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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ アイシャ
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帰還は名声とともに④

「ふむ。敵の降下地点はいままでどうだった?」


 そこで〈爆風〉が口にするとギルド長が地図を指して唸った。


「比較的開けた場所に降りる。ただ、決まった場所というわけではなさそうだ。この広場や倉庫のあたり、目抜き通りのこともあったな」


「そのときの冒険者の配置は」


「基本的には迎撃だ。避難所になっている場所に守りの人数を割いていた。遊撃部隊を導入して巡回させてはいたが――」


「昏睡、または消息を絶って敵側に回ってしまった。そうだな?」


「そのとおりだ、面目ない」


〈爆風〉は琥珀色の双眸を僅かに伏せ、なにか逡巡する素振りをみせたあとで頷く。


「ならば次の遊撃部隊は俺たちだ。降下地点で〈爆突〉を捕捉、戦闘に入る」


 うん、それが妥当だよな。俺たちにはバフがあるし。


 始祖人が操れる範囲が限られているとすれば、降下地点で押さえれば操られた人々の動きも止められるだろう。


「屋根の上なら移動が楽かもな」


 俺が頷くと、ギルド長と学長は顔を見合わせて首を振った。


「そりゃ困る、もし操られでもしたら……」

「メイジ部隊も出すとしたら避難所の守りも手薄になってしまうよねぇ」


「それについては問題ねぇ。催眠に関してはバフで対処できるからな。始祖人が操れる範囲も制限がありそうだ。俺たちで足止めすりゃ被害が広がるのを防げる。……あぁそれと、バッファーとヒーラーを集めてくれ。可能なら魔力回復の妙薬もだ。昏睡状態の奴らを治療できるだろうよ。すぐに起きるかはわからねぇが、うまくいけば守りの人数もかさ増しできるんじゃねぇか?」


 グランの言葉に、ふたりは今度こそ目を丸くする。


「治療法がみつかったのか?」


「お達しとやらには書いてなかったんだな。薬はまだ完成していないから荒療治だけど、バフとヒールで治療できそうなんだ。バッファーがいるなら『浄化』を覚えていてくれたら助かるんだけど

――」


 ギルド長に返しつつ俺がぼやくと、ファルーアが肩に掛かった髪をさらりと払いながら言った。


「そればかりはハルトに対応してもらうしかないわね。あとはほかの避難所にも情報共有しないとよ? 敵の人数はどれくらいなのかしら」


「三十から五十かねぇ。全部を把握できていないし増えるから、途中からわからなくなってねぇ」


 答えたのは学長で、ファルーアは〈爆風〉を見た。


「伝説の〈爆〉は同じ〈爆〉で押さえるとして、私たちで対処できるかしら」


「ははは。俺が鍛えているんだ、その程度なんとかしてもらうぞ〔白薔薇〕」


「じゃあそっちを片付けたら〈爆突〉に挑んでもいいってことー?」


「おい、構わねぇが集中しろよ?」


 ボーザックがポンと手を打つのに、グランが眉を寄せて顎髭を擦る。 


 駄目だと言わないのは、グラン自身も興味があるからかもな。


 まあ、自分がいま〈爆〉相手にどう動けるのかは知りたいと俺だって思う。


「怪我人くらい俺がなんとかしてやる。存分に暴れてもらっていいぞ〔白薔薇〕」


 意気込む俺たちの雰囲気を察したのかアイザックが笑ったので、ギルド長と学長の空気が幾分和らいだ。


「それなら許可しないわけにもいかないか」

「だねぇ」


「それじゃあグランさん、早速私たちでほかの避難所を回りましょう」


「ああ。俺とファルーア、ボーザックは町長邸だ。ディティア、〈爆風〉とフェンと醸造所を頼む。ハルトは〈祝福〉と昏睡状態の治療を開始してくれ。トール、悪ぃがメイジとバッファー、ヒーラーを集めてくれないか。〈爆炎〉にはメイジ部隊員の選定を頼みたい」


「お、俺? おお、任せてくれよ!」


「ほっほ、了解した。さあて、どの程度の素材がおるかのう」


 トールと〈爆炎〉が応えて、俺たちはすぐに動き出す。



 まず俺がやるのは昏睡状態の冒険者や町のひとたちの確認と治療だな。



******


「随分前、お前らの学校に〈疾風の〉を見にきたが、設備も整ってるし規模がでかいよなこの養成学校は」


 教室を周りながら歩いているとアイザックが言うので、俺は笑った。


「そうなのか? ほかのところは知らないけど――ふ、あいつにディティアを渡さなかったことを心底誇るぞ俺は」


「はっは。お前、本当に〈疾風の〉が好きなんだな」


「は? あー、まあ、うん……そりゃ」


「…………」


 俺が頬を掻くと、アイザックは目を見開いて立ち止まる。


 窓から差し込む陽の光が廊下を照らす木造の校舎は、陽だまりと埃の匂いがして懐かしく思った。


「お前どうした。とうとう成長したのか?」


「はあ?」


「前ならこう……『好きに決まってるだろ?』とか言っただろ、そうだろ⁉」


「……。それを成長っていうならそうかもな! ふん、次の教室行くぞ」


 気恥ずかしくてツンケン応え、俺はずんずんと歩を進める。


 教室は六つが昏睡状態のひとや怪我人で一杯になっていて、ほかのひとたちは集会を行う広間や残りの教室に雑魚寝状態だった。


 一部の冒険者は校庭にテントを張り、見張りなども兼ねて寝泊まりしているようだ。


 するとアイザックがいきなり俺の背中をバシンと叩いて笑い、言葉を発した。


「いっ……」


「一気に治療するなら魔力回復の妙薬かヒーラーが何人かほしいな。〈逆鱗の〉、お前はどの程度バフが使える?」


「広げてなら教室ふたつぶんは間違いなくいける。教室六つならまあ魔力切れにはならないかな。でもほかの避難所にも同じくらいいるとしたら少し休まないと厳しいと思う。たぶん」


 正直、魔力切れになったときにどの程度バフを使ったかは覚えていないからな。


 ただ、回数でいうならかなり使ったってだけだ。


「バフの感覚はわからねぇが、本当にすげぇな〈逆鱗の〉。それだけの回数を重ねて強化に使ったら始祖人や操られた奴相手でも対抗できんだろ」


「バフ切れの状態は知ってるだろ。俺が気絶でもしたら最悪だぞ」


「自分で気絶とか言うなよ……まあ飛龍タイラント戦の件は隠したみたいだけどな? 名声とともに帰還ってのも大変だろ? そのへんはうちの大将が一枚上手だぞー」

 

「うっ……いいんだよっ、そんなところで勝ちたくないしッ!」

 

 俺はアイザックを一瞥して鼻を鳴らした。


「ほら、ヒーラー確保して始めるぞ! 一気にやったほうが早く済むし!」


「ははっ、わかったわかった!」


 歯を見せて笑うその表情はボーザックに何処となく似ている。


 ふと、父さんと母さんはどうしているのかな、と思った。



こんにちはー!

本日もよろしくお願いします。

2/29とか感慨深いですね。

また四年後もなにかしら書いて続けてたいなぁと思います。

引き続きよろしくお願いします。

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