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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ アイシャ
800/845

指先に温もりを託して②

******


「……さて、全部やったとは思うが始祖人はどいつだ?」


 グランが縛り上げた冒険者を寝かせながら言う。


「いや、フェンはこのなかには反応してない」


 俺がほかの冒険者を縛りながら言うとディティアが地面に転がる冒険者を見回した。


 俺たちの足音や呼吸、吹き抜ける風の音が耳に触れていくが、町特有の喧騒はどこにもない。


 静かなものである。


「降りてきたときにも捕捉できなかったので、どこかに隠れてしまったのかもしれません。正直〈爆突〉さんの威圧感がすごくて気を取られちゃいました……」


 眉がハの字になっているのが可愛いけど、いま口にしたらファルーアの杖でやられるのが目に見えてるからな。


 おとなしくしておこう……。


 すると縛った冒険者を転がしたボーザックが言った。


「近くを捜索したほうがよさそうだねー」


「……ふむ」


〈爆風〉は〈爆突〉と〈爆呪〉を縛りつつ意識を失ったその顔を見て逡巡する。


 彼らの顔には砂や泥が付着していたが、大きな怪我はなさそうだ。


「〈爆突〉と〈爆呪〉は早いところ治療してしまうのがいいだろう。また暴れ出したら面倒だ。縄ぐらい引き千切るかもしれん」


「ええ……物騒すぎるだろ……。じゃあ俺はここで治療を始めるよ。ロディウルに言ってアイザックとヒーラーたちを連れてきてもらおう」


 思わず応えるとすぐさまフェンがロディウルを呼んでくれて、それを確認したディティアが手を挙げた。


「じゃあ私がフェンと一緒に捜索をしてきます。皆はここで冒険者たちをお願い」


 彼女が俺に向かって小さく首を縦に振るので、俺も軽く顎を引いて同意を示し、グランたちに告げる。


「縛った冒険者たちを一カ所に集めよう。纏めて治療するから」


「りょうかーい」


「おぉよ。ファルーア、お前は集めた冒険者の意識が戻らねぇか念のため見といてくれ。また舌を噛まれでもしたら最悪だろうよ」


 ボーザックとグランがそれぞれ縛った冒険者を担いで言う。


「ええ。〈爆炎のガルフ〉たちはどうするのかしら?」


「ほっ、始祖人が見つかっておらん以上、儂らは養成学校の守備を固めるとするかの」


 ファルーアに〈爆炎のガルフ〉が応え、俺はそれならばと〈爆風〉を見た。


「〈爆風〉、醸造所を確認してもらえないか? 治療を任せたままだし」


「うん。いいだろう。……始祖人は気配を隠すのが得意なのかもしれん。セウォルがそうだったからな。捜索には気を付けろ〈疾風〉」


「は、はい!」


 そこにロディウルが降りてきたので内容を伝え、再度飛んでもらう。


 ついでに〈爆炎のガルフ〉たちメイジ部隊も運ばせた。


 念のため『精神安定』はちゃんと掛けておいたし、心配ないはずだ。


「ロディウルがヒーラーを連れてきたら町長邸に行ってもらいてぇな」


 ディティアとフェン、〈爆風〉が出発するとグランが呟いた。


 聞けば、どうも新しい町長が使えない奴らしい。


 なんか変な嘘もついてるみたいだし、あとで俺も顔くらい見ておくか。


 考えて――俺はいやいや、と首を振った。


 余計なこと言ってる場合じゃないな。町長邸をどうするか、だ。


「えぇとグラン。治療した冒険者を運んでもらいたいし、今回みたいに移動の補助が必要になるかも。だから俺としてはロディウルじゃなくてグランたちに町長邸を任せたいんだけど、どうかな?」


「そうね、妥当だわ。ティアが戻って治療の目処も立ったら私たちで動きましょう」


 ファルーアが妖艶な笑みを浮かべ、グランとボーザックも頷いてくれる。


 俺は乾いて埃っぽい空気を大きく吸った。


「決まりだ。まずは始祖人捜しと治療! フェンが見つけてくれるだろうし、始祖人については待つしかないけどな」



 そうして冒険者を一カ所に集めた頃、ロディウルがヒーラーたちを連れて戻ってきた。



「待たせたな〔白薔薇〕! こりゃまたすげえ数をやったもんだ。休ませてもらったぶん、この程度なら一度にいけるぞ」


「本当か! よし、すぐやろう!」


 飄々とした笑顔でアイザックが言うので、俺は早速治療に取り掛かる。


 ちなみに連れてきたヒーラーはアイザックともう三人。念のため残りのヒーラーふたりは養成学校に残しているそうだ。


 さすが、抜け目ない。



 治療は順調に進み、問題なく終えることができた。


 俺は皆の『精神安定』を上書きして「ふう」と息を吐く。


〈爆〉ふたりに関しては痛みに叫ぶこともなく、なんというか――そんなところでも強さを感じたんだ。


 ――けれどディティアとフェンが未だに戻ってこない。


 故郷だし迷うことはないだろうけど……どこまで行ったんだ?


 まだ大丈夫でも早めにバフの上書きはしておきたいし――ああ、くそ。もやもやする。


「……。なあロディウル、ヒーラーと冒険者たちを養成学校に運んでくれないか? 運び終わったら町長邸にグランたちを送ってほしいんだ。その程度ならバフも保つはずだし、俺はディティアとフェンを捜して合流する。バフを上書きしないと……」


 我慢できずに言うと、「人使いが荒いわー」と冗談めかして笑いながらロディウルが笛を吹き、空で待機していた風将軍(ヤールウィンド)たちを呼ぶ。


 まあバフを上書きするなら〈爆風〉もなんだけど、あのオジサマのことだから大丈夫な気がしていた。


「仕方ねぇ。冒険者たちも避難所も放っておけねぇしな……」


「だねー。ティアが戻るまでと思ったけど、治療が終わったならここでジッとしているわけにもいかないしー」


 グランが顎髭を擦ると、ボーザックは頷いて冒険者たちを担ぐ。


「ロディウル、乗せていいー?」


「ああ、勿論かまへんで。何回か往復することになるけどなー」


 そのとき、ファルーアが俺の隣に立った。


「ハルト。フェンもいるから大丈夫だと思うけれど、気を付けなさい」


 彼女が心配そうに言うのを聞いて唇を引き結び、俺は深く頷く。


「――わかってる。合流したら醸造所と町長邸を回るよ。なにかあればフェンからアロウルに合図させる」


「ええ。始祖人の確保が最優先だけれど、なんだか嫌な予感がするわ。万が一捕り逃がしても深追いせず対策を練り直しましょう」


「そうだな、始祖人がここに何人いるのかわからないし。避難所も分散させないほうがいいかも」


「そうね、グランたちと話しておくわ。ティアをお願い」


 珍しくファルーアが右の拳をちょこんと差し出すので、俺は双眸を瞬いてから慌てて拳をぶつけた。


 いきなりすぎて反応が遅れたぞ――でも、気合いは入ったかも。


こんばんは!

800話に到達しました!

皆さま、いつもありがとうございます。


あと誤字報告くださったかた、大変助かりました✨

ありがとうございました。

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