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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ アイシャ
790/845

帰還は名声とともに②

******


 丘陵の町フルシュネ。


 俺たちの故郷であり、ディティアを正式にパーティーに迎えた町だ。


 なだらかな丘が連なり、見渡せば小さな林や森が点在する草原が広がる。何処までも続く長閑な光景は心が和らぐようで、冒険者養成学校の野外実習で薬草を探したのが懐かしい。


 少し離れた運河から水を引き丘の斜面で農作物を育て、それを加工・販売するのが町の主な収入源だ。特産品はグレプと呼ばれる果物とそれで作る酒。


 成人する前に町を出た俺たちがフルシュネの酒をちゃんと知ったのは別の町の酒場だったのを思い出す。


 町自体は連なる丘のひとつ、天辺を中心に裾へと広がっており、それなりに大きい。



 けれど。



 いまや町と畑はところどころで黒煙を上げ、離れていても煤の臭いを感じるほどだった。


 それなりに大きな町だからこそ、上がる煙が一帯の空を染めているのがはっきりわかる。


「酷ぇな……」


 少し離れた丘に風将軍(ヤールウィンド)で降り立った俺たちのなかで最初にこぼしたのはグランだ。


 空気はイガイガしていて、俺たちは布を口元に当てた。


「フェン、大丈夫か?」


『がう、グルル』


 聞くとフェンが大きく尾を回す。


 砂漠で口元を覆った布があればな、と考えたところで、ロディウルがフェンの鼻先をフードのようなもので包んで言った。


「これでマシになるはずや。けど、このまま戦わせると噛み付きんときに負荷が掛かるから気ぃ付けや」


「わかった」


 俺が頷くと、目を凝らしていたボーザックがこっちを振り返る。


「いまなら空から行けるんじゃないかな。黒い魔物も見えないし」


「戦っている雰囲気もなさそうね。それでグラン、私たちはまずどうするのかしら」


 ファルーアが聞くと、グランは皆を見回した。


「まずは冒険者養成学校に降りるぞ。町の避難先になっている可能性が高いだろうよ。降りるための広さもある」


「そうですね。敷地内、最悪は屋根でも」


「うん、屋根か。それもいいかもしれん」


 ディティアと〈爆風〉の言葉に露骨に嫌な顔をしたのはアイザックだ。


「おいおい。こちとら〈爆炎の〉がいることを忘れんなよ?」


 そういやそうだったな。


 俺たちと一緒に〈祝福のアイザック〉と〈爆炎のガルフ〉がいるのは変な感じがする。


 過去に遺跡調査をしたとき以来だ。


「ははは。問題ない。その場合は俺が爺さんを抱えて降りる。〈逆鱗〉のバフがあれば爺さんひとりでもなんとかなるかもしれん」


 さらっと〈爆風〉が言ったけど、ガルフは「ほっほ」と笑って「老体は労ってもらわんとの」などと続ける。


「問題ねぇなら話を進めるぞ。降りたら情報を集めて次の襲撃に備える。フェンは万が一にも始祖人が紛れていないか注意しといてくれ。ロディウルは一帯に石が埋められていないか捜索を頼む。始祖人(しそびと)の潜伏先がわかったとしても突っ走らず一度報告してくれ」


 グランは言ってから僅かに躊躇いをみせ、それでも口にした。


「避難先に家族がいなくても、すぐに捜索に出られねぇ可能性がある」


「……ええ。わかっているわ。早急に情報を集めてなんとかしましょう」


「……」


 応えたファルーアにディティアが唇を引き結んで頷く。


 俺はもう一度黒煙を上げる町を見詰め、ふーっと息を吐いて腹に力を入れた。


「目標は町の制圧だったな。操られている奴がいたら片っ端から治療する。頼んだぞアイザック」


「はっ、お前、言うようになったな〈逆鱗の〉! いいぞ、任せておけ」


 頼もしい返事とともにトゲトゲしい杖をブンと回すイカツいヒーラーと拳を突き合わせ、俺たちは再び緑色の怪鳥の背に乗った。


******


 ところが、である。


 まあ当たり前といえばそうなんだけど、養成学校の上空に現れた怪鳥に気付いた冒険者たちが武器を構えて集まり、なんなら盛大に魔法がぶっ放された。


 仕方ないよなぁ。空から襲われていただろうし。新手に思われたんだろう。


 家族も町のことも心配だったけど、あれだけの冒険者たちが集まっているのは心強い。


 ロディウルが一度高度を上げてくれたので、俺は隣にいるボーザックに話しかけた。


「戻って徒歩ってのも時間が勿体ないし、肉体強化重ねて飛び降りるのはどうだ?」


「そうだねー、それなりの高さでもなんとかなるだろうし。魔法はファルーアと〈爆炎のガルフ〉がなんとかしてくれるんじゃない?」

 

「だな。ロディウルにはできるだけ低空飛行してもらって、そのあいだに降りよう。さて、じゃあ共有しようか。『知識付与』!」


 俺がバフを広げると、ややあってからアロウルを筆頭に全部の風将軍(ヤールウィンド)が『クルル』と嘶く。


 これは同意の合図だ。


 こんなところで海上で使った手が役に立つとは、なにが起こるかわからないものである。


 感慨深い。


 俺はすぐに背嚢から這いだし、轟々と唸る風のなかで『肉体強化』を広げて四重にした。


「準備できたぞ、頼む」


 自分たちが乗る怪鳥の背をポンと叩けば、『クルクルッ』と鳴いて合図を返す。


 確認すれば、皆ちゃんと怪鳥の背に出ていた。


 そこからはフワッと胃が浮くような感覚とともに頬をなぶる風が強くなる。


 地面がぐんぐんと近づいて、アロウルが低空を滑るように飛翔しながら再び嘶いた。


「いくぞ!」


「りょーかいッ!」


 俺とボーザックは同時に踏み切って空中に体を踊らせる。

 

 すっ飛んでくる炎の塊を空気の塊が蹴散らし、おぉーやっぱりファルーアと〈爆炎のガルフ〉はすごいなーなんて考えられるくらいには余裕があったりして。


 あとは着地と同時に転がって衝撃をいなし、肉迫してくる冒険者がいれば助けにきたと説明するだけだ。



 ――そうして。



 無事に着地した俺たちを冒険者たちが取り囲んだとき。


「嘘だろ……あんたら! 〔白薔薇〕かッ⁉」


 どこかで聞いたことのある声がした。


長らくお待たせいたしました!

再開します!

ほんとにすみません遅くなりました。

来てくださっていた皆様に感謝を。

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― 新着の感想 ―
[一言] 待ってましたー!! こういう時はハルト君のバフ!! って、こんな使い方も出来るようになっていたとは・・・ むむむ、かっこいいぞ〜「逆鱗のハルト」!! (って言ったら、とってもヤーな顔されそ…
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