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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ アイシャ
794/845

爆には爆の矜持があって②

******


 次の教室も治療を終え、俺は醸造所に向かうことにした。


 日はまだ高い。うまくいけば町長邸にも行けるかもしれない。


 とはいえ……移動手段を残していなかったんだよな。


 まあ勝手知ったる故郷だし迷う心配はないんだけど。


 仕方ないので俺は自身にバフを重ねて移動することを決める。


 そういえば久しぶりだな、こういうの。


「さて、行くか! 『持久力アップ』『速度アップ』『速度アップ』『脚力アップ』」


 トントン、と爪先で足下を叩き、すっと息を吸う。


 風向きのおかげなのか、布がなくても喉に違和感はなさそうだ。


「ふっ……!」


 気合いを吐き出し地面を蹴って駆け出せば、風が頬をなぶった。


 町は静かで気配はあまりないが、どうやら避難していないひともいるらしい。


 これがわかるのも〈爆風〉が遊びだなんて言って鍛えてくれたからだな。


 路地を抜け、目抜き通りを走りながらさっと視線を巡らせれば、傷付いた壁や焼け焦げた街路樹が確認できた。


 感じるのは焦げ臭さ。まだ燻っている区画もあったはずだ。


 だとしたら、もう少し町の様子も知りたいな――。


 俺は考えてすぐに実行に移す。


「『脚力アップ』『脚力アップ』」


 速度アップを脚力アップに書き換え、積んであった木箱に跳び乗る。


 そのまま上へと手を伸ばし、屋根の縁に手をかけた。


「『腕力アップ』『腕力アップ』ッ!」


 脚力アップをさらに書き換え、体を引き上げて屋根に着地した俺はぐるぐると肩を回す。


 うん、調子いいんじゃないか? こんな芸当、昔の俺なら絶対にできない。


 見回せば、醸造所の大きな建物が見える。


 それとは違う方向に町長邸の尖塔が突き出しているのもわかった。


 ちなみに俺の家は醸造所方面で、養成学校からそんなに離れていない。


 グランやファルーアの家は町長邸方面だったと思うし、ボーザックもたしかあっちだ。


 そういえばディティアの家はどこなんだろう。


「……『速度アップ』『速度アップ』」


 俺は首を振ってバフを書き直し、屋根の上を駆け出した。


 ちゃんとやることやって、それから考えよう。きっと大丈夫だ。



 そうしてしばらく進んだとき。



 ぞわ、と背中に悪寒が駆け抜け、首筋がチリリとした。


「……ッ!」


 すぐ近くにあった煙突に張り付き、息を殺す。


 ゆっくり、少しずつ空気を肺に入れ、跳ねる心臓の鼓動が静まるのを聞きながらあたりを警戒する。


 ――間違いなく殺気だった。


 バフを書き換えたいけど、下手に動いて察知されても困る。


 見える範囲にはなにもいない。


 だけど――。


「……ッく、うぉあッ⁉」


 迫るなにか(・・・)はすぐ横。


 体を捻りながら双剣を抜き放った俺は足を滑らせ、慌てて隣の屋根に飛び移った。


「……うん、いい動きだ。体の軸がズレないよう気を付けろ〈逆鱗〉」


「って! ば、〈爆風〉かよ! はあぁー……」


 俺はへなへなと膝を折り、盛大にため息をつく。


 考えてみたら脚力アップはひとつしかかけてない。


 飛び移れてよかった……。


「こんなところでどうしたんだよ」


「結構な速さで移動する気配だったからな。確認しにきた」


「俺だってわかって殺気出してたくせによく言うよな……」


「ははは。わかっているならお前も俺だと気付け」


 俺はむうと唇を尖らせ、肩の力を抜いて立ち上がる。


「それで、養成学校の治療は終えたのか?」


 双剣を収めると〈爆風〉が聞いてきた。


「いや。まだ六つある教室のふたつだけ。ヒーラーが足りなくてさ。それで醸造所の治療も始めちゃおうと思って。ヒーラーが何人かはいるだろ?」


「ふむ。たしかに三人は確認したな。昏睡状態の者もそう多くはない。ほとんどは養成学校に逃げたとみていいだろう」


「三人か。眠ってるひとが少ないならそれでもいけるはず。……〈爆風〉、遊撃部隊として動くなら町の中心あたりに陣取るのがいいと思うんだけど、どうだ? あの薄ら見える少し高い塔があるところが中心。あれは広場の貯蔵塔で町の一番高い場所なんだ」


「いい考えだと言いたいところだが、そのすぐ向こうが燻っていて煙が上がっている。わざわざそんな場所には降りないはずだ。曲がりなりにも人間を使うのだからな、怪我でもされたら困るだろう」


「あ……そうか。それならこのあたりのほうが見通しも利くよな」


 俺がぽんと手を打つと〈爆風〉は頷いて動き出した。


 移動しながら話そうってことだろう。時間も惜しいしな。


「そうなる。幸いこのあたりは避難も済んでいるようだ。誰かを巻き込むこともないだろう。ここに誘導できればいいが――さて」


「誘導かぁ。仲間を増やしたいんだったらひとが多いところに降りるだろうし……」


「始祖人であることを見抜かれると困るのであれば、ひとが多いところに降りるのは避けるかもしれん。いままで遊撃部隊が操られていることを考えれば、それでも十分に目的を達成できるだろう」


「おお、たしかに。じゃあ、ある程度の広さでひとがいない場所ってのは絞れそうかな」


「はっきりとはわからんが、参考程度にしてもいいかもしれん」


 俺はバフを広げて〈爆風〉にも重ね、醸造所へ向かいながらいくつか予想を立てた。



「あの通りもそれなりに広いかも……こんなもんか。あとは敵が降りたあとにどうするかだけど――」



 そうだ、それなら俺たちが有利な場所に誘導できるかもしれない。


「〈爆突のラウンダ〉はどんな場所で戦うのが得意だったとかあるのか?」


「ふむ。それなりの広さがあるほうが動きは速いが、場所はあまり選ばなかった。話したろう? 俺たちは人間相手に戦うこともあったからな。室内、洞窟内、なんでも対応できる」


「あー、そっか。さすが伝説の〈爆〉だな」


 思わず苦笑すると〈爆風〉はどこか遠くに想いを馳せるように言った。


「まさかこんな形で相対するとは思わなかったがな――」

 

こんばんは!

本日もありがとうございます。

首をやってしまいまして、痛みと相談しながらちまちま書いています。

せっかく再開したのに数日おきで恐縮ですが、

引き続きよろしくお願いします!

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[一言] わぁお!! ご無理は禁物ですよお!! 待ってまーす^ ^
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