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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ アイシャ
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騎士は誇りを捨てぬため④

「俺たちの故郷が襲われてるのか?」


 思わず聞き返した俺にアイザックは苦い顔で頷く。


 あそこには俺の両親がいる。


 ディティアをパーティーに誘うべく町を駆け回ったのは遠い昔のようだけど、あのときのことはいまも鮮明に思い出せた。


 当然、俺たちの通った冒険者養成学校もあって皆の家族もいるはずだ。


「状況は? 町はどうなっているのかしら」


 ファルーアは落ち着いた声で言ったけれど、その指先が肩に掛かる金色の髪をひと房ぐるぐると忙しなく弄んでいる。


 心中穏やかではないって感じかもな。


 グランもボーザックもディティアだって複雑そうな顔だ。


 けれどアルミラさんだけは驚くわけでもなく取り乱すわけでもない。


 俺が不躾な視線を送っていると彼女は横目でこっちを見てふん、と鼻を鳴らした。


「あたしがアイシャにいた頃は旅暮らしだったわ。定住していると聞いてはいたけど、町に思い入れがなくてピンとこない」


「そうは言ってもご家族のことは気にしている、かな。アルミラは感情を隠すのが上手いよ。商人らしいところがあるよね」


「うるさいわ。デミーグは黙ってて」


「はいはい、かな」


 そのやり取りが終わるとシュヴァリエは再び口を開いた。


「僕の部隊とは別の隊が救援に当たっているが、そこからの情報だとかなりの被害が出ているようだね。敵は繰り返し町を襲撃させている。これはどこの町でも共通だ。長く操るのは問題があるのかもしれないね」


「そうか。だとしたら俺たちも〈爆風〉とフェンが戻り次第すぐ向かうぞ。タトアルがいなくなったいま、セウォルはここを攻めてこねぇと思うがどうだ?」


「その可能性は高いと僕も踏んでいるよ〈豪傑の〉。念のためギルドで冒険者を募って警備してもらおう。それと先に話した実力のある者たちと戦うための部隊だが、各国のギルドで二つ名持ちを集めたものだ。彼らには操られた者の捕縛を指示しておく。君たちはフルシュネに向かい〈爆〉と始祖人を制圧したのち、各国で治療を進めてくれるかい? ギルドで情報が得られるはずだ」


「……ん? お前は行かないのか?」


 思わず聞くと、シュヴァリエは前髪をさらりと掻き上げた。


「僕の部隊が別の町で戦っているのでね。いまの僕は〔グロリアス〕の〈閃光のシュヴァリエ〉だけれど、騎士としての誇りを捨てることは許されないんだ」


 少しだけ憂うように瞼が伏せられたような気がして、俺は一瞬目を瞠る。


 けれどそれは本当に一瞬で、シュヴァリエはすぐにいつもの嫌味で無駄にキラキラした空気を纏った。


「ただ、今回は僕の代わりに〈祝福の〉と〈爆炎の〉を置いていく。うまく活用してくれたまえ」


「わかった。けど活用してくれたまえってお前……物みたいに言うなよ。仲間だろ」


「ほっほ、〈逆鱗の〉。こちとら慣れたもんじゃ、気にするでない」


 どういうわけか〈爆炎のガルフ〉に返され眉を寄せる俺に、隣にいたディティアが「あはは……」と笑う。


「僕たちの目的は操られた者の捕縛と治療、そして始祖人の討伐だ。昏睡状態の者たちについては、いまは治療できない。戦力の確保を優先しないとならないからね」


「くそ、仕方ねぇな。そこはデミーグの薬ができればなんとかなるだろうよ、期待させてもらうぞ」


「責任重大、かな。全力を尽くさせてもらうよ」


 グランの言葉に軽く首を竦めたデミーグさんだけど、そういえば彼はどうするんだろう。


 ここに置いていくのは危険かもしれない。


 ふと考えると、シュヴァリエと目が合ってしまった。


「研究者殿と〈豪傑の〉の姉上はラナンクロスト王都に移動してもらおうと思う。かつて魔力結晶の研究を行っていた者がいてね、彼らを手足に使ってくれたまえ」


 なんで俺見て言うんだよこいつ。


 くそ、どうせ俺の顔に出てたんだろ。何度も言われてきたからな!


 イラッとしたけど構ってやる義理もない。


 ふんと鼻を鳴らすと今度はボーザックが俺を見てニヤニヤした。


 なんだよ、もう。


「そうと決まれば研究者殿と〈豪傑の〉の姉上は移動の準備をお願いしたい。こちらは〔白薔薇〕と話したいことがあってね」


「わかったわ。あと、私のほうで魔力回復の妙薬をもっと取り寄せておく。ユーグルの怪鳥を一羽貸してもらえば輸送はできるし。分配先はギルドと連携すればいいわね? 伝達龍、いるんでしょう? 使わせて頂戴」


 アルミラさんはすんなり立ち上がるとシュヴァリエにそう言ってグランを見た。


「家族は任せたわ」


「ああ。そっちも頼む、姉貴」


 そしてソロソロと立ち上がったデミーグさんは思い出したように手を打った。


「そうだ〈逆鱗〉君! 例の緑のふたり(・・・・・)、うまくいったよ。もうバフがなくても大丈夫、かな!」


 俺はその言葉に双眸を見開き、なにか言いたくて口を開く。


 緑のふたりとは、ドーン王国で災厄になってしまった夫婦のことだ。


 子供たちはいまも彼らを待っている。


 ユーグルの監視下にあるはずだけど、少なくとも子供たちと一緒に暮らすことができるだろう。


 成功すると思ってたけど、それでも胸のなかがじわりと熱を持つ。


「……」


 言葉にしたいけれど、できない。


 そんな気持ちだった。


 結局デミーグさんが出ていってもなにも言えない俺の手をディティアがちょんと突く。


「よかったね、本当に」


「ああ」


 深く頷くと、シュヴァリエが机に両肘を突いて手を組んだ。


「さて、一応確認だよ。操られた者たちは始祖の血を持ち、浄化バフが有効だ」


 俺ははっとして唇を引き結ぶ。


 そうだよな、治療だけに使えるものじゃないのはわかってる。


 戦うための力にもなる。そういうことなんだ。


 けれど、続いた言葉は少し違った。


「彼らの血はレイスと同じ状態にある。つまり血結晶になる(・・・・・・)のではないかな」


こんばんは!

元旦から少しあきましたが、ここからはペースを戻していく予定です。


大変な災害がおきているなか、現地に手伝いに行けずともできることをやっていく所存です。

一日も早く現地の生活が落ち着きますよう。

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