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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ アイシャ

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807/847

ただ休まずは愚行だから②

******


 そんなわけで、ふたりに薬を飲ませた俺たちはすぐにヒーラーたちを招集した。


 アイザックと一緒に迎撃にも参加してくれたヒーラーには悪いけど、ここでゆっくりしてもらうわけにはいかない。


 彼らには魔力回復の妙薬を分けて飲ませ、残り四つの教室を周る。



 ――最後の教室まで耐えられたヒーラーはたったひとり。アイザックだけだった。



「やっぱすごいんだな、アイザックって」


「馬鹿にすんな、これでも〔グロリアス〕だぞ俺は。この程度こなさねぇとクビにされる」


「え、クビとかあるのか? いや、あいつならスパッと切り捨てるとかやりそうだけど……そうか、よし。まあまあ役に立ったって報告してやるからな!」


「おい、なんだよまあまあって? しかも上からか? 言うじゃないか」


「ははっ」


 軽口を叩いていれば少しは気が紛れるな。


 治療中はちゃんと集中できていたと思うし、とりあえずひと段落ってところか。


 ふと冷静になって考えつつ俺は廊下の窓から外を見た。


 既に夜の帳が下りた町は暗い。


 校庭には大きな焚火が踊っているけれど、爆ぜる火の粉の向こう、あの町の雰囲気が気持ちを重くする。



 ディティアはどうしているだろう。


 真っ暗な闇のなかで始祖人と一緒にいるのだろうか。



 胸が軋むような痛みに疼く。


 するとアイザックが俺の肩をドンと叩いた。


「よし。俺たちの仕事は終わった。〈豪傑の〉のところに行くぞ。あとお前、その前に飯だ飯! 絶対食え、腹がはち切れるくらい食え! いいな!」


「ええ……さすがに食べ過ぎじゃないかそれ」


 俺は軽口に付き合ってくれるアイザックに胸のなかでひっそりと礼を述べ、先に歩き出す黒ローブに従って踏み出した。



 そうして校庭に出ると、んん? なんだあれ……?



 松明で円形に囲まれた場所で、誰か……というか〈爆風〉が立っている。


 向かいの相手は女性のようだけど――ああ!


 俺はぽんと手を打った。


 養成学校の教員で医術に覚えがあり、〈爆風〉と手合わせしたいって言っていたひとだ。


 俺が勝手に同意したんだけど、どうやらちゃんと相手してくれたらしい。


「お前、あとで怒られたりしねぇのか?」


 すごい人だかりができているのを見てアイザックが苦笑したが、俺は応えずにそっと視線を逸らした。


******


 食事が作業でしかなかったけれど、食べないでヘタるのは絶対に避けなくてはならない。


 俺は校庭の隅で言われるがままに肉を齧り、スープを飲み干し、パンを頬張った。


 甲斐甲斐しく食事を運んで往復するアイザックには内心「親鳥かよ」と突っ込んでおく。


 本当に面倒見がいい。


 そのアイザックは落ち着くとヒーラーたちの様子を見に行って、入れ替わりでグランが俺を見つけてくれた。


「ここにいたか。どうだハルト。治療は終わったのか?」


「おう。ここはもう大丈夫。町長邸も完了してるからあとは醸造所だけど、そっちはバフが使えるヒーラーに任せてある」


「そうか、よくやった」


「グランのほうは?」


「海都オルドーアには俺たちが直接出向くことで決まった。途中でディティアを捕捉できるかもしれねぇしな。ここはもう制圧完了だ。ファルーアとボーザックには食糧なんかの調達を進めてもらってる」


「わかった。じゃあ俺もすぐ準備するよ」


「いや、お前は少し休め」


「え、いや大丈夫だって。魔力回復の妙薬が手に入ったから魔力はまだ大丈夫そうだし」


「焦るのはわかるが、お前が倒れたらディティアを止める手がねぇだろうよ。ディティアのために休めって言ってんだ、お前のためじゃねぇぞ」


 グランはそう言いながら顎鬚を擦って笑う。


「なんだよそれ。ディティアのためだなんて言われたら断れないだろ」


 思わず笑って返すと、彼は俺の肩にでかい拳をドンとぶつけた。


「ハルト。誰も傷つけさせるわけにいかねえんだ。俺たちでディティアを止める。だろうよ? ……そこで、だ。〈爆〉を回収していく」


「……うん。……うん? は?」


「伝説の〈爆〉ともなれば〈疾風〉といえど傷つけんのは一苦労だろうよ。〈爆風〉にも確認したが、ディティアの相手なら十分だって話だ」


「うわぁ……さすが生きる伝説。ディティア相手に十分ってゾッとするな……」


 思わず言うと、グランは大きく肩を揺らして笑った。


「はっ、多少は落ち着いたみたいだな。まあ〈爆〉が起きてくれるかはわからねぇが、いれば心強いだろうよ」


 そんな話をしていると、遠巻きに俺たちを見ていた人込みがさーっと割れて小柄な大剣使いがやってきた。


「おーいグラン、ハルト~」


「おう、お前も来たかボーザック。酒でもありゃ呑むところだ」


「準備はもういいのか?」


「うん。応急処置用品とか砥石なんかを補充しておいた。食糧はファルーアに任せてある。なんならフェンがいるから狩りもできるし、心配ないでしょ」


 そのフェンの姿は見かけていなかったが、ボーザックは俺が校庭に目を向けたのに気付いて続けた。


「フェンなら焚火のそばに寝そべってたよー。すごい人気で触りたいひとが取り囲んでた」


「ええ、大丈夫なのか?」


「平気そう。フェンもわかってて、ちゃんとお願いすれば撫でさせるみたいー」


「は? 頼んでも俺にはモフらせないのに?」


 思わず不満を顔と言葉に押し出した俺にニカッと笑い、ボーザックは隣に胡坐を掻く。


「少しは落ち着いたみたいだねー」


「ん? 俺? さっきグランにも言われたな」


「あははっ、だろうねー。ティアのことでハルトいっぱいいっぱいだからさ。俺もグランもしっかりしなきゃって思ってるんだ」


「ふたりだってディティアのこと心配してるんだから一緒だろ。きっぱりはっきり言っていいぞ。俺が不甲斐ないだけってのはわかってるつもり」


 言うと、グランとボーザックは視線を交わして相貌を崩した。


「はっ、よくわかってるじゃねぇか」


「ハルトが成長してる!」


 なんだよ、と笑ったところで、今度はファルーアがフェンと一緒にやってきた。



いつもありがとうございます。

本日もよろしくお願いします!

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