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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ アイシャ
788/845

騎士は誇りを捨てぬため⑤

「血、結晶……」


 まさかいまこの単語が出てくるとは正直思っていなかった。


 反芻して咄嗟に見回せば、皆も驚いたような顔をしている。


 古代の魔力が増えて、そのひとたちがレイスになったら――とは考えていたけど、そうか。


 レイスになる必要なんてないのだ。


 俺は思わず手を握り締めた。


「そう、よね。そうなるわよね、当然。古代の魔力のことばかり気に掛けていてその考えに至れていなかったわ」


 ファルーアが額に指先を当てて首を振る。


 さらさらと金色の髪が揺れるのを横目に俺はシュヴァリエを見た。


「作れるとして、なにか使う案でもあるのか?」


 たぶん、いろいろ経験する前だったら「だからなんだよ、作るとか言うつもりか⁉」なんて噛み付いていたと思う。


 だけど俺たちは多くを見てきた。


 前に比べたら血結晶についての考えも少し変わるくらいには。


 するとシュヴァリエは意味深な笑みを口元に浮かべる。


「アルヴィア帝国が所有する古代の道具なんていかがかな〈逆鱗の〉」


「……!」


 俺たちが知る限り隣の大陸(トールシャ)で最も血結晶についての研究が進んでいる大国。病を抱えるキィスヘイム=アルヴィアがいる国だ。


 俺は息を呑んで唇を引き結ぶ。


 血結晶を組み込む古代の道具は謎が多く、いまだ解明されていない。それが一般的な話のはずだ。


 でもアルヴィア帝国は新しく作ってすらみせた。


 俺は水中でも呼吸ができる道具の入った袋を指先で撫でる。


 そんな帝国が所有する道具となれば、きっと凄いものだろうな。


「そういえば〈閃光のシュヴァリエ〉はアルヴィア帝国のストーと仲良しだったもんねー」


 考えていると、ボーザックがポンと手を打った。


 ストールトレンブリッジ。通称曲者ストー。


 彼は俺たち〔白薔薇〕の動向をシュヴァリエに伝えていた人物で、アルヴィア帝国皇帝の妹と婚約関係にある。


 確かにやり取りしていれば古代の道具についても聞いているだろう。


「なにか始祖人に対抗できる道具があるんですか?」


 ディティアが聞くとシュヴァリエは頷いた。


「どうやら広範囲に雷撃を閃かせる道具があるらしい。威力も凄まじいそうだよ」


「か、雷……? よりにもよって」


 ファルーアが呻くように呟いたけれど聞かなかったことにする。


「もし彼らの研究が正確でそれを動かせるだけの血結晶と魔力があれば、龍のような魔物は一網打尽にできるだろうね」


「なるほどな。そうすりゃ始祖人が逃げる手段をひとつ潰せるだろうよ。それも一番厄介な手段を」


 グランが顎髭を擦りながら頷く。


 シュヴァリエはにっこりと爽やかな笑顔で続けた。


「話が早くて助かるよ。君たちの話からして、始祖人は自身の血結晶をなんらかの縄張りとして使っているのだろう? こちらがそれを回収すれば、道具への転用だけでなく新たに操られそうな者を引き寄せて捕縛できるかもしれない」


「だとするとフェンに石を探してもらわないとか」


 俺が言うと嫌味な騎士は無駄にキラキラした空気を撒き散らしながら質問を投げてきた。


「同じ始祖なら探すことができる、という可能性は?」


「は? 同じ始祖? フェン以外にフェンリルなんて……いや、そうか。風将軍(ヤールウィンド)……?」


 思わず口にするとシュヴァリエは「ふ」と鼻で笑って優雅に立ち上がる。


 それとほぼ同時に〈迅雷のナーガ〉、〈爆炎のガルフ〉、〈祝福のアイザック〉もガタリと椅子を鳴らした。


「ユーグルのウルは〈爆風の〉とフェンリルを追っているのだったね。彼らが戻り次第、作戦を詰めよう。どう転ぶのかはわからないのでね、それまでは一度体を休めるといいよ〔白薔薇〕。この先、ゆっくりできる時間がどれほどあるかわからない」


「わかった。おいお前ら、休む前に道具の補充に行くぞ。装備に不安があればいまのうちに調整してもらえよ」


 グランが返事をして立ち上がるので、俺たちもそれに倣う。


 するとアイザックがとげとげしたイカツい杖を肩にドカッと担いだ。


「俺と〈爆炎〉の爺さんはお前らに同行だからな。必要なもんの買い出しなら着いていくぞ」


「わぁお、アイザックも〈爆炎のガルフ〉も一緒に買い物するの? 変な感じー」


 ボーザックはカラカラと笑ってそう言うとグランの背中を思いっ切り叩いた。


「俺の剣、調整してもらおうかなー。当然パーティーの財布から出るよねグラン!」


******


 皆も武器と防具の調整をするとのことで、俺はディティアに革鎧と双剣を頼んでとある奴のもとへと赴いた。


 少し気になることがあったから。


 その大嫌いな奴はひとり、町を見下ろす場所でこっちに背を向けている。


「おい、シュヴァリエ」


「〈閃光の〉と付けてくれてもいいよ、〈逆鱗の〉」


「相変わらず面倒くさい奴」


「そういう君も」


「なあ、単刀直入に聞くけど。騎士団、状況悪いのか? ドーン王国で受け取った手紙に余裕がなかったぞ」


「おや、意外だね。君に心配をかけてしまうほどとは」


「断じて心配はしてない」


「ふ。手紙にも書いたとおり、各国とは協力関係にある。しかし今回は対人戦、かつ見知ったものに相対することが多くてね。結果として酷い有様だよ。壊滅した隊もある程度には……ね。そこでドーン王国第七王子殿に頼んだ伝達で各国には更なる協力を依頼した。ひとつ、いままで奪わざるを得なかった命とこれから奪わざるを得ない命に対し、なんの救済もできないこと」


「!」


「ひとつ、血結晶を使った兵器の使用許可」


「あ……」


 息を呑む。


 そう、だよな。


 道具とはつまり兵器なんだ。


 血結晶の作り方を知ったとき、それを教えてくれたザラスさんは言っていた。


 世界中で血結晶による争いが起きていたと。


 たとえ魔物相手であってもラナンクロストの王国騎士団がそれを使うとなれば新たな火種になりかねない。そういうことなんだ。


「僕はね、〈逆鱗の〉。この大陸(アイシャ)で多くの犠牲を払うことに対して既に非情な判断を下した。騎士たちも冒険者たちも納得していないものは多いだろう」


「……」


 でもそうするしかなかったんだろう? とは言えなかった。


 そうであったとしても、こいつは背負わなくてはならなかった。その覚悟を持っているんだ。


 さっき言っていたよな、これから奪わざるを得ない命って。


「僕は騎士だ。誇り高き王国騎士として、護るべき民を天秤にかけなくてはならなかった。いつか糾弾されることがあってもね」


「……」


 わかってる。操られたのが自分の意志でなくとも、それが誰かの命を奪うのなら止めなくてはならない。


 だけど。


「シュヴァリエ、そんな誇り捨てろ」


 ムカついた。


 だってそうだろ!


「いまは治療の目途が立っただろ。薬はまだでも俺がいる!」


 ほかにも掻き集めればバッファーがいるはずなんだ、アイシャには。


 だから。


「お前が持つのは『全員を護るために決断する誇り』だろ! 使えるものは使えよ! バッファー集めろ、俺が浄化を教えて全員対応させてやる!」


 シュヴァリエは俺に向き直ると、僅かに双眸を瞠った。


「ここからは反撃だ。お前がその誇りを捨てないなら俺たち〔白薔薇〕が必ず力になる」


「……ふ、君は本当に僕に噛み付くのが好きなんだね」


「はあ? 気持ち悪いこと言うな! 誰が! ……ん、いや、文句を言うのは気分がいいけど」


 俺が首を傾げると、シュヴァリエは空を仰いで口角を持ち上げる。


「ならば徹底的に使い倒すとしよう。言ったろう? 操られたものを捕縛する指示は冒険者部隊に出すと。君たちを治療役と同時に捕縛役にも使わせてもらう。バッファーの手配も進めておこう。僕同様(・・・)、眠る暇はないと思ってくれるね?」


 そのとき初めて気が付いたんだ。


 シュヴァリエの目元に疲れの色があることに。


 こいつ……ほとんど眠ってないんだ、本当に。


「ふん! 上等だ! グランが断るはずないからな!」


「承知した。さあ、ユーグルのウルの帰還だ〈逆鱗の〉。動くとしようか」


 何故か楽しそうなシュヴァリエを一発殴ってやりたくなったが、俺はグッと堪えてやることにした。

遅くなりましたがそのぶん少し長めです。

切りが悪かったので笑

よろしくお願いします!


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