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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ アイシャ
803/845

ただ追うだけでは駄目だから②

******


 背嚢に収まって空を駆ける。


 俺はボーザックにディティアが噛まれたことを伝え、それを『知識付与』で皆に共有した。


 涙を落とし「待ってる」と言ったディティアの姿を共有すればよかったのかもしれないけど、どうしても――それは俺の約束だからって思って。


 目元がヒリヒリするくらい擦り、鼻をズズッと啜り続ける俺の話をボーザックは黙って聞いてくれて、聞き終えるとすぐに言った。


「〈爆風のガイルディア〉は俺が連れてくる。ハルトはアロウルに移ってこのままティアを追って。すぐロディウルに伝えてもらえる?」


「ボーザック……」


「言っとくけど俺だって心配だし? ティアのところに一番に駆け付けたいし? だけど――悔しいけどさ、ハルトのバフと〈爆風のガイルディア〉の速さは絶対必要だから。わかってる……俺はまだティアに届かないって」


 歯を見せてニッと笑ってみせるボーザックに、俺はぐっと息が詰まるような羨望を憶える。


 黒い瞳はなにひとつ諦めていない力強さがあって、声音は明るく俺を鼓舞してくれて。


「やばい。お前ほんとに格好いいなボーザック」


「わぁお……真っ直ぐ褒められるとムズムズするなー。ほら、早く動こう。すぐ〈爆風のガイルディア〉と追い付くから。……鳥さーん、アロウルのところに寄せてもらえるー?」


 ボーザックはますます口角を上げると、背嚢から這い出て怪鳥の背をポンポンと叩く。


 俺たちを運んでくれている風将軍(ヤールウィンド)は心得たとばかりに速度を上げ、アロウルの斜め上空にピタリと体を寄せてくれた。


 そのあいだに『知識付与』を広げてボーザックが〈爆風〉を迎えにいくことを共有し、続けて彼に『精神安定』を重ねると、すぐさまロディウルが出てきて俺に『飛び乗れ』と指示を出す。


 轟々と耳元で唸りながら叩きつけてくる風に躊躇う暇はない。


 俺は頷いて怪鳥からひらりと飛び降り、アロウルの大きな背に着地した。


 俺を確認したのかボーザックを乗せた風将軍(ヤールウィンド)が身を翻して家々の上を滑るように飛んでいく。


「頼んだぞ、ボーザック」


 呟いた声は風に流され掻き消える。


 だけどきっとこの気持ちは届いていると思った。



 もうすぐ町を抜けて丘陵へ出るはずだ。



 ディティアの速さなら町を出ているだろう。


 俺は背嚢に戻らずアロウルの背で悠々と風を浴びるロディウルと同じように身を屈めた。


 けれど。


 視界の端、なにかが過る。


 俺は伸び上がるようにしてそれを確認し、息を呑んだ。


「黒い魔物――!」


 小さな龍のような魔物が一匹、二匹――五、七……!


 そいつらはどんどん寄り集まって黒い渦のようになっていく。


 すごい数だ……!


「ちっ。風将軍(ヤールウィンド)ならあいつらに負けへんけど――機敏性ならあっちのが上や。妨害されたらよう進めん」


 ロディウルはそう言うとアロウルを急降下させる。


 胃が浮くような感覚に思わず羽毛にしがみつくと、彼は大声で続けた。


「〈逆鱗のハルト〉! すぐに〈疾風〉を捜さんと連れ去られるで! 気張りぃ!」


「くっ、わかった! 『知識付与』――『五感アップ』『五感アップ』『精神安定』『精神安定』ッ!」


 いまのロディウルの言葉を皆に伝え、すぐ『知識付与』を消して四重に。


 グランとファルーアが背嚢から出てきて俺たちと同じように怪鳥の背にしがみつく。


「ディティアを見つけて足止めできりゃいい! ファルーア、足を狙えるか⁉」


「狙ってもティアに躱されるわ! 広範囲を泥濘(ぬかる)ませて凍らせる! ハルト! 『威力アップ』を!」


 グランの大声に金髪を風にバサバサと散らしながらファルーアが応える。


 俺は返事をする代わりにバフを練り、ファルーアの『五感アップ』をふたつとも『威力アップ』に書き換えた。


 頼んだぞファルーア……!


 そのあいだも黒い魔物の渦はぐんぐんと広がり、俺たちの視界を隠そうとする。


 操られた冒険者を運んでいた魔物が集合すればそれはもう巨龍のような大きさだ。


 激しい羽音が耳を(つんざ)き、不快な嘶きが頭の奥にガンガン響く。


 そのとき、俺は前方に微かな気配を捉えた。


「ロディウルッ!」


「いたか⁉ ッ、いくで!」


 力強い羽ばたきでグンと加速したアロウル。体が持っていかれる感覚に抗い、俺は身を乗り出した。


 黒い魔物の渦を切り裂いた先、青い空と煙を上げる丘が見える。


 そして――そこに。


 間違えるはずがない。見つけた……追い付いた……ッ!



「ディティアぁぁ――ッ!」



 揺れる濃い茶の髪。


 光を散らす双剣を手にしたまま、こちらを振り向くことなく駆け抜けていく一陣の風。


 届かないとわかっていも。それでも。呼ばずにはいられなかったんだ。



 そのとき、ファルーアが杖を突き出した。


「絡め捕りなさいッ……!」


 丘陵がじわりと染め上げられたように見える。


 乾いた土が水を呑み込んで溶け出したみたいにディティアの足回りが急速に泥濘(ぬかる)んでいくのだ。


 けれど。


「嘘でしょう……!」


 ファルーアが苦々しい声を絞り出したのを、強化された俺の耳は確かに聴き取っていた。


皆さまこんばんは。

本日もよろしくお願いします!


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