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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ アイシャ
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帰還は名声とともに③

 途端に構えていた冒険者たちがざわりと震えた。


 いや、比喩じゃなくて本当にこう……波打ったというか。


 俺たちが口元の布を取り払うと、声を掛けてきた冒険者が長剣を収めて駆け寄ってくる。


 その姿を見て、俺は「ああ」と手を打った。


 彼は俺たちの同級生であり、ディティアのために尽力してくれた過去がある。


 俺より少し背が低く、濃い茶色の髪と同じ色のぱっちり眼をした美男子。


 白い鎧なのも変わらずで、たしか名前は――。


「トールさん!」


 そうそう、トール。


 俺はディティアが微笑んで呼んだ名を口の中で反芻した。


 ディティアのパーティーだった〔リンドール〕――ディティア以外は命を落としてしまったが――彼はその家族から〈疾風〉に宛てた手紙を用意してくれたのだ。


 たくさん「ありがとう」と記されていたことを俺も覚えている。


「うわ、元気だったか〔白薔薇〕! まさかここで会えるなんて――」


 少し疲れて見えるが、彼は弾けるような笑顔をいっぱいに浮かべた。


 この人懐っこそうな雰囲気がボーザックと似ているんだよな。


「悪ぃな、急いでたんでこんな登場で。至急現状の確認がしてぇんだが」


 グランが言うと、彼は聞いているのかいないのか後ろを振り返って大声を上げた。


「おい皆! 彼の飛龍タイラントと災厄の黒龍アドラノードを屠りし英雄たちの帰還だ! それと、そっちは――いや待てよ、そのトゲトゲした杖に見覚えが……う、うわッ! まさか〔グロリアス〕の〈祝福のアイザック〉さんと〈爆炎のガルフ〉さん⁉」


「それだけじゃないですトールさん! こちらは〈爆風のガイルディア〉さんですからッ!」


「えぇッ⁉ で、伝説の〈爆〉がふたりも……!」


 勢いよく追加したのはディティアであり、トールが目を泳がせる。


 これには集まっていた人々のざわめきが一際大きくなり、やがて歓声へと変わった。


「わー、久しぶりだねこの感じー」


 ボーザックが笑う。


「いまはそれどころじゃないでしょう?」


 呆れ声で言いつつ、ファルーアは妖艶な笑みを浮かべていた。


 満更でもない気もするな。


「ええと、ごほん。情報だよな。ギルドの機能が養成学校に移されてるんだ。学長とギルド長が共同で対応に当たってる。こっちに」


 トールは興奮気味に言うと、足早に歩き出した。


 彼の後ろにメイジらしき男女と細身のレイピアの女性が続く。


 彼らも俺たちの同級生のはずだ。


 ところが。トールたちに続いて踏み出した俺の耳に、いつものアレが触れた。


「ねえどれが〈逆鱗〉? なんか不人気地味職のバッファーなんでしょ?」

「らしいな。あの〈閃光のシュヴァリエ〉が名付けたらしいけど……冗談だったんじゃねぇの?」


 冗談ならよかったぞ俺だって。


 それに誰だ不人気地味職とか言ったやつ! 間違ってはいないけどいま関係ないだろ!


 思い切り顔を顰めて視線を向ければ、まだ駆け出しらしき雰囲気のふたり組が「やばっ」と顔を背ける。


 あいつらだな?


「うう、あの子たち……ハルト君はすごいのに。ひゃ!」


 俺は何故か飛び出していきそうなディティアの左手を掴んで、ばっちり片目を瞑ってみせた。


「任せろ。――バッファー舐めんな! 『知識付与』ッ!」


 ディティアの手を放しありったけ広げたバフが集まった冒険者たちを包み込むと、僅かな時間彼らの動きが止まる。


 バフに込めたのは飛龍タイラントに飛び掛かるその瞬間だ。


 ちなみに、そのあと吹っ飛ばされて気絶した部分は入れていないけどな。


 あんなにざわついていた冒険者たちがしん、と静まり返ったのを横目に、俺はさっさと歩き出す。


 トールも驚いた表情で立ち止まっていたので、俺はその肩をポンと叩いた。


「行こうトール」


「あ、お、おう。……すごいな、バッファーってこんなこともできたんだ?」


 ふふん、そうだろ、そうだろ?


 ほんと『知識付与』覚えてよかったな、ここまで役立つとは。


 俺がニッと笑うと、トールは微笑んで再び歩き出した。


 もうバッファーを馬鹿にするような台詞は聞こえない。


 聞こえないが――。


「やっぱり〈閃光のシュヴァリエ〉様はすごいんだわ。才能を見抜いていらっしゃったのよ、きっと」


 何故かあの嫌味なやつの株が上がったことは、心底残念でならなかった。


******


「現時点で確認できた避難所は三カ所。養成学校、町長邸、町の醸造所だ。それぞれに傭兵や冒険者が集っているが、もう何度も耐えられる状況にない」


 そう言って町の地図を指し示すのは、薄くなった黒髪を短く切り揃えた中年の冒険者らしき男性。彼はギルド長だ。


 隣のもうひとりはモサモサした顎髭を蓄えた年配の男性で、こっちが養成学校の学長である。


 見て驚いたけど俺たちの頃から変わってないんだな、学長。


「襲撃は五日前後に一度。三日前後攻防が続いて、また波が引くように敵がいなくなるの繰り返しだ。既に何度も凌いでいるが、ここ何回かで相手の数が増えてな。しかも〈爆突のラウンダ〉と〈爆呪のヨールディ〉が目撃されている。王国騎士団から注意喚起がなされたが、なにせ操られる条件が不明だったため対策できていなかった。昏睡状態の冒険者も多い」


 ギルド長が続けると、学長はグランの顔をしげしげと眺めた。


「しかしまさか、君がねぇ。よく大盾壊してたからねぇ……」


「んぐッ……お、覚えて……? あー、すんませんでした」


「いやいや、〈疾風のディティア〉や君たち〔白薔薇〕のお陰で別の町からも入学者が増えたんだよねぇ。だからいまの襲撃にも対応できていたんだ。伝達龍で君たちの作戦に従うようお達しまできているし、任せたいんだけどいいかねぇ」


「伝達龍で? 〈閃光〉の根回しか?」


 グランが聞き返すと、控えていたアイザックが頷く。


「そうだ。この町が最後に襲われたのは二日前。すぐに作戦立てて動いたほうがいいな」


「えぇと、敵は空から来るんですよね? そこを迎撃したいけれど――まだ例の武器の手配はできないですから、メイジたちの力が必要でしょうか」


 ディティアが口元に手を当てながら呟く。


「おそらく、その時点で〈爆呪〉が仕掛けてくるのぉ。足止めや妨害こそ奴の常套手段じゃ」


 髭を撫でながら〈爆炎〉が返す。


「ならこちらはそこで〈爆呪〉を捕捉して捻じ伏せましょう」


 ファルーアが妖艶な笑みをこぼすと、グランが顎髭を擦った。


「よし。メイジ部隊は準備するとして、あとは降り立った敵と始祖人対策だな」


グランが大盾壊す話は本の一巻に書き下ろしで収録されています。

よかったら、よかったらぜひ……


いつもありがとうございます!

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