皇帝は偉そうですか。②
ハイルデンとヴァイス帝国国境の街ガライセン。
巨大な河に面して作られた、貿易の街。
河を利用して、ハイルデンからヴァイス帝国には鉄や宝石、果物、お酒を輸出。
ヴァイス帝国からは農産物や布を輸出しているようだ。
ハイルデン王都はハイルデン国の南の方にあるので、国境が近い。
だからここ、ガライセンとの距離はそんな無いわけで、それもあって王都には露店街がたくさんあって、物が豊富だったんだな。
ガライセンは、石造りの家が立ち並び、その軒先が露店になっていたりする。
露店の屋根は布張りで、その布がカラフルだから街全体が明るく彩られていた。
「…また、えらく賑やかだな」
グランが辺りを見回す。
冒険者や商人らしき風貌の人が、溢れんばかりなのである。
そう感じるのは無理も無い。
「王都には冒険者はあんまりいなかったしねー」
ボーザックもそう言って、ぽんと手を打った。
そう、その通りなのだ。
「あ、奴隷制度が無くなったから、王都にもこれからは冒険者が増えるかなー?」
ボーザックはうきうきと辺りを見回している。
その足元をフェンが歩いていた。
「そうだといいね」
消えそうになった発言を、ディティアが拾ってあげた。
「それにしてもこれだけ人がいるってことは、元々ここには奴隷制度はあまり関係無かったのかしら?」
「いんや、そんなことは無いぞ」
「そうなの……って、え?」
ファルーアの言葉に応えたしゃがれ声。
俺達は驚いて振り返った。
「船の荷卸しや運搬作業には奴隷が使われていたさ、大切な働き手だよ。けど制度が有ったって無くったって、ここガライセンでは、元々奴隷に賃金を払ってたからな」
立っていたのは杖のご老人。
爆炎のガルフを縮めたような風貌で、白い髭は長い。
「ほとんどの奴隷が希望して同じ仕事についとる。そんなもんじゃ、ガライセンではな」
「ふうん、おじいちゃんは奴隷を雇ってた側だったの?」
ボーザックがおじいちゃん呼ばわりして、一瞬ひやっとしたけど、ご老人は逆に笑った。
「ふぉふぉ、逆だ。儂は仕える方……奴隷だったんじゃよ」
******
ご老人の名前はギ。
一文字、一言で、ギ。
数年前に奴隷狩りに遭い、売られようとしていた時のこと。
通りがかりの貴族に助けを求めたんだそうだ。
「老体にむち打って奴隷にするなんぞ、ありえないからの。もう終わったと思っていた」
その貴族は、哀れなギを見て、なんと快諾。
奴隷商人の言い値で彼を引き取ってくれたらしい。
「家も無くなった儂に、貴族は言った。賃金も払うから、執事として少し手伝ってくれとな」
思い返すように語るギは、どこか誇らしげだ。
いい貴族に仕えられた誇りみたいな感じなのかも。
「……さて、それでは付いてくるのだ」
「は?いや…俺達は…」
グランが何か返そうとするのを、ギは遮った。
「こっちだ、さあさあ」
あー、これ強制だ。
早速予定は狂い、俺達は急かすギを追って歩き出す。
いや、ホント、足早いんだよな。
******
入り組んだ路地をどれくらい歩いたのか…ギは立ち止まった。
「あれ?」
俺は、目の前の建物を見上げて瞬きした。
「……え、ギルド??」
そこは、ガライセンのギルド。
他と変わらない石造りの建物だけど露店は出ていなく、代わりに扉の上に剣と盾が飾られていた。
「あら、ギーじい、帰ったの?」
中にいたのは…あれ、冒険者かな?
それにしては装備も無く、派手なオレンジのシャツだった。
高く結い上げた金髪と、気が強そうな赤い眼。
溌溂とした女の子が、俺を見る。
「あら、新入り………えっ、ええっ?」
ぐるりと見渡したその眼に、疾風のディティアが留まったようだ。
っていうか、新入りって言い掛けてたよね、今。
「うわ!疾風のディティア!」
「う、うわ…?」
ディティアがしどろもどろに返す。
女の子はまたもや俺を見た後に、さらに続けた。
「うわ!じゃあ白薔薇!」
「うわぁ…」
げんなりだ。
ちょっとは有名になってきたのかなーとか思ったから、尚更だった。
やっぱ疾風のディティアの名前と容姿は、各国に轟いてるんだな…。
すると、黙っていたギが杖で女の子を殴った。
ボゴッ
あっ、今、痛い音がしたぞ…?
「……っ、ぎ、ギーじぃっ……っ、っ!」
「うわあ、痛そう~」
ボーザックが顔をしかめている。
「早く案内せい」
何も無かったように坦々と喋るギ。
女の子は顔を歪めながら頷いた。
「わ、わかってる!……あたしはガライセンギルドのルファーウ。ルウでいいわ」
「えっ、ギルド員?」
思わず聞き返す。
「……言い間違えたわ。ガライセンギルドのギルド長代理、ルファーウ。ルウでいいわ!」
「いや、名前はくどいだろ」
グランが突っ込む。
ルウと名乗ったギルド長代理は、あれ?と首を傾げる。
……大丈夫か?このギルド。
「とにかく、部屋を用意するから。その辺で待ってて。ギーじぃ、ちょっと手伝って」
「仕方ないの…。では白薔薇の諸君、少し待たれよ」
2人は俺達の一切の返事も待たず、ギルドの奥に消えた。
……そして。
(どうする?俺達めちゃくちゃ見られてるんだけど?)
囁くと、ボーザックが腕組みして頷く。
(これ、何か変に目立ってるよねー)
(視線が痛いわ)
ファルーアは憂鬱そうにため息をついた。
(大丈夫、ファルーアは綺麗だし!)
(ティア、それ何か違うと思うなー)
(えっ?そう?)
(がふ)
戯れる3人と1匹は置いておいて。
何というか……見られている。
それが好意的なのか懐疑的なのか好奇心なのか、さっぱりわからない。
(とりあえず座るぞ)
グランの声に、俺達はそそくさと隅っこの席に移動した。
……改めて窺うと、ギルドのホールは広い。
俺達がいる一画には椅子とテーブルがかなりの数あって、冒険者達が休憩や相談に使っている。
入った正面がカウンターになっているオーソドックスな造りで、俺達のいる一画の向かい側には依頼掲示板がいくつか並んでいた。
結構な数の冒険者が依頼を物色してるところを見ると、やっぱりここは繁盛してるんだろうな。
「ところでだ。何で連れてこられた?」
「私達を白薔薇とわかっての行動だったみたいね」
「うーん、ほっといても来るのにねー」
「急いでたのかな?」
グラン、ファルーア、ボーザック、ディティア。
各々が話し出したところで、ルウが戻ってくる。
「いいわよー、こっち」
俺達は訳も分からず、個室へと招かれるのだった。
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