皇帝は偉そうですか。③
「……待ってた?俺達を??」
ルウの話を聞いて、グランが髭を擦った。
今日も綺麗に切り揃えてある顎髭はグランの自慢である。
「うん。ここのギルド長は急な呼び出しで出て行っちゃって、代理であるあたしが任されたの」
「あー、ここの長もか」
ノクティア王都ギルド長、タバナさんが、魔力結晶の収集について大々的に長を集めている…のかも。
「あれ?ここのってことは、王都も?」
「ああ。同じ目的だろうがな」
グランが頷くと、ルウは口元に手をあてて、少し考えた。
意外に長い睫毛が、頬に影を落とす。
「結構な大事なのね。……まあいいわ、あたしの役目は白薔薇をヴァイス帝国に送り出すことだから!」
あ、いいんだ。
俺は、思わず苦笑したのだった。
そんなわけで事情をまとめると。
どうやらここのギルド長は出発の際、ルウとギに白薔薇の特徴を伝えて、ヴァイス帝国の送り出しを任せたらしい。
どっちにしても疾風のディティアを知っていたルウは、すぐ見付けられる自信があったらしいけど。
どこで聞いたか忘れたけど……ギルドは俺達が王を訪ねることを各地に伝達しているらしいから、そういうもんなんだろうな。
「王都からも数日前にハトが来たの。白薔薇が来たって」
「へえ」
「それで、早速船の手配をしたんだけど、出航が近いのに中々来ないからヤキモキしてたってわけね」
「えっ?もう船あるのか?」
思わず聞き返す。
「そう」
「えっ、いつ出るの?」
「明日」
『明日!?』
俺達の声が重なる。
ルウはどう思ったのか、にこにこと言った。
「喜んでもらえて何よりよ!」
いや、喜んでるわけじゃあないんだ。
ないんだよ、ルウ……。
「とりあえず、船の詳細と出発場所を教えてくれる?」
ファルーアが半分呆れたような声で、肩を落とした。
「勿論よ!あ、でも念のために名誉勲章、見せてね!」
……そんなわけで。
俺達は早々に宿を取り、ギの案内で移動。
その途中で、ギの主がギルド長だってことを聞いた。
「儂は確かに買われたが、結局奴隷登録はされなかった。首輪も着けてなかったぞ」
「そうでしたか、本当に良かったですね!」
ディティアが両手を合わせて微笑む。
「ここガライセンではそんなに心配は無かったがの。もし地方にでも売られてたらそうはいかなかったろう」
ギは歩きながら、聞きたいことはあるか?と聞いてくれた。
「あー、皇帝のこと、わかるかな?」
聞いてみると、長い眉毛を触りながらギは頷く。
「ふぉふぉ、わかるとも。……ヴァイス帝国皇帝、ヴァイセンだな」
「ヴァイセン……だからヴァイス帝国なのか」
「その通り」
「……偉そうですか?」
ディティアが恐る恐る口にすると、ギは笑った。
「ふぉふぉ、そりゃあもう、噂に事欠かないほどにはな!」
「……ええ、それあんまり笑い事じゃないよじーちゃん……」
さらに気さくな呼び名に変えて、ボーザックが肩を落とす。
「そうか、いくつか噂を聞くか?」
「ぜひお願いするわ」
憂鬱そうなファルーアに、ギは杖をコツコツと鳴らした。
「ふむ……では少しお茶でもいかがかな、こっちじゃ」
「わぁお、俺達返事してないよー、待ってじーちゃん!」
すごく早足のギを、俺達は慌てて追いかける。
ほんと、楽しそうなじーちゃんだなあ。
******
ヴァイス帝国皇帝、ヴァイセン。
息子が3人と娘が4人いる。
御年60くらいで、長く続くヴァイス帝国の十八番目の皇帝だ。
この皇帝、武勲皇帝という呼び名があって、本当に強いそうな。
そのせいかわからないけど、物腰はとても威圧的で偉そうなんだそうだ。
その噂曰く。
ある時、ヴァイス帝国の農産物を仕入れに来た隣国の商人が、ヴァイス帝国皇帝に献上品を持って行った時のこと。
献上品は酒だったが、ヴァイセンはひと瓶をひとくちで…と言わんばかりに飲み干して言ったそうな。
「足りん、これっぽっちか?」
商人は樽を差し出したが、結局取引は全て棄却されたそうだ。
また別の噂曰く。
皇帝の息子が、城から抜け出した。
止めた兵士は、命令だと言われて何も出来なかったそうだ。
ところが、皇帝の息子は街で転び、擦り傷を作ってしまう。
それを知った皇帝が兵士を呼び出し言ったそうな。
「出て行け」
呼び出して出て行けって……ちょっとかわいそうだ。
結局、兵士は国外まで追放されたとか。
「もうだめだー、ハルト-、俺どうしようー」
「いやいや、むしろ不屈の出番だろ?」
「うわ-、ハルト酷い…むしろ逆鱗が窘めるべきじゃないー?」
「……あれだわ、ハルト」
「うん?」
「精神安定バフ」
「おお、それはいいかもしれねぇな」
ファルーアの無茶ぶりに、グランが食いつく。
「いやいやいや、待って、見つかったら、俺処分されちゃわないか?」
「見つからなければいいんじゃないかな?」
「ディティアーー、ちょっと、はい、黙って~」
「ええー?」
恐ろしいことを言わないでほしい。
そこで俺はふと口にした。
「むしろ、自分達にかけとく?何言われても冷静でいられるかも」
「それはそれで『つまらん』とか言われないかな-?」
「だからディティア-、そういうこと言わない!」
俺を生贄にするつもりなんだろうか。
やりとりを聞いていたギが笑った。
「ふぉふぉ、まあ、強い冒険者は気に入られると聞く。がんばるんじゃな」
むしろ、肉体強化とか肉体硬化とかの方が安全かもしれないな、と。
俺はため息をついたのだった。
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