ただ捜すのも必要だから④
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さて。
俺たちは部屋で荷物を整理し、軽食を掻き込んでから身軽な状態で捜索を開始した。
身軽といっても武器と防具はしっかり身に付けているけどな。
――目指すは老舗商店である。
〈爆風〉はロディウルたちに指示を出すため別行動。
俺はバフをかけて皆とともに町を歩いている――んだけど。
なんていうかこう、視線が痛い。
フェンもいるし目立つんだろうなーなんて考えつつ聞こえる言葉を拾っていると……。
「ねぇ、あれ。まさか〔白薔薇〕じゃない?」
「飛龍タイラント討伐の?」
「災厄の黒龍もやったんだろ?」
お……おお……?
聞こえる、聞こえる。
俺たちの名前だ。
「でも〈疾風〉は……? たしか女性でしょ」
「そういえばメイジの女性だけね。今日は一緒じゃないのかしら」
そして〈疾風のディティア〉が不在なことも認識されているらしい。
俺は後悔や苦々しさを顔に出さないようにと歯を食い縛った。
この町は……というかラナンクロスト王国は不安の最中にいるだろう。
俺たちまで難しい顔をしていたら皆が心配するかもしれないもんな。
「そうだよ。今日は一緒じゃないだけ。またすぐ一緒に冒険するんだ」
願望なんかじゃない。絶対にそうなるという確信を口にすると、隣をズンズン歩いていたアイザックが、ふ、と笑った。
「お前、覚えてるか〈逆鱗の〉」
「は? いきなりなんだよ。なにを?」
「お前たちが隣の大陸に向けて王都を旅立った日、うちの大将が言ったことだ」
「……ああ、新しい騎士団長が俺の名を広めとくってやつか?」
自分でも不本意だったけど、なぜか覚えている。
俺たちが次に王都に戻るその頃には――って、あいつが口にしたんだ。
勿論、王都に戻るのは状況次第でいつになるかわからないし、あいつが騎士団長になるのももう少しだけ先のはず。
それに俺もあいつもこんな形で帰るだなんて望んでなかったろう。
けれどアイザックはどこか誇らしそうに続けた。
「そう、その約束だ。シュヴァリエはことあるごとにお前と〔白薔薇〕の名を口にしていたぞ」
「ふん。約束なんかした覚えはないけどな。あいつが勝手にやってることだろ。――まあ、でもわかってるよ。だからいまの俺があるってこと」
アイザックに言うと、彼は一瞬だけ俺に視線を向けてすぐに前を向く。
「ははっ。お前、本当に成長したんだなぁ〈逆鱗の〉。でも言っておく。切っ掛けはシュヴァリエでも、ここまで登ったのはお前の力だ」
「は? え、なっ……なんだよ急に」
突然すぎて文字通り肩を跳ねさせた俺に、彼はにやりと笑みを浮かべ前を向いたまま口を開く。
「この状況下であいつが頼ったのはお前と〔白薔薇〕だ。始祖人への対抗策も俺たちでは掴めなかったろう。だから俺はお前を全力で助ける。〈疾風〉へのバフに合図なんかいらない。必ずヒールを飛ばしてやるから捕まえてみせろ、お前ならできるだろ」
「……」
これがアイザックの激励なのだと気付いて、俺は唇を引き結んだ。
やれると信じていても、誰かが支え助けてくれるっていうのは心強いものである。
「おう。次は絶対に逃がさない」
応えると横からでかい拳がそっと突き出された。
「お前、本当にヒーラーっぽくないよな」
思わず言ってその拳に自身の拳を軽くぶつけると、アイザックはトゲトゲしい杖をひと振りして豪快に笑った。
******
「さぁて、ただ捜すってのも悪くねぇもんだな」
グランが顎鬚を擦りながら不敵な笑みを浮かべ、ボーザックが胸の前で拳を打ち合わせた。
老舗商店は活気のない町でもそれなりの気配を内包している。
黒っぽい石を積んで造られた三階建てで相当でかい。
建物の前には俺の背丈くらいある「営業中」の看板が立ち、僅かな時間眺めていただけでも数人の冒険者が出入りしていた。
そして、少し離れた路地にいる俺たちの前では巨大な銀色の狼が小さく低い唸り声を上げている。
「この気配……。始祖人とディティア、どっちもいるんだな?」
『ガウ』
問いかけた俺に力強く返し、フェンの踏ん張っている四肢が地面をぎゅうと掴む。
「ティアの気配があるのは三階の奥だよね。どうする?」
ボーザックが囁くと、グランは首を左右に倒して右肩を回した。
俺が感じる気配も同じ場所にあるし、まず間違いないだろう。
「早く動くほうがいいだろうよ。〈爆風のガイルディア〉が合流したら突入する。作戦を立てておくぞ」
「ならまずは店内の地図がほしいわね。空に逃げられたら目も当てられないわ。そっちの対策もしないと」
ファルーアが言うのに頷くと、アイザックがこっちに歩いてきた冒険者を捕まえて店内にある売り場案内図を写すよう指示を出した。
さすがに俺たちが行くのはマズイかもしれないもんな。
……そうして出来上がった地図を確認すると、一階から三階まですべて売り場。けれど三階だけは奥に売り場ではない場所があるようだ。
「店員たちの詰所とかそんなものかしら。さすがにその部分の地図はないようだわ。ここに始祖人とディティアがいるとみて間違いないわね」
「うん。でも窓の有無はわからないね。それも誰かに確認させておこうか」
ファルーアとボーザックが言うと、辺りを見回したアイザックが高台の建物を指さした。
「窓の有無もそうだが、屋上に出られるようになっている可能性もあるぞ。あそこから確認できるんじゃないか?」
「よし。ハルト、ひとッ走り頼めるか? バフがありゃ速いだろうよ」
「おう。任せろ!」
俺は『五感アップ』をひとつ残したまま『速度アップ』を二重と『脚力アップ』をかけ、つま先でトントンと地面を叩く。
「見張りは任せてよー。なにかあれば大声出すから」
「おう。頼むぞボーザック! それじゃ行ってくる。……ふっ」
息を吐くのと同時、地面を蹴飛ばして駆け出せば風が頬をなぶった。
――待ってろよディティア。すぐに行くから。
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