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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅠ

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81/847

待ち合わせはしてないので。①

「うわぁーおっ、すっごいな!海みたいだね」

ボーザックが船の上ではしゃぐ。


「もう、少し静かにしなさいよ。恥ずかしいわね」

ファルーアがため息をつくが、ボーザックは聞いてない。


「フェン、ちょっと探検しよう」

「がう」


他の人はそんなに多くないから迷惑にはならないだろうけど。

駆け抜けていく嵐みたいな1人と1匹を、俺達は生温く見送った。


「最近、あの2人仲良しだね」

ディティアが笑うから、俺も苦笑を返す。

「確かに」

ボーザックにもかなりの頻度でもふらせるようになった銀狼は、ハイルデン王都を出た辺りからボーザックがお気に入りらしい。


俺には相変わらずもふらせてくれないんだけどなあ。



……船は、そこそこ大きかった。

河なので流れを利用して斜めに横断するそうで、上流と下流にそれぞれ出発用と到着用の桟橋がある。

到着した船は、人工の運河を通って上流に戻るらしい。


良く出来てるよなあ。


今回の船は、ハイルデンとヴァイス帝国の間を月に1回運行する商船とのこと。

荷物が多い代わりに、基本的には人を乗せることが無い船なんだってさ。


乗ってる船乗り達もどことなく強そうだった。


「ハルト君はどうする?」

「ん?」

「探検する?」

「とりあえず、対岸まではそんな無いしのんびりしとくかな」

「そっか」


甲板に申し訳程度のスペースが設けられ、椅子が肩身狭そうに並べられている。

俺達はそこに座って、晴れた空を見上げながらぼーっとした時間をすごした。


「ねえ!ねえ皆!」


そこに、ばたばたと戻ってくるボーザック。

フェンは置いてきたのかな…?


ちょっと眠くなってきてた俺は目を擦った。

「どーしたぁ?」

グランも欠伸してる。

「とりあえず、ちょっと来て。早く」

辺りを窺うボーザックは、どうも冗談で言ってるわけじゃなさそうだ。


俺達は後について、船内に入った。


******


「こりゃあ……どういうことだ?」


目の前に積まれた荷物。

それらは、その前に座るフェンにじっと視線を合わせていた。


「何、これ……」

ディティアが表情を曇らせた。


目の前に積まれたのは、檻。

その中には、見たことも無い魔物が積まれていたのである。


1つの檻に1匹。


それが数十はある。

サイズはまちまちだ。


明らかにおかしかった。


美しい羽を持ち、人に似た容姿をもつフェアリー。

色取り取りの鳥形の魔物。


そして、横たわる、瘦せ細った……フェンリル。


「くぅん……」

鼻先を寄せるフェンに、痩せたフェンリルは小さく鳴いた。


痩せてはいるけど、フェンよりずっと大きい。

知的な眼は、力無く虚空を見ているようにも見える。


「これ…もしかして前に聞いた…」

確か、あれはラナンクロストとノクティアの国境の街、タパのギルド長ササクからだったと思う。


珍しい魔物を狩っている、ならず者の集団がいる。


つまり、この魔物はそいつらの『商品』じゃないだろうか?


すうっと背中が冷えた。


「おおい、あんた達ー、噛まれないように気を付けろよー」

船員から声がかかる。

見ると、後ろのドアの辺りにバンダナを巻いた大柄の男が立っていた。


「おお、船長。いいところに。こいつらは?珍しい魔物に見えるが」

グランが平静を装って答えてくれる。

船長のさも当たり前のような対応が引っ掛かった。


「なんか慣れてそうだけど…よくあるの?」

俺が付け足すと、船長は頷いた。


「そうなんだよ。最近は…つってもここ1年くらいかな、定期的に積んでるんだ。どうも貴族なんかが好きこのんで買うみたいなんだけどよ」

俺にはわからねぇやと笑う船長に、俺達も顔を見合わせた。


「まあ、あんたらはフェンリルも連れてるしな、大丈夫だとは思うが」

気を付けろよ、と。

もう一度だけ言って、船長はいなくなった。


…確かに、こいつらは魔物だ。


人を襲う奴だっている。


そんな時、俺達だって戦うし、命も奪う。


けど、ぐったりと横たわる、艶の無い毛並みのフェンリルを見たら、胸が痛んだ。


「やるせないな」

思わず零れた言葉に、皆が静かに同意する。


何も出来ないことが、ただ虚しかった。


******


「おっと、これが入国証だ。持っとけ」


船が到着し、船長が俺達に小さな札を持たせてくれた。


「無くすなよ、たまに提示を求められるからな」

「わかった、恩に着る」

グランはそれを受け取ると、荷下ろしを始めた船員達を見やった。

「……とりあえず、ギルドに行くぞ」

「うん。……フェン、行こう」

じっと座っていたフェンが、ボーザックの呼びかけにゆっくり立ち上がった。

「何も出来なくてごめんね……」

ディティアがそっと声をかける。

フェンは頭が良い。

だから、きっとわかってる。


それでも、言わずにはいられなかったんだろうな。



……農業大国、ヴァイス帝国。


国境の河岸の街の名はガライセン。

なんと、ガライセンは河を挟んだ1つの街なのだそうだ。

なので、ハイルデンとヴァイス帝国の間で半分ずつを統治しているという、物凄く珍しい事例だった。


ハイルデン側のガライセンと同じく、石造りの建物の軒先に色取り取りの布が張られた露店が並び、賑やかだった。


船を下りた時点で早速入国証の提示があり、俺達はヴァイス帝国に足を踏み入れる。


「ちょっと暗い気持ちにはなるけれど、うじうじしている暇は無いわ!行くわよ!」


ファルーアが俺とボーザックの背中を、竜眼の結晶の杖で殴る。


「いったぁ…」

「折れる、折れるってファルーア!」


でも、気持ちは少し楽になる。

俺は、前を向いた。


「さんきゅーファルーア」


ファルーアの表情はわからなかったけど。

こういう、言いにくいことを指摘してくれる姉御肌なところが、俺達白薔薇には必要なんだと思う。


そんなことを思ってたら。


「ぐおっ…」


グランのうめき声がした。


「リーダーがそんなだからこうなるのよ!シャキッとする!」


「ファルーア、おめぇなあ…そ、そこは殴ったら…ぐうぅ」


……俺とボーザックは冷や汗をかきながら、前だけ見ることにした。


見てはいけない、本能がそう言っていた。



本日分の投稿です。

毎日更新しています。


誤字脱字、ご指摘ありがとうございます。


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