になっているようですね。扱いにくいでしょう?」


 金の混ざった白髪はもう残り少ない。蒼いたれ目は優しそうだが、まるで察知できなかった気配の隠しかたを思うと恐ろしい。


 そうしているうちに建物を包んでいたなにかが剥がれ落ち、部屋に日光が降り注ぐ。


「いい鳥籠だったな。おかげでいい戦いが見られたぜ。屋上に〈爆風〉と〈爆炎〉がいるから行くぞ。さすがに腹が減ったぜー」


〈爆突のラウンダ〉が頭の後ろで手を組んでさっさと歩き出すけど――。


「なぁグラン、アイザック。……彼ら、操られていないほうが強い気がするんだけど気のせいかな……?」


 思わず言うと、グランとアイザックは渋い顔で何度も頷いた。


皆さまこんにちは!

本日もよろしくお願いします。

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