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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅠ
8/844

硬い盾が欲しいので。①

海都オルドーアに着いた俺達は、まるで凱旋のような状態で。


既に伝達されていたから、街の人々や参加しなかった冒険者達からの大きな歓声がそこら中から聞こえてきた。

飛龍タイラント討伐成功。

それは、人々にとっておとぎ話のような、夢物語のような出来事だったんだろう。

もちろん、俺にとっても。


どんな風に報告されたのかはわからないけど、1つだけ確実なことがある。


「逆鱗のハルトって奴がトドメを刺したらしい」


聞こえる。

あちこちから、その2つ名で俺を呼び、誰だ、どいつだと探す声。

シュヴァリエの奴、報告にそれも交ぜたのかなあ。

釈然としない。

ただ、グロリアスの面々が先頭は白薔薇に、と譲ってくれたのもあって、俺達がトドメを刺したパーティーだということは認識されたようだ。

名を挙げる目的は十二分に果たせただろう。


******


「おかえりなさい皆さん!どうぞ休んでください。報酬についての説明があります!白薔薇の皆さんは別室へどうぞ」

ギルドに着くと、最初に対応してくれたギルド員が俺達を別室に案内してくれた。

席に着くと、何やら報告書らしきものを持ってくる。

「ええと、まずは討伐成功おめでとうございます!歴史的な勝利です!…白薔薇の皆さんに協力をお願いしたのは大正解でした!」

このギルド員、改めて見て思うけど…男なのか女なのかわからない。

茶髪のショートカットに同じ色の大きな瞳。

服はギルドの制服であるシンプルな白シャツと黒パンツ。

まだ幼く見えるので、どっちともとれる。

俺が不躾に眺めていると、ギルド員は俺達を見回した。

「逆鱗のハルトさんはどなたですか?」

「…不本意だけど俺だよ」

「貴方ですか!…すごいですね、バフを重ねられる…わあ、重複さんより多く掛けられるんですか!…おっとすみません。改めて、逆鱗のハルトさん、貴方の2つ名は閃光のシュヴァリエさんからの推薦で登録されました。堂々と名乗ってください」

どうだとでも言わんばかりの勢いだ。

けど、白薔薇の皆からは可哀想なものを見るような視線が送られてくる。

「…あれ?あれですか?やっぱり閃光さんからだと嬉しくないです?」

「わかってもらえるのか…ちょっと感動したよ俺」

「あはは…でもあの方、本当に強いですから。相当名誉なことなのは間違いないです。話を聞かない方ですけどね」

ギルド員にさえそう思われてるのかあいつ。

益々げんなりする。

「とりあえず、報酬についての説明に移りますね。まず、皆さんには当初の予定通り、名誉勲章が発行されます!」

ぱちぱちぱち、とセルフ拍手をして、ギルド員はおめでとうございます!と続けた。

「次に、報酬額です。皆様は10万ジールに加えて発見ボーナスがついて、ひとり15万ジールが支払われます」

うおお、すげえ。

俺の双剣が3万ジールだし、ここの宿は1泊ひとり800ジールである。

俺達は顔を見合わせた。

「さらに。今回は素材の提供が出来ます。トドメを刺した逆鱗のハルトさんはもちろん、白薔薇の活躍は報告書にも記されています」

「ほお?どんな風に?」

意外だったのか、グランが髭をさすった。

「はい、攻撃、防御共に著しい活躍を見せたと」

「あははっ、満更でもないよねー」

ボーザックが嬉しそうに笑う。

「タイラントの鱗についてはおひとり1枚は必ず貰えます。まだ洞窟に残っているはずの骨格は標本にするためお渡し出来ませんが、欲しい素材はありますか?」

俺はグランとディティアに目配せして、頷く。

「角が欲しい。あれはグランが折ったものだし」

「角…ですか。確かに先程回収したリストにありましたね。うーん、本来であれば骨格標本に必要だし回収対象ですけど…」

「そこを何とか頼めないか?俺の武器であり防具であるこの盾が最後に果たしてくれた仕事だ。新しい盾をその角で、作りたい」

グランが頭を下げるので、俺達も慌てて頭を下げた。

「…」

ギルド員はじっと割れてしまった大盾を見つめた。

「…わかりました。何とかしましょう。他には?」

「え、いいの?そんなあっさり?」

思わず、声が出る。

隣からグランに蹴られた。

反対からはディティアにつねられる。

「はい。海都オルドーアのギルド長の名にかけて、保証しましょう」


「……え、今なんて?」


「保証しましょう、と」

「いや、その前」

「海都オルドーアのギルド長の名にかけて?」

『ギルド長ぉー!?』

ほぼ全員の声がハモる。

「ああっ、その反応は久しぶりっ、久しぶりに頂戴しましたっ、やっと皆さんに認知されてきたのに、やっぱりまだいたんですね!そういう人!」

ギルド長は机に突っ伏すとめそめそと泣き出した。

「あああ、ごめんなさい、すごくお若く見えたので驚いて…っ」

さすが疾風のディティア、すかさずフォローが入る。

「いえ、いいんです、慣れてます…、それに名乗ってませんでしたし…私は海都オルドーアのギルド長、マローネと申します」

マローネ…どっちだ、女なのか、男なのか?

ボーザックと眼が合う。

しかし首を振られてしまう!

ファルーアとも視線が交錯した。

しかしそっと逸らされる!

俺は聞きたくても聞けないまま、じりじりと焦らされるような変な感覚を味わうこととなった。

「ええと、こほん、マローネさん。他にも素材が選べるってことですか?」

そんな俺の気持ちはよそに、ディティアが話を続けてくれる。

マローネは頷いた。

「はい!あと4つはお渡し出来ますよ。見たところ革鎧がお二人ですし、タイラントの革はどうでしょう?鎧にすればかなり上等ですよ。その端切れで皆さんのお揃いのブレスレットとかにするとちょっと格好いいかも」

「一応聞くが、他には?何があるんだ?」

グランが身を乗り出す。

「タイラントの肉と、鱗、牙ですかね。肉は…一生で一度食べられるかどうかのドラゴンステーキが人気でしょう。牙は短剣の材料に出来ます。鱗は1枚は手元に渡るので…お勧めの加工は小さなナイフにすることですね」

おお、なんか肉とか牙もいいな。

「それと提案ですが…皆さんには角が渡るので、上手く加工出来る人なら角から大盾と大剣両方出来ると思いますよ。相当大きいんで」

「本当!?うわ、俺の大剣も刃こぼれしちゃったんだけど…」

思わぬ提案にボーザックが食い付いた。

もちろん、俺達に異存は無い。

ただひとり、ファルーアだけが居心地が悪そうだった。

「…メイジに使えるような加工って無いのかしら?」

「あ…そうですね…革で防具を足すか…、あ、いや、ちょっと待ってくださいね。上手く回収出来ていれば…」

マローネは資料をぺらぺらとめくり、表面に指を奔らせていたが、それをぴたりと止めた。

「わあ…素晴らしい。…ありました、物凄く物凄いやつ」

「物凄く物凄いやつ?」

ファルーアが眉をひそめる。

「はい。なんと、タイラントの眼です」

「眼…??」

「ドラゴンの瞳は、何故か死んじゃうと結晶化するんです。魔法の威力を高めてくれるすごーい結晶なので、大きな球なんですけど、杖にはめ込む素材になります」

「それはまた…すごいわね」

「ええ!今回は片目だけなので、物凄く物凄いレアですよ!」

そういえば迅雷のナーガが、片方を潰してたなあ、と思い当たる。

「…そんなすごい物、貰えるの…?」

「ええ。数が少ないので眼の処遇って国同士で揉めるんですよ…だからこっちとしては、魅力があっても持ってたくない部位で…」

「よし、決まりだ。とりあえず眼は貰う」

「え、グラン!そんな、いいの?」

ファルーアが驚いた顔をする。

「当たり前だろう、白薔薇の大事な後衛が強くなるに越したことはないぞ」

「そしたら、眼と、革鎧2着分の革、角…ときたから…」

じゅるりと、グランが舌舐めずりをする。

皆は顔を見合わせ、ゆっくり頷いた。

「人数分の肉、なんとか出来ないか?ギルド長。頼む!!」


******


グランがでかい角を背負い、宿に戻る。

名誉勲章の発行は少し時間がかかるらしいので、それ以外を先に頂戴して帰ることにしたのだ。

角の大きさたるやグランの身体ぐらいあるもんで、注目を浴びる、浴びる。

宿にいた冒険者達が、思わず席を立ってまで見るくらいだ。

飛龍タイラントの角だってことは説明が無くともわかるんじゃないかな。

しかし俺達はそんな冒険者達には目もくれず、バーカウンターでお酒を注いでいたマスターの元に詰め寄った。

「マスター、頼みがある」

グランが、鬼気迫る顔でカウンター越しに眼を光らせる。

その表情とは裏腹に、そっ、と優しい手つきでカウンターにあるものが載せられた。

黒いてかりのあるスーツで、髪を撫でつけている紳士風のマスターが、片眉をつっと上げる。


「この、タイラントの肉を…っ、最高のステーキに変えてくれないか…!!」


うおお!!


歓声のようなものが後ろからどっと湧き起こった。

ディティアとファルーアは堪らず少しだけ首を竦めている。

「…何故、私に?」

マスターは酒を客に渡すと、落ち着いた声で返してきた。

「マローネからの紹介だ…、あんたが最高のステーキを作ると…っ!」

なんていうか、獣。

空腹で、飢えた獣がそこに。

俺達は期待いっぱいに彼の返答を待った。


「マローネですか…それでは断れないですね。承りましょう」


「いよっしゃあー!!」

何故かたむろっていた冒険者達も歓声をあげる、不思議な空気の共有がそこにあった。


******


夢のような時間だった。

出されたステーキに美しい白薔薇が1輪添えてあって、マスターの粋な計らいに俺達のテンションは天井を突き抜ける勢いで。

大金も手にしていたし、そこにいた冒険者達にもお酒を振る舞い、飲めや騒げの宴が催された。


ステーキは程良く火が通り、肉の味を邪魔しないソースが掛けられていた。

噛めば噛むほど溢れる甘い肉汁。


ああ、最高のステーキだった…。


もちろん、俺達が白薔薇だと知って話し掛けてきたり、逆鱗のハルトを探してやってきたり、疾風に会いにきたり。

俺達の周りは人が絶えなかった。


だいぶ出来上がった俺達は、眠り掛けているボーザックをなんとか部屋まで誘導し、改めて杯を交わす。


「やったな」

グランが立て掛けた角を摩る。

「うん、一躍有名人になったな」

俺はにやりと笑って見せた。

グランは頷くと、

「…もっと強くなるぞ、俺達は。…後は、俺を認めさせる2つ名持ちを探さねぇとなあ」

そう言って唇の端を吊り上げた。

「うわあ、それボーザックも言ってたよ」

「ははっ、だろうなぁ。けどよ、逆鱗のハルト」

「……」

「閃光の強さは誰もが知ってる。好きになれねぇ奴かもしれないが、その名前、すげぇと思うぞ。中々格好いいしな?」

「あ…お、おう。…グランがそう言うなら」

「ふ、本当はそれなりに気に入ってんだろ?」

「…最初は、嫌だったけどさ。たくさんの人に呼ばれてたら、それなりには、ね」

グランは、そのいかつくてごつい手で、俺の頭をぐりぐりと撫でた。

「俺は嬉しいぞ、ハルト」

その言葉に、俺の胸は熱くなった。

俺、このパーティーで強くなりたい。

もっともっとたくさんの冒険を、皆でできたらいい。

グランは満足そうに頷いて、お酒をあおった。


「悪いが、盾と大剣を造るのに行きたい場所があるんで付き合ってもらうぞ」

「ああ、任せとけ」


毎日0時更新予定です。


よろしくお願いします!

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